|
所変わって違う世界。 朱い世界ではない、どちらかというと灰色の世界。 しかし、その人物は黒いその空間で光るその画面を虚ろな目で見ていた。 パソコンの画面には「Not Found」。 つい数秒前まで繋がっていたそのページはもうどこにもない。 時計は深夜0時から1分が経っていた。 「…これで…5回目……」 静かに呟かれた中性的なアルトの声。 それは誰に呟いたわけではなく、ただの独り言。 白い画面を映すのは紅の瞳。 銀色の髪は暗闇に溶けてあまり見えない。 パソコンを静かに消す。 真っ暗な世界へと戻り、その人物はゆらりと立ち上がり傍の布団へと身体をもぐらせる。 まるでその世界を見たくないかのように、目蓋をおろし世界をシャットダウンする。 そんな様子を、部屋の天井にある一つの目は、じっと見つめてからすぐ様消えた。 「どんな様子だい?」 「どうもこうもないね。全く変わりなし」 街、と呼べるそれの片隅であるここ。 そこにある小さな古いアパート。 その影に、三人の人影。 一人は美しい女性。 赤いスーツに身を包み、ポニーテールと赤い紅が印象的だ。 一人は若い男性。 髪は左目を隠し、見えているもう片方の右目は今閉じられている。 その男性もまた美男子。 最後の一人は老いた男性だ。 優しそうな眼差しはまるでその男性の性格を現しているかのよう。 まるで大正時代辺りを思わせるような着物を着こなし、頭には淵のある帽子。 すい、と若い男性の右目が開いた。 そして三人はその古いアパートの一室を見つめた。 「…これであのお嬢ちゃんが送ったのは5回目かい」 「あぁ。いつもと同じ、虚ろな目ぇして送信してたよ」 老いた男性の問いに、若い男性が答える。 二人の男性は渋い顔で目を細めた。 若い男性、名前を一目蓮という。 彼は名前の通り、一つの目しか持たない。 もう一つの目をあちこちに出現させ、人の様子を視ることができる。 それで見ていたのは先程の人物。 地獄通信に5回もアクセスした人物だ。 名を。 近くの高校に通う生徒。 生まれたときから銀の髪と紅の瞳を持つという、少し変わった純日本人だ。 女子であるは幼い頃から男勝りであったらしく、今も高校の制服を無理に男子のものにしているらしい。 また、歳を10にして両親を亡くし、今は叔父の経営しているアパートに一人暮らしだ。 とまぁ、これぐらいは調べておいたのだから分かっている。 何故調べる必要があったのか。 何を言おう、この三人。 地獄少女の遣いなのである。 『俺を地獄に流して』 そう地獄通信に送られてきたのは5日前。 ただの自殺志願者が悪戯に送信してきたのかと考えていた。 しかし、次から次へと送られる同じ内容。 1回目、2回目は無視していたが、3回目になって地獄少女である彼女が動いた。 ここまで連続して送信できるのは、余程自分自身に恨みがあるということだと。 そして、彼女は綺麗な声で言った。 『…それ以外に、多くの恨みの念が渦巻いている』 自分達が仕えている彼女が気になっているのならば致しかたが無い。 彼らは現代のこの世界にやって来て、送信してきた本人の調査を開始したのだ。 ここに来たのは昨日のこと。 一日で調べられたのは上記ぐらいな事務的なことぐらいで、噂等は全く耳にしていない。 「今頃お嬢、またパソコンの画面を睨んでるよきっと」 「ハハハハ…違いねぇ」 女性の呆れたような言葉に老いた男性が笑いながら返す。 隣では一目蓮もフと小さく微笑んでいる。 いとも簡単にこのような想像つくのは地獄少女である彼女と過ごした時間が長いからだろう。 それは何年、の話ではない。 それはもう、何十年、何百年の……。 少しだけ回想した後、女性は自分で言ったことをクスリと笑ってみせた。 女性は骨女という…いや、今の名は曽根アンナ。 普段の着物姿は今はなく、ここに溶け込むためのスーツでどこぞのOLのように見える。 老いた男性は輪入道。 優しそうな眼差しで思い返した後に、彼はまたがいるであろう部屋を見上げた。 赤いマフラーが、冷たい夜風に静かに靡く。 「ま、今んとこは分からないがな、明日からの調査で色々と分かるだろうよ…あのお嬢ちゃんのことはな」 その言葉に促されるように、他の二人もその部屋をもう一度見上げる。 味気ないこの都会の片隅にポツンとあるこのアパート。 道路の電灯がなければ、すっぽりと夜の闇に溶けているであろうそこをぼんやりと見る。 「……だな」 「そうだねぇ。…全てからは明日からってね」 一体何が分かるのか。 そんなことは分かってから考えればいいだけの話。 今はただ。 何が分かるのかを楽しみに、口を弧にする三人がそこにいる。 |