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コノ世カラノ消滅ヲ望ム者ヨ 過酷ナ過去ヲ背負イシ者ヨ 己ヲ憎ミ己デ死ネヌ者ヨ 望ムガ良イ 『地獄』ヲ 「………誰………」 は自分の声で意識を覚醒させた。 瞳をゆっくりと開ければいつもとは違う、白い天井。 しかし、見慣れた天井。 辺りを見れば白の色で埋め尽くされた空間。 自分の体には、それと同じ包帯がグルグルと巻かれている。 「………病院…………」 病院特有の匂いが充満している密室。 自分がここにいるということは、『ヤツラ』がここまで連れて手当てさせたということ。 そして、また。 病院関係者が数名、消えることを意味している。 「…………また、殺してしまったのか…………」 傷を診た医者は自分の生を諦めただろう。 手に巻かれている包帯を巻いた看護師は青い顔をしていただろう。 が拳を力強く握ると、白い包帯のあちこちから赤いものが、ゆっくりと滲み出る。 「………………………殺して、くれればいいのに」 いっそ、その方がこれからの犠牲者が出なくてもいいだろう。 …勿論、自分の死を覚悟してやってくれなければ、無理だろう。 また、『ヤツラ』に歯向かうことになるのだから、それ以上を覚悟しなければならない。 …それが出来れば、苦労はしない。 『俺が関わることで、お前が苦しむ。それが、俺が死んだことに対しての罪滅ぼしってやつだろ』 頭の中に、つい先程死んでしまった担任の笑顔がよぎる。 交通事故とのことだが、きっと『ヤツラ』が彼の車に何かを仕掛けたに違いない。 その証拠は、既に消されたであろうが。 「……センセイ、貴方の代わりに、俺が死んでしまえたらいいのに」 彼は好奇心があって、危険を顧みずに突き進むタイプだろう。 しかし、優しい人だ。 あのまま担任を続けていたら、きっと学校の中での人気はもっと高まっただろう。 「貴方が、生きるべき人だったのに」 今まで死んだ人だってそうだ。 とても、とても優しい人たちだった。 人を、殺してしまう自分なんかよりも、ずっとずっと。 この世に必要とされる人たちだったのに。 「…………死ねたら………消えられたら………いいのにっ……俺なんかっ」 コノ世ニ イラナイ 俺ノ魂ナンテ イラナイ 「…そんなこと言ったら、死んだ一目蓮の意味がないんじゃないかい?」 「っ!!?」 独り言に、突然の返事。 は目を見開き、恐怖と共に病室のドアにすぐに目を向けた。 気付かなかった。 真っ白い空間に、真っ赤なスーツを着た女性。 副担任の曽根アンナが、そこにいた。 「元気そうじゃないか、」 彼女は怒っているわけではないようだ。 ただ、昨日と同じ瞳でを見つめている。 『差別』でも『興味』でもない、けれど、『特別』な視線。 どちらにしろ、彼女との『関わり』を持つわけにはいかない。 しかし、逃げ道は見当たらない。 窓からでも、と思ったが、が自殺をしないためにこの病室には窓がない。 はじとりと副担任を見つめた。 「……面会謝絶、のハズですよ?まぁ、どちらにしろ…俺の病室に入ってくるなんて、命知らずにも程がある」 せめて、冷たい言葉で突き放してしまわなければ。 紅の瞳を鋭くして副担任のお帰りを願う。 「あぁ、それとも……一目蓮のようになりたいんですか?」 わざと、死んだ担任の名前を出す。 信憑性を増すために、だ。 (…ヤレヤレ、だねぇ) 副担任は一つ、フゥと溜め息をついた。 の言葉にも態度にも、何の恐怖も示さない。 ただ、呆れている。 (あんな叫び声をあげといて…良く言うよ) ハッキリと聞こえていた、の悲鳴とも呼べる声。 心の、叫び。 嘆き。 ハッキリと、曽根アンナは聞いていた。 それに。 (そんな顔してちゃ、すぐに分かるってのにねぇ) 今のの顔と言ったら。 自分の一言で、自分を苦しめているとしか言いようがない。 ある意味、天邪鬼というべきだろうか。 どちらにしろ、このまま退くわけにはいかない。 もはや、の真実は自分達の手の中にあるのだから。 『地獄少女』…自分達の主も、もう準備は整っている。 「そう粋がるんじゃないよ、お嬢ちゃん」 ニコリと微笑む曽根アンナ。 その様子に、の顔は自然と歪む。 美しい副担任は、綺麗な片手をゆっくりとに差し伸べた。 「いらっしゃいな。……『地獄少女』が待ってるよ」 その言葉に。 は自分の体の全機能が、止まった気がした。 地獄少女。 それはが求めていた、唯一の。 「…………さ、いらっしゃいな」 手を差し伸べたままの曽根アンナ。 ふわりと、風もないのに漂う女性の香り。 彼女の視線は有無を言わせない。 ふらり、とは痛みを忘れて立ち上がる。 素足が冷たい床に触れる。 自分の重みを、感じられない。 無意識に、手を伸ばす。 助けを、求めるように。 「曽根、センセイ」 「何?」 身体は無意識に動く。 だけれど、意識はハッキリとしている。 手を副担任に伸ばしながらも、はゆっくりと口を開いた。 「貴女は…地獄少女に関係している方だ。……俺の、コレは………貴女にも……振りかかるのだろうか」 の言う『コレ』。 それは噂の、に関われば死ぬというモノだ。 手はこのまま伸ばされているのに、それをまだ気にしている。 曽根アンナは、クスリと静かに笑った。 「アタシは既にこの世の人間ではないからねぇ、どうってことないよ」 の手を取る。 包帯でグルグルと巻かれている小さなその手の指先は未だに冷たい。 罪が、多くの大きなモノを背負っているの手。 しかし、の顔は。 曽根アンナを巻き込まないと知って。 心から安心しているもので。 (……どれだけ多くの命を失ってきたんだろうねぇ) 多くの命を失うことで。 多くの傷を負う。 多くの罪を背負う。 自分のせいで消えない命があるのなら。 それは。 どれだけ幸せなのだろうか。 「……さぁ、行くよ」 「はい」 しっかりと、手を握りしめる。 からりと、病室の扉が開く。 眩い、紅い光が溢れる。 はその眩しさに、目を閉じた。 |