がいなくなった今。
教室の中は未だ騒然としていた。

出席の確認。
それはの名前を呼ぶこと。
そして、に関わることに繋がる。


ただそれだけで。
いや、だけででは済まされない。


関わることが命を失うことに繋がるのだから。



「なんだよ一体」


「い、一目先生っ!!」


「あれだけ言ったのに!」



ただの出席確認に不満が勃発する教室に、明らかな不機嫌顔をする一目蓮。
それ以上に不満の嵐。
特に一目蓮のファンになった女子生徒の声が大きい。
それはそうだろう。
好きな先生を誰が殺そうと思おうか。
あるとするならば、それは嫉妬の感情でのことだろうが…残念ながらこの場にはそんな生徒はいなかった。



「あの人に関わったら、先生死んじゃうんだよ!!」



ある生徒の声が教室内に響いた。
言葉の意味が重く、のしかかる。
青冷める生徒達と顔を歪める曽根アンナ。


知らない、じゃ許されない暗黙の法則。
賭けるものは命。
生きるものに一つしか存在しない、それ。

それは大切な、大切なモノ。



しかし、当の本人一目蓮は全くもって、あっけらかんとしていた。



「まぁいいや。後であいつ探しに行こう」


「先生、話聞いてたっ!?」



笑顔であっさりと言う担任に、生徒一同がツッコんだ。
隣から副担任も声をだす。



「命だなんて、減るもんじゃあるまいし」


「いや、どう考えたって減るっていうか消えるっていうか!!」


「まぁいいだろ。じゃあ出席再開するからな〜」



一目蓮は全く何事もなかったかのように出席を取り始めた。
まだ声をあげる生徒もいたが、出席確認は刻々と過ぎていく。
しばらくすると諦め始め、教室内の騒がしい声は治まっていった。


(くっだらねぇ噂にここまでなるかね)


優しい笑顔を顔に貼り付けたまま、一目蓮は心の中でそう呟いた。
実際の心の表情は歪んだままだ。
周囲の、クラスメイトの反応は自分が考えているよりも、想像以上のものだった。


(名前を呼ぶだけで、死ぬだって?)


それだけで関わったことになるのか。
だったら世の中の全ての人が死ぬんではないだろうか。
皆が皆、己の死を、傷つくことを恐れている。
それが全てを歪ませている気がする。


いや、元から歪んでいるかもしれない。



(………それにしても、あいつは何で教室を出たんだ)


ふと、頭の中にが教室を走って出て行くところがよぎる。
騒然となる教室の中、後ろに光る銀色の髪が見えた。
酷く、顔を青くした少年、いや少女の姿。
死ぬのだとしたら蓮だというのに、はまるで自分が死んでしまうかのように青冷めていた。


(…ふ〜ん、これはまた何かあるな)


周囲の反応。
の反応。
そこにイコールを入れるための何か。
方程式の一部はまだ、空欄のまま。


(これはまた、興味深いじゃねぇか)


人の不幸は蜜の味、とまではいかないが。
今までに全くない例だったために、どちらかというと興味が走る。
大体、人に同情するとかそういうのは苦手な蓮だ。
まずは興味がないと、何事も入ってはいけない。


チラリと、片目を隣の副担任…曽根アンナに向ける。
彼女はまるで自分の思考を読み取っているかのように、こちらを見ながら一つ溜め息を吐いている。

いや、理解しているのだ。
自分の性格と、これからの行動を。

その姿に一目蓮は笑みを濃くし、出席を何事もなさそうに取り続ける。


(…さぁ、どう転がるかな?)


これからのことを考えながら、一目蓮は目を細めて窓の外を見据えた。
銀色の髪はもうこの空間にはいない。
見えるのは灰色の世界だけだ。


灰色の空は、晴れるのか。
それとも雨が降るのか。
いっそ天変地異でも起きるのか。


どちらとも分からぬその天気こそが、これからのことを暗示しているかのようだった。









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