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灰色の空の下。 陽射しなどどこにもない。 灰色と、湿った空気。 裏庭であるそこには、暗い緑がちらほらあるだけ。 光が届かない世界。 銀色の髪はその湿った風に静かに靡く。 の表情は見えない。 彼女は壁に寄り添いながら、そこに体育座りをしていた。 頭を埋め、世界を拒否しているかのよう。 いや、拒否していた。 その理由はハッキリしている。 が、それを思い返すことすら、考えることすらも億劫。 どうにも、ならないことだから。 自分では、どうにもならないことだから。 他の人にはもっと、どうにもならないことだから。 自分に出来ることは、己を呪って生きること。 そして、出来るだけ、人に関わらないこと。 それしか、出来ない。 「………死ねたら、いいのに」 この世に生を受けて、どんなにその言葉を口にしただろう。 何度、何万と、心からそう願っているのだろう。 この手に何度凶器を持っているのだろう。 体に何度傷をつけているだろう。 しかし、死を求めても死を求めても。 彼らからは逃げられない。 「……お願い…………地獄………少女…………」 君しか……いないんだ。 この世界の人間を、俺から救えるのは。 そして。 俺を救えるのは。 涙は流れない。 億劫な瞳は未だに外の世界を遮断して。 湿った風が銀色の髪を揺らしただけ。 そんなの様子を。 黒いセーラー服を纏った、黒い長い髪を風に揺らす幼き少女は 一本の木の上から見つめていた。 「……お嬢」 風に紛れた、小さな声。 その声に反応した少女は、紅の瞳をするりと横に向けた。 隣の枝には、初老の男性が少々苦虫を噛んだような表情で立っていた。 彼の姿を確認すると、瞳をまた元の位置に戻す。 地獄少女、閻魔あいはまた、の姿を見つめ始めた。 「…今日、に一目蓮が…ちょっかいを出すそうですぜ」 「そう」 特に問題はない。 何故なら、一目蓮はもはや死んでいるのだ。 と何かしらの関係を持ったとしても、怪我をしようがもう一度死のうが全く問題はない。 それで真実が見えるなら、かまわないだろう。 「それにしても…厄介なやっこさんだ」 初老の男性、輪入道は小さな声で呟いた。 細い目には未だ庭に佇むが映っている。 調べれば調べるほど、彼女の周りでは不審な事故が溢れていた。 不審、といっても、見た目は交通事故や病気など多種多様だ。 問題なのは、ここ数年、この地域に死者が多いということ。 そして、が何らかの形で関わっているということだ。 例えば…そう、彼女に声をかけたこととか。 「これは…まだ何か裏がありそうですぜ、お嬢」 声をかけただけで命を失う。 がそういう運命のもとで生まれた…そう説明すれば簡単に終わるのかもしれないが、そうもいかない。 死んだ人の中には、日本を動かす官僚や世界の重要人物まで含まれているのだ。 何かが動いている。 彼女の周りだけではなく、もっと大きなものが。 そう思わざる負えない。 「…人間の欲望」 「……お嬢?」 「あの子を取り巻いているのはきっと……人間の真っ黒な欲望と……身勝手な振る舞い……」 綺麗な声で囁く。 その言葉に輪入道は隣の少女に怪訝な顔を見せる。 しかし、彼女は気にするわけでもなくスクッと立ち上がるとに背を向けた。 「…後は任せる。何かあったら、知らせて」 一陣の風が閻魔あいを包む。 瞬間、彼女の姿はそこにはなかった。 残ったのは、彼女のお香の香りが微かに木々に移っただけ。 「……あいよ、お嬢」 消えた地獄少女に文句を言うわけでもなく、輪入道は優しく微笑んだ。 何にせよ、一目蓮が行動を起こすことで分かることもあるだろう。 そして自分にもまだ、調査しなければいけないことがある。 また、曽根アンナ…骨女も学校という場でまた分かることもある。 「…もう少し踏ん張ってなよ、お嬢ちゃん」 顔をあげないに、届かない声を出す。 これから一目蓮が近づく。 それが、彼女にどういうことか、輪入道は何となく察していた。 そして彼もまた、地獄少女と同じように、風と共にその場を去ったのだった。 |