朝。

そう呼ぶには遠い、億劫な一日の始まり。



「………曇り、か」



朝起きてカーテンを開ければ、パッとしない天気。
気温も湿度もなんとも微妙だ。
雨が降るのか降らないのか。
それすらも分からないこの天気はの心をもっと暗くしていた。


そこらにあった栄養バランス食品を適当に口に含んで飲料水で身体の中へと流し込む。
鞄の中に教材を流すように入れ、いらないものを吐き出すように出す。
まるで全てが工場の大量生産のような感情なき作業だ。
そんなことを心の片隅で思い、は皮肉げに小さく笑って外へと出た。


春なのか夏なのか秋なのか冬なのか。
そんな四季のことなんてとっくの昔に忘れた。
今は一体いつなのか。
ただいえることは、時間割は一学期を示していることぐらいだ。


いつも以上に億劫な紅の瞳は今、白黒にしか映らないこの世界を何の感情もなしに見つめた。




紺色のブレザーと緩んだ紅のネクタイ。
ブレザーより薄い色のチェックのスラックス。
鞄を背負うその姿はすぐ近くの高校に通う学生だ。


通勤者や通学者が多くなっていく中、視線も多くに集まっていく。
ただでさえ目を引く、日本人とはかけ離れている容姿。


しかし、それだけが目を引く理由ではない。


それを知っているからこそ、は何の感情もなしにいつもと同じ、虚ろな瞳で登校していた。



の通う高校、桜香春(さくらかわら)高校。
特徴は特にない、そこらにある普通の公立高校だ。
何事もないはずのそこは今、何やら明るく盛り上がっていた。

何やら、臨時教諭が二人、入ってくるらしい。
しかも一人は美男子、もう一人は美女だそうな。

が自分の教室に入ったところ、その話題で持ちきりだった。
あちこちで生徒がソワソワしている。
いつもならを見つけるや否や静かになるこの教室が、だ。


(臨時教諭………今度は犠牲者が出なければいい)



自分の席、教室の一番後ろの窓際の席に腰を下ろす。
カタリ、とした小さな音に、周りにいたクラスメイトは敏感に反応し、遠ざかっていく。
そして遠くで「先生たちにも教えなくては」とか、そういう話をしている。


(…そう、その臨時の教諭にも教えてあげるといい)


紅の瞳には何も映らない。
何も感じない。
何も。





(…に関われば、命がなくなる、と)



何も。


感じない。








「今日からお世話になります。担当科目は体育、臨時教諭で1年D組の代理担任、一目蓮です」


「同じく今日からお世話になります1年D組の代理副担任、曽根アンナです。担当科目は古文です。宜しくお願いします」



職員室に響く拍手。
多くの教諭、職員の前で拍手の激励を浴びているのは二人。
噂どおりの美男子と美女。


一目蓮と曽根アンナ。
地獄少女の遣いの二人であった。



「これから宜しくお願いします、お二方」



この高校の校長だろう。
少し疲れているような、そんな印象を持つ老いた男性。
それでも精一杯の笑顔に、二人は笑顔で答えた。



「こちらこそ宜しくお願いします、校長先生」


「この中途半端な時期にすみませんねぇ」


「いえいえ、こちらは就職難ですから。本当の1年D組の担任の先生や副担任の先生に申し訳ないのですが…嬉しい限りですよ」



一目蓮の言葉に、校長の顔が少し暗くなる。
曽根アンナが「一目先生!」と咎めるが彼は軽く肩をすくめて「すみません」と悪気もなさそうに言う。
校長の隣にいた教頭が、苦笑交じりに校長の肩を支えた。



「すみません。1年D組の担任と副担任は急に大きな病院に入院になってしまって…」


「大変ですねぇ…二人揃ってだなんて」


「偶然にしちゃあ、出来すぎてますよね」



同情する曽根先生に、逆に煽る一目先生。
そこにまた、曽根先生が咎める。
校長の顔は益々青くなるばかりだ。



「…お二方、1年D組に関わる貴方達に1つ、忠告させてください」



教頭が、笑みをなくし真剣な眼差しで二人を見つめた。
尋常ではない雰囲気に、二人も口をつぐむ。
他の先生方も、その教頭が何を言うのか分かっているかのように同じような眼差しで新人二人を見つめた。



「……には関わらないほうがいい。…命が惜しければ」









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