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氷帝とのテニスが ブレイク期間を埋めていた 「ゲームアンドマッチ!6−3!」 「…ふはっ」 コールがかかる。 同時に、は大きく息を吐いてコートに倒れこんだ。 勝ちはしたものの、体力は限界。 息は途切れ途切れで汗はだらだらだ。 風が冷たく感じるのは、肌が火照っているから。 それがまた汗を冷たくして気持ちいい。 「っくしょーっ!!」 遠くから荒井先輩の悔しがる声が聞こえる。 が、には風を感じるので精一杯。 自分の荒い息だけで他の声が聞こえない。 しかし、心地いい。 目一杯テニスが出来たのは、きっと休暇で氷帝の部員達とやって以来。 「ぜぇっはぁっぜぇっはぁっ…はぁ…ぜぇ…はぁ……」 目には、青い空が映ってる。 遠い遠い、透き通った青。 届かないけれど、絶対にそこにある青。 地面には熱の篭った、独特の感触を持つコート。 大好きな緑と白の色。 手には、ずっと求めていた大好きなラケットの感触。 テニスが 力一杯出来た幸せ 至福の喜びが、心を満たしていく 嬉しくて、震えてくる 「…えへ」 嬉しくて 笑みと 涙が出てくる 「…テニスが…堂々と…出来る……誰の目も気にせず……青空の、下で……っ」 氷帝の練習のときも嬉しくて涙が出た。 だが、それとはまた違う嬉しさが泉のように湧いてくる。 閉鎖された空間、許された空間ではない。 全て断ち切れたわけではないけれど それでも 「ふっ……うっ……」 嬉しい 嬉しいーっ…… 「ほれっ」 「ぼふっ」 大泣きそうになる手前、顔にタオルがかぶされた。 ふわりと柔らかい感触。 息が詰まりそうになりながらも、それをどけると、青い空と先生の笑顔が見えた。 涙に濡れて、歪んではいるけれど。 「ホレホレ、こんなところで仰向けになって青空見ちゃってんじゃないよ」 「…せんせ……」 「やっぱり体力はないようだね。これから厳しく指導してくから、覚悟しときな」 キョトンとするに、笑みを濃くする竜崎。 このタオルは恐らくの涙を隠してくれたんだろう。 が、涙はピタリと止まった。 言葉を理解することに時間がかかったからこそ。 そしては恥ずかしそうに笑った。 不甲斐ない自分も含めて。 「……はい」 竜崎の言葉に、返事をする。 タオルで流れた涙と汗を拭って、身体を起こす。 先程より近くなった青空。 極限まで減った体力で、どうにか立ちあがって歩き出す。 ずっとここにいたら、練習の邪魔になるからだ。 (…ふっ、6−3とはいえ本当に荒井にまで勝ったとはね) フラフラと歩くに一年トリオが駆け寄ってくる。 身体が心配というのも、勝ったときの感想を聞くためでもあるのだろう。 二つの表情を混ぜながら来るのを見て、竜崎はクツクツと笑った。 「君、大丈夫!?」 「お前荒井先輩にまで勝つなんて…つーかあの技何だよ!」 「ドリンクあるよ!」 「ありがとぉ…あー、倒れるとかすっごい情けない俺…」 いつの間にか仲良くなっている四人。 その向こうでは荒井を労っている二年の姿がある。 新入りにこれだけの実力を見せられて、燃えない人物は青学には存在しない。 これでまた練習に熱が入るというもの。 の及ぼすであろう影響に、竜崎の笑みは濃くなる。 (…レギュラー陣にも良い具合に熱が入ったようだしな) とにかく、これでがトーナメント戦に入るのは確実。 これから、青学のテニス部がどう変わるのか。 それは神のみぞ、知る 手塚はコートを見つめてから、背中を見せた。 そのまま誰を気にするわけでもなく、コートから離れていく。 練習するわけではなさそうだ。 竜崎はそれを知っているからこそ、笑みを浮かべる。 「…、お前は少し休んだ後、一年トリオと一緒に球拾いに行きな!!」 「はい!」 だが、特別扱いするわけにはいかない。 新入部員、一年生であることには変わりないのだ。 球拾いをしながら、先輩方のプレイを見て育つ。 これも成長するきっかけになる。 一息ついて、動けるようになったら。 さっさと動き出す。 「ん、もう大丈夫!待っててくれてありがと!行こ、カチロー、カツオ、堀尾!!」 「うん!!」 「ってオイ!俺達はこっちのコートだっつの!」 四人揃って走り出す。 未来を背負う一年生の背中は小さくも大きい。 彼らを見て、それぞれ皆も練習に取り組み始める。 コートを出る際、レギュラー陣とも擦れ違った。 軽く四人で頭を下げる。 「…や、お疲れ」 すると一人が声をかけてきた。 反射的にピタリと止まって、気を付け。 目の前には、あちこち案内してくれた不二周助がいた。 穏やかに笑ってはいるが、やはり彼はレギュラーであり先輩。 緊張しない方がおかしい。 「あ、は、はい!ありがとうございます、不二先輩!!」 「凄かったね、あのボールのスピン。途中で速度を速めるなんて」 「あああいいいいえ!あれはその!まだまだ技術が足りなくて…!」 ハッキリ言って、ブランクがあったからこそ綺麗に決まらなかった。 コート内に入ったとて、まだまだ中途半端。 本元はもっと、綺麗に直角に曲がる。 ときには、それ以上に。 「でも、本当に凄かったぞ!今度手合わせして欲しいぐらいだ」 「あああありがたきお言葉ありがとうございます、副部長!」 「フム。力任せのボールを技術で返すところも見事だ」 「ひぎゃっ!!」 大石も不二の後ろから声をかけてきた。 こんなに褒められても緊張するだけ。 次に黒縁眼鏡の青年がノート片手ににょっきりと現れた。 恥ずかしながら、いきなり現れてきた人物に驚くな、という方が無理だ。 特に、自身がチキンなところがある。 しかし、彼は気にしない。 パラパラとページを捲って、色々何かを書きこんでいる。 「あの足元を低くバウンドするボールも技術があってこそだ」 「いいいえ!俺本当にまだまだですから!…あ、あの、そのノートは一体何ですか…」 「お前のデータを取らせてもらっただけだ」 「で、でででデータですか」 何のデータだ。 テニスだと分かっていても、恐ろしい。 汗がするりと流れていく。 他のレギュラーはもう既に練習に走っている。 自分達もやろうかと話してきてくれたレギュラー達が去っていく。 一年全員で頭を下げて、球拾いへ走る。 そのときに、堀尾達から先輩達やレギュラーの話を聞く。 沢山の、話を。 |