御飯を食べ終わり、蓮が帰り支度をしている間。
は子猫をあやしながらも、自分の心の穏やかさに心底から驚いていた。


好奇心で近づいてきた臨時担任、一目蓮。
彼の言葉に何となく、救われているのは事実だ。
そうでなければ、ここまで何事もないかのごとく、関わってはいない。

久しぶりに感じる、人の温かさ。
生きるモノの優しさ。
それは酷く心地良くて、もっと欲しくなってしまうほど。


(………でも明日になれば………)


明日を考えれば、また、心が凍る。
彼はもうこの世にいなくなってしまう。
この子猫も、一緒に消えてしまう。


(また、消える………大切だと、思えるようになった人たちが)


手を伸ばせば消えてしまう光。
辺り一面はまた、闇に覆われる。

深い深い、闇に。


心に残るのは罪悪感。
悲しみ。
己に対する恐怖。
己に対する憎しみ。
そして大半を占めるのは虚無。


(…俺がこの世に存在する限り、多くの人たちが死んでいく)


家族が事故で死んでから、どれだけの人たちが死んでいっただろう。
手を差し伸べてくれた親戚も。
励ましてくれた友人たちも。
指導してくれた先生方も。
わけもわからず、自分と関わってしまった人たちも。



「……ありがとう」


「ん?」



少女にしては低い、しかし綺麗なアルト。
の言葉に、支度をしながらも未だ地獄少女と彼女を重ねていた蓮が顔をあげる。
そして彼は、見えている片目を大きく見開いた。



「………関わってくれて、ありがとう………」



好奇心であれ、何であれ。

命を懸けて関わってくれた先生と子猫。



「…………ごめんなさい…………」



自分のせいで命を失ってしまった人たちへ。

これから自分のせいで命を失ってしまう人たちへ。

懺悔しても懺悔しても、逃れられない罪。

死をもって償いたくても、死を選ぶことすらできない自分。

己を呪うことしか出来ない自分。



それでも




「……貴方達に出逢えてよかった………」




そう思うことすら、罪でしょうか。




「…



一目蓮が、驚きを隠せない表情でを見つめている。
自分はどういう顔をしているのか分からない。
だが、この表情からして珍しい表情でもしているのだろう。

は、腕の中にいた子猫をぐいっと強制的に担任へと押し付けた。
そしてすぐさま、彼の背中を押して玄関へと押しやる。



「お、おい?!」



いきなりの行動に今度は戸惑いを隠せない。
の力は意外と強く、簡単に玄関まで出されてしまう。
ドアも綺麗に開かれ、もはや蓮の身体は靴と共に外へと飛び出していた。



「おい、どういう…」


「センセイ」



蓮の言葉を遮る。
は、ドアを閉めながら、懸命に笑ってみせた。



「………さようなら。無理なのはわかっているけれど………出来ることなら……その子と一緒に……生き残ってください」


っ」



自分の苗字を呼ぶ担任の顔。
そしてその腕の中の子猫。

その二つを見ながら、は玄関のドアをバタリと閉じて鍵をかけた。
ドアを開けようと、外から声と音が聞こえてくる。



「……ごめん……なさい………」



もう、無理なんだ。

後に戻ることも。

貴方達の運命を止めることも。


自分の気持ちが溢れることを止めることも。




そして、奴等はもう、動きだしている。




ドアに身体を預けて、そのままズルズルと下に座りこむ。
振動を背中に感じながらも、願うことは1つ。

叶わないと知っていながらも、願ってしまうこと。




出来ることなら………生きてください。

俺を救ってくれた人たち。







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