「ようこそ、地獄の世界へ」



その声に、瞳を開く。

は目の前にある光景に、大きく目を開いた。



赤い、紅い世界。
夕焼けの色は紅のように赤く。
それに伴い、傍にある湖は紅く染められている。

後ろでは水車がカラカラと回り、その近くには小さな日本屋敷。
そして地を埋め尽くすほどの彼岸花。


赤い、紅い、世界。



「………綺麗、だ」



あの灰色の世界に、一体何があっただろう。
確かに色はあったが、には全部、灰色に見えた。
全てが失われていく、世界。

ここは地獄だというのに。



「……………………綺、麗…………………」



の頬に、温かいモノが伝う。
今まで流れなかった。
溢れなかったモノが。

紅の瞳から、雫が溢れ出でて止まらない。



「ど、どうしたんだい?」



繋いでいる手の持ち主がいきなり泣いていることに、曽根アンナは心底驚いていた。
すぐにの顔を覗きこむ。
涙は止まることを知らずに、次から次へと零れていく。



「ご、ごめんなさ……なんでなのか……俺にもよくっ……」



にもよく分かっていない。
何故、今になって。
大切な人が亡くなっても、自分がどんなに傷ついても。

涙なんか、溢れなかったのに。



「地獄なのに……こんなに……綺麗だ……」



現実よりも。
こんなにも、地獄は。

美しくて。








「…やっぱり来ちまったか、


「っ!!?」



聞き覚えのある男性の声。
はまた紅の瞳を大きく見開かせて、声の方へと目を向けた。
曽根アンナの向こうにいる、人影。



もう会えないと思っていた。

自分を救ってくれた。


大切な、人。




「……一目……センセイ………」


「よ」



微笑む一目蓮。
そして。



「にゃあ」


「…お前、も」



担任の腕に抱かれている、子猫。
昨日失った大切な人と動物。
彼らを瞳の中に映したとき、の顔は酷く歪んで。

もっと多くの涙が溢れた。



会えた。
もう二度と会えないと思っていた一目蓮と、子猫に。
この、綺麗な赤い、世界で。


(嬉しい……嬉しい……地獄で会えるなんて夢にも思って……)


しかし、会えた嬉しさと同時に、は何かに気付き、顔は青冷めた。

よく考えれば、ここは地獄だ。
と、いうことは。



「せ、センセイ、まさか俺のせいで」


「あ?」


「こ、コイツも……死なせたにも関わらず、地獄にまで送ったんじゃ……」



昨日、一目蓮と子猫の命を奪ってしまったことは確かだ。
それだけでも飽き足らず、彼らは地獄に来ている。
何もしていないのに地獄に来ているということは、の『コレ』が死の世界にまでも影響しているのではないだろうか。

先程までの涙はすぐに引っ込んで、顔はくしゃくしゃ顔から真っ青へ。
の心配と、クルクル変わる表情を曽根アンナと一目蓮は目を見開かせてお互いの目を合わす。

そして同時に、プッと笑いを零した。



「ハハッそうきたか」


「全く、心配性だねぇこの子は。安心なさいな。一目蓮はアタシと同じ、地獄少女の遣いだよ」



未だ笑っている二人をよそに、の目はまた大きく開いた。
まさか、担任までもが地獄少女の遣いだったとは。



「あ、ちなみにコイツは死ぬ前に俺が助けたから。しばらくしたらあっちに返すさ」



蓮が腕の中の子猫を擽る。
目を細めて気持ち良さそうに甘えてから、その子猫は彼の腕を離れ、のもとへと駆け出した。
すぐさまの腕の中へと飛び込んでくる。



「…じゃあ、コイツは…生きてる、んだ……」


「そういうこと」



飛び込んできたその子をしっかりと受け止める。
子猫はまるで会いたかったとばかりにに擦り寄っている。
で、一目蓮の言葉を聞いてからしっかりとその子を抱きしめた。
生きている、温かさが直に伝わってくる。



「……よかった……生きてるんだって………お前はまだ……生きてるって………」



まだ死んでいない。
これからを生きられる。

生を求めた子猫は、の『コレ』から逃れられた。



それが、にとって、どれだけの幸せか。



涙は零れない。
その代わりに、満面の笑顔が無意識に零れ出る。

の表情に、子猫は嬉しそうに一鳴きし。
同時に、臨時の担任と副担任を勤めた二人はのその表情に驚きを隠せずに目をまん丸くした。



「…来たのね」



風が、髪を揺らす。
静かで、綺麗な声が耳に届く。

と、そして地獄少女の遣い。
そして子猫も。


まるで鈴のような声の方へと、自然に瞳を動かしていた。