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「。貴女がこの糸を解けば、貴女は多くの人を地獄へと流すことになる」 あいの口からゆっくりと紡ぎだされる言葉。 一瞬の沈黙が流れる。 言葉の意味を理解すると同時に、の表情は歪んだ。 「それは…」 「そう、解けば。貴女は貴女自身で多くの人を殺めることになる。それだけではなく、地獄へと流すことになる」 今のの状況は、不本意ながらも人を多く殺めてしまっている。 そしてその魂は、地獄に逝くものもあれば天国に逝くものもある。 しかし、この糸を解けば。 は自分から人を殺すことになる。 そしてその魂は己で地獄に流さなくてはならないのだ。 天国逝き、などなく。 「それが、貴女の無限の穴を埋めるべく、モノ」 無表情のまま告げるあい。 紅の瞳は真っ直ぐにを射抜く。 (……そん……な) は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。 あの世界で人を殺めて、そこから逃げるための選択が。 また人を殺めることだなんて。 しかも、その魂は救われることなく地獄へと容赦なく落とされるのだ。 自分だけが苦しむのならいい。 だが、また他の人をも巻き込んでしまうのか。 最悪の、方向へと。 「……これが、償いになるのか…?」 「……それは貴女の考え方次第」 この手が紅く染まっても。 もっともっと、紅に染まっても。 それが、償い。 「貴女には現実で生きてもらう。生きて、こちらからの依頼で、貴女の手でヒトを殺める。そしてそのまま地獄へと流してもらうことになる…この舟で」 「…………それは、まるで」 『地獄少女』の、ような。 そう言いかけると、あいはすぐに首を横に振った。 「『地獄少女』とは違う。私は、魂をそのまま地獄へと流すだけ。…けれど、貴女はその手を紅く染めた後に流さなくてはならない」 「…しかも、現実でということは殺人者としても生きなくてはならないということ?」 「そのとおりよ」 残りの生を、殺人者として生き続ける。 魂を地獄へ送るためだけにこの世界へと行き来する。 それが終わればまたすぐに現実へと引き戻される。 ヒトを殺め、そして多くの機関から逃げ続ける。 殺して殺して殺して。 逃げて逃げて逃げて。 そして生を無事終えたとき、己は地獄へと堕ちる。 「………そ…………か……………」 もう何も言えなかった。 自分の罪は思った以上に重過ぎて。 それを担うにはまた多くの罪を犯さなくてはならない。 (甘かった…か) 『地獄少女』は唯一の光だった。 今の自分から逃げるための。 それに救いを求めていた自分の考えが、甘すぎたとしか結論が出ない。 苦笑か。 それとも自嘲か。 どちらとも取れる引き攣った笑顔がの表情に出る。 「…後は、貴女次第」 糸を解くのも。 解かぬも。 次第。 「……………ん。……有り難う……あい」 どちらにしろ。 選択肢は増えた。 どんなに最悪な選択肢でも、それでも有難い。 「……一目蓮さんも、骨女さんも…輪入道さんも、有り難う」 ここ数年、まともにヒトと話せなかった。 だから例え遣いでも、言葉を交わせたことは嬉しくて。 嬉しくて。 「…それと、その子猫のこと……宜しくお願いします」 生きることを望んでいる癖に、危なっかしいその子猫。 自分に甘えて離れなかった子猫。 自分がどの道を選ぶにしても。 もう逢えないであろう人たち。 「……本当に、有り難う」 出逢ってくれたことに感謝を。 関わってくれたことに礼を。 貴方達の存在に、心からの『有り難う』を。 あいの瞳との瞳が絡まる。 紅と紅。 まるで血のようなその色。 次にが見たのは。 元いた白い空間、病室だった。 手には。 首元に赤い糸を結ってある、藁人形が握られていた。 |