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ゴポゴポと怪しい液体が入ったコップをグルグルと回す。 起きている自分ですら口に入れるのは戸惑う。 それをの飲ませることすら。 「こんな趣味じゃねェってのに…起きたら覚えてろおチビ」 何をやるのか分かっていないのは悟空のみ。 首を傾げる少年の傍ら、悟浄は覚悟を決めて思い切りその液体を口に含んだ。 苦味、辛味、気持ち悪さが口内を埋め尽くす。 はっきり言って吐きそうだ。 顔を思い切り顰めながら、の口を開かせる。 「ご、悟浄?何やって…!?」 その薬を悟浄が呑んだって仕方がないだろうに。 悟空の質問をよそに、悟浄はすぐにの口を塞いだ。 薬を含んだ自分の口で。 身体と表情を固まらせたのは悟空。 老婆はどっこいしょと腰をあがらせた。 また、三蔵と八戒はお互いしょうがないとばかりに見つめていた。 口の中の液体を、の口へと流し込む。 無意識に吐き出そうとする舌を止めるために、己のそれを絡ませる。 しっかりと飲ませるように、顎を支えたまま。 コクリ、という音が、小さく響く。 最後の一口まで悟浄は飲み込ませた。 全部流し込んだというのに口内には苦味が残る。 悟浄はから口を離す。 そして。 「…っ!」 すぐさま台所があるだろう場所へと走った。 爆走、というぐらい速く。 「ご、悟浄!?」 今度は何事かと悟空がまた声をあげる。 遠くからは嗽やら何やらをする音が聞こえるのみ。 しばらくして、悟浄が戻ってきた。 どこか青ざめて、口を押さえている。 全員が顔を覗き込む中、悟浄は首を横に振った。 「…超苦ェ」 「うわぁ…」 まだ口内に苦味が残っているらしく、気持ち悪そうだ。 誰もが共感し、顔を顰める。 老婆だけがふんぞり返っていた。 「良薬口に苦しって言うじゃろうが」 「でもこれは苦すぎだわ…ウエッ」 「とにかくこれを全部飲ませないと駄目だからの」 悟浄は傍の椅子に座った。 意気消沈。 下手をすれば、胃の中を戻しそうだ。 老婆の言葉に全員がコップの中身を見やる。 まだコップの中身は四分の三。 まだやっていない彼らの分が、しっかりちゃっかり残っている。 「…悟浄、全部やれ」 「無理」 三蔵の命令もこればかりは無理。 ちなみに老婆は全くやる気がないらしい。 三人はお互い目を合わせた。 どのみち自分に回ってくる。 三人はそのまま恨めしそうに眠っているを睨んだ。 「…俺、やったことねーんだけど、キ、キスとか」 「…頑張りましょうか」 「…生き返ったら殺してやる」 三人は一斉に溜め息を吐いた。 順番を嫌々ながら決める。 キスすらやったことない悟空は悟浄に話を聞きながら覚えていくしかない。 その間に、八戒がやることになった。 (三蔵が拒否したからだ) 「…まさかこうなるとは…」 もうこういうことは終わりだと思っていたのに。 過去失った大切な女<ヒト>で終わりだと思っていたのに。 まさかにやることになろうとは。 苦笑を零しつつ、やるしかない。 八戒も覚悟を決めて薬を口に含んだ。 そしてそのままの口を塞ぐ。 ゆっくりと流し込んで、阻止しようとする舌を絡ませる。 頭を優しく撫でて、大丈夫だと言うように。 意外とすんなり飲み込んでくれたようで、八戒はすぐに顔をあげた。 「…台所借ります」 「……」 やはりマズかったらしい。 あの苦笑が歪んでいる。 悟浄が「な?」と言う中、三蔵は思い切り顔を顰めた。 戻ってきた八戒は、悟浄と同じ表情になって戻ってきた。 いつもの彼の表情はどこにも見当たらない。 「……」 「コメントも出来ねェぐらい酷いってコト」 「…うわ…やりたくねー…」 「悟空、お前戻すなよ。ちゃんとアイツにやらねェと意味ねーんだから」 悟空が思い切りヒく。 しかし、悟浄はさっさとやれとばかりに追い払った。 覚えたことをすぐに忘れるのが悟空なのだ。 早くやっておかないと意味がない。 悟空はとりあえず、コップを手にとった。 ゴポゴポと気持ち悪い音をたてる液体。 しっかりと自分と三蔵の分が残ってるだけ、性質が悪い。 「…青汁青汁青汁青汁、これは青汁」 そう思い込むしかない。 覚悟を決めて、悟空は液体を口へと放り入れた。 一瞬吐き戻しそうになる。 どうにかそれを押し留めて、悟浄が教えてくれたとおりにの口を開いた。 顎を押さえて、口と口を合わせる。 開かれたそこに、ゆっくりと流し込んで、零さないように。 吐き出そうとするから、舌で押さえて。 飲み込み終わるまで、口を離さない。 最後の飲み込む音が聞こえたところで、悟空はすぐに顔をあげて走った。 台所へと。 「マズィィィィ!!!!苦ェェェェェ!!!!」 台所から悲鳴が聞こえる。 全員、キスを通り越して、この薬のマズさがキたらしい。 何でも良く食べる悟空ですら悲鳴をあげるこの薬。 戻ってきた彼の顔は病人のように真っ青だった。 さて、最後は三蔵の番だが。 「…オイ、何かさっきより濃くねェか」 明らかに沈殿しているために、濃さが違う。 ドロドロの液体も、それを通り越してベタベタだろうか。 引き攣る顔を他所に、老婆はのんびりと口を開いた。 「早くやらないから沈殿しちまうんじゃよ。ホレ、さっさと終わらせな」 「このクソババァ……」 他人事とは言え、酷くイラつく。 しかも早くやっておかないと沈殿がもっと濃くなるかもしれない。 それだけは避けなければ。 三蔵は青筋をこめかみに作りながら、それをイッキに口に入れた。 酷い苦味と気持ち悪さに眩暈すら起きそうだ。 それから逃れるべく、さっさとの口に己の口を合わせる。 しかしそれはも同じらしく、無意識に舌が吐き出そうと暴れだした。 飲み込ませないと意味がない。 口の端から零れないように、舌を乱暴に絡めて動けないようにする。 嫌々ながらも、はゆっくりと嚥下していく。 小さくも、最後の飲みきった音が聞こえた途端、三蔵もまた台所へとフラフラしながら歩き出した。 消えていった方面からは咳き込む音すら聞こえる。 「……」 「…………」 もう誰からもコメントすら零れない。 唯頭を抱え、気持ち悪さに耐えるのに精一杯だ。 戻ってきた三蔵はまだフラフラのまま、椅子に大きな音を立てて座りこむ。 四人全員が、大きく溜め息を吐いた。 「…とにかく、アイツ起きたら殺す」 「同感です」 「殺した後も切り刻んどこーぜ」 「で、灰も残らないように焼いちまうか」 町民と同じことを言っているが、それは本気か嘘か。 どちらにしろ、その言葉はには届かない。 ベッドにはあの亀と白龍が、傍で様子を伺っている。 「だらしがないねぇ、最近の若造は」 老婆はやれやれと呆れながら、コップを片付けていく。 そして布団をの上に優しくかけさせた。 浅い息が静まっていく。 普段通りの息遣いに、老婆は小さく笑む。 「もう大丈夫じゃろ。さて、今度は晩御飯でも作るかね」 「…ばーちゃん、今度は美味しいやつお願い」 「分かっとるよ。任せんしゃい」 任せられない気がする。 が、もう動く気すら起きない。 台所に老婆が消える中、四人は気を失うかのようにテーブルに身を預けた。 「…三蔵、あのばーちゃん信じていいのかな…」 「知るか…」 「どっちにしろ、もう薬を入れちゃいましたからね…」 「…もうどうにでもなれってカンジ」 もはや諦めモード。 例え毒薬であっても、もう終わってしまったこと。 後は野となれ山となれだ。 もう何も言うまい。 全員が黙り、テーブルに伏せる。 しばらくした後、戻ってきた少年が「どうしたのお兄ちゃん達」と目を瞬かせるのは、必然としか言い様がなかった。 |