クラスの中がいきなり騒がしくなった。
騒がしくなった、というより五月蝿くなっただろうか。
はぼんやりとした瞳を黒板へと動かす。
クラスメイトの黄色い声が出迎えたのは、本当に美男子と美女の教師だった。



「えぇ〜、初めまして。このクラスの代理の担任をやることになった一目蓮です。担当教科は体育。宜しく」



ビジュアル系、とでもいうような容姿。
そこまで低くはない声。
しかし、その綺麗な声と優しそうな微笑に、クラスの女子大半はノックアウトだ。



「私も初めまして。代理の副担任をやることになった曽根アンナよ。担当教科は古文。宜しくね」



こちらも色気のある声。
赤いスーツに赤い紅、そして凛々しく立つ姿は少しハキハキしている雰囲気を出している。
が、クラスの男子大半はもう目が釘付けになっていた。


(……一目先生と曽根先生、か)


は黒板の前に立つ二人を、静かに見つめた。
興味はない。
が、仮にも彼らは自分の先生となる人だ。
名前と顔ぐらいは覚えていなくてはいけない。


(…よし、覚えた)


覚えたら用済み。
はさっさと視線を外し、灰色の外を見つめた。
晴れていようと、雨が降っていようと変わらぬ灰色の街。
あちこちに緑はあるものの、にとっては色があろうとなかろうと関係はなかった。

どちらにしろ、の紅の瞳に映るのはモノクロの世界。
興味のない、世界。



「じゃあ、出席とるぞ〜」



その担任の言葉に、クラスはざわめいた。
も、虚ろな瞳を大きく見開かせ、黒板の前にいる担任を凝視してしまった。
途端、隣にいた副担任と目が合う。
彼女は何も反応は返さなかったが、担任は辺りのクラスメイトのどよめきに口を尖らせた。



「なんだよ?出席取っちゃダメなのこの学校?俺これ、すっごく楽しみにしてたのに」


「い、一目先生、それはちょっと…」



クラスの委員長であろう女子生徒が遠慮気味に断る。
辺りもうんうんと頷き、その様子をも冷や汗をかきながら観察する。



「…いや!俺出席取りたいから取るからな!」


「せ、先生!!」



非難の声を無視して、我を通そうとする一目先生。
曽根先生という女性は、「別にいいじゃない」と適当に促している。
クラスメイトは必死に「やめたほうがいいです!」と大声で止めている。
が、もう一目先生は出席を取る気満々だ。



「じゃあ取るからな〜。えっと藍川…」



もう止まらない。
出席簿の最初の名前が呼ばれる。
クラスメイトの顔は真っ青になり、大声で叫び出す者もいる。
それ以上に。

の顔は真っ青に染まり、嫌な汗がこめかみを流れていく。


(……職員室で注意されたろうに…っ)



こうなってはいられない。
は急いで席を立ち、クラスの騒ぎの中廊下に続くドアへと、教室の後ろを走った。



「…あ?お、おいそこの銀髪のお前!」



誰にも気付かれないように走ったつもりが、出席を取っていた担任に気付かれる。
クラスメイトも振り返り、青くなる。
しかし、は止まることはしなかった。
ドアを勢いよく開け、決して広いとはいえないその廊下へと飛び出し、そこを走り抜ける。
後ろからは担任と副担任の制止の声が響いていたが、はそのまま走り続けた。


(……っもう嫌だ……っ!!)


階段を下り、外へと飛び出す。
まだ朝のショートホームルームが始まったばかり。
なので、そこらには誰一人いない。
はすぐ様、誰も近寄らないこの高校の裏庭へと駆け込んだ。
茂みという茂みが太陽の光を遮るここ。
少し湿っているその空間にある、普段は陽のあたる小さな場所。

走ってきたので息と鼓動は激しい。
胸は苦しい。
はその場に崩れ落ちて、そこに顔を埋めた。


(…もう嫌だっ……もう誰かを不幸にしたくない…っ)


感情はもう表には出ない。
いつもと同じ虚ろな瞳には涙すら溢れない。
顔はいつもと同じ、冷静な顔。

しかし、心は激しく、叫び声をあげていた。









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