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高等部からの、そして途中からの入学 だからこそ、話題になる 勿論、職員室では怒られた。 そして改めて途中からの入学生という特殊さを知った。 実際、この高等部から入るにはそれ相応の成績を修めないと入れない。 中学時代の通信簿、学校からの推薦、そして受験の成績。 教室で紹介されたあと、質問の嵐。 休み時間にはその姿を一目見ようと見学者の嵐。 まるで絶滅寸前の動物になった気分だ。 しかも。 「小さい!」 「本当に高校生!?」 「まさか飛び級!?」 「かわいい!」 「男子!?女子なら分かるのに!」 と、気にしていることがバンバン上がっていた。 特に小学生と女子ではないかという疑惑にはうんざりだ。 周りの友達になってくれそうな男子曰く、「物珍しいからしゃーねーじゃん!」だそう。 どうやらこの間の身体測定にて、男子の最低身長は150辺りだったらしい。 その記録を更新したというのもあるのだという。 好きでこの身長になったわけではない。 毎日牛乳飲んでるのになぁとは唇を尖らせた。 兎にも角にも、このクラスの皆はに好意的だ。 今はまだ好奇心だけで話しかけてきているのかもしれないが、悪い人はいなさそう。 そこは安堵する一つの要因だ。 学校生活に慣れようとしていると、あっという間に放課後になった。 時が経つのは早い。 クラスメートに別れを告げ、鞄を担ぐ。 「おう、テニス部見学か〜?」 「うん!」 「行けるか?お前昼休み、食堂から帰ってこれなかったろ」 「失礼な!行けるよ!じゃ、ばいばい!」 「じゃーな!」 テニスコートの場所は覚えている。 食堂から帰ってこれなかったのは、この校舎が広すぎたからだ。 校舎のせいにしながら、は廊下を走り始めた。 物珍しそうにと擦れ違う人達は振り返る。 やはり気まずさが拭えないが、しょうがない。 (テニスコート!テニスコート!) 玄関を出てから、すぐに曲がる。 目指すは大好きな緑色の金網と綺麗なコート。 心が躍り、思わずスキップをしたくなる。 それを堪えながら、走り抜ける。 (速く!速く!) 緑色の金網が見えてくる。 それだけで笑みが零れてくる。 朝と同じく、それに手を伸ばしてしがみつく。 (テニスコート!!) 陽の下、輝く場所。 真っ白なラインと緑色の地面が綺麗なコントラストを描く。 誰もいないその場所は朝よりも酷く広い気がする。 もう少しすれば朝のように、また人が占めるのだろう。 テニスをする人と、それを見学する人。 それを考えるだけで楽しみでたまらない。 (テニス見学だけでも久しぶりだ…) 恐らく、今日は部活の見学だけで終了だろう。 一応テニス道具一式は持ってきているが、さすがに運動までさせてくれるとは思えない。 例えそうであっても、ワクワクする。 どんな練習光景があるのか。 どんな選手がいるのか。 どんなプレイが見れるのか。 切り取られたような空間が、熱くなる瞬間。 あの中に、いられるのなら。 どれだけ、幸せなことだろうか。 これから始まるだろう部活のことを思うだけで、胸が高鳴る。 その期待は周りの空間を遮断していた。 一つのことに集中しているとき、周りを見ないのは悪い癖だ。 だからこそまた、朝のように後ろからの気配に気付くことはなかった。 「アレ、君は…?」 「ふわっ!?」 今日は後ろから声をかけられることが多い。 昼休みに迷ってた時も、クラスメートが後ろから声をかけてきたのだ。 未だに慣れないそれに、の身体は思い切り跳ねた。 振り向いて見上げれば、淡い茶色の髪が目に入る。 サラサラと流れるその下の目は柔らかく細められている。 優しそうな微笑みを浮かべた学生だ。 どうやらテニス部の部員らしい。 肩にはしっかりテニスバッグがかかっている。 「オヤ、驚かせたかな?」 「はわ、いえ!えと!」 「フフッ、やっぱり驚かせたみたいだね。そんなつもりはなかったんだけど、ごめんね」 オロオロするを見て、クスクスと笑う。 上品な笑い方をする人だ。 謝られると、逆にこっちが困惑する。 は焦ってペコペコと頭を下げた。 「いいいいえ!あああの!俺こそすみません!」 「フフッいいよ、そんなに謝らないで。お互い様ってことにしとこうか」 「は、はい…」 やはり綺麗に笑う人だ。 そんなことを思いながら、下げていた頭を上げる。 失態を犯したのだから、少し気恥ずかしい。 顔を赤らめつつ、頭を掻く。 しかし彼は全く気にしていないらしく、ニコニコと笑っている。 それがまた恥ずかしい。 「見ない顔だけど、もしかして君が噂の高等部から入学してきたって子かな?」 「う、噂はよく分からないですけど、そうです…」 噂にまでなってるんだろうか。 恐らく、彼は上級生だろうに、そこまで話が。 これまた恥ずかしい、と思いつつ、渋々と肯定する。 青年はまたクスクスと笑った。 「フフッ高等部からなんて物珍しいからね、学校中その話で持ちきりなんだよ」 「はうっ…クラスメートにも言われましたが、そんなに広がってるんですか……」 「うん、三年でも騒がれてたからね。入学式が終わってからってのもあるだろうけど」 「はわわわ…そんな大袈裟なことに……」 そんなに広がってるとは。 噂というものは一人歩きするもの。 皆が想像していた人物だったら良かったのだが、あいにく、そんな感じはしない。 頭が良いわけでもないし、格好いいわけでもないのだから、何だか申し訳なくなってくる。 そんなの心情を知ってか知らずか、青年は優しく微笑んで口を開いた。 「で、そんな君はテニス部見学かな?」 「あ、は、ハイ!」 大好きなテニスの話題になって、は反射的に背負っているテニスバッグの紐部分を握りしめた。 無意識に笑顔にもなる。 テニスをやるためだけに、ここまで受験を頑張った。 だからこそ気合が入る。 「そっか。じゃあコート案内するよ。まだ皆や先生が来るまで時間があるからね」 「い、いいんですか!?」 思ってもいない誘いに、は今までにないくらい目を輝かせた。 テニスコートに入れる。 それだけじゃなく、テニス部の使用する場所の案内もしてくれる。 期待と歓喜に自然と笑みも零れるというもの。 キラキラと輝くの表情を見て、青年も笑って勿論、と言葉を返した。 「うん、僕でよければ」 「よよよ、よろしくお願いします!!」 やったーっ!!という声は出さない。 が、にとっては嬉しさ以外の何物でもないため、自然と身体もピョンピョンと跳ねる。 両手は思い切りガッツポーズだ。 しかし、それに気づく余裕もない。 青年もツッコむわけでもなく、その様子に笑うだけ。 そして優しくこっちだよ、と促した。 「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。僕はテニス部三年、不二周助っていうんだ」 「あ、俺はっていいます!」 「か。よろしくね」 「ハイ!よろしくお願いします不二先輩!」 優しい笑みと、優しい声の持ち主は、三年生の不二周介先輩。 それをしっかりと覚えて、自分より大きな背中を追いかけ、チョコチョコとついていく。 どうやら不二先輩は今日、掃除当番ではないため早く来れたらしい。 だから鍵も持ってこれたのだと言う。 緑の金網にある鍵穴に、それを通す音と開けられる音が聞こえる。 同時に、の心臓はアップテンポになっていく。 「はい、ここがテニスコートね」 「はわわ〜…」 緑の金網を抜けて、テニスコートに足を一歩踏み入れる。 何面もある広い空間。 独特のコートの感触が足に伝わっていく。 懐かしい、感触 懐かしい、ライン 懐かしい、匂い 懐かしい、金網のナカからの景色 「テニス、コートだ……」 待ち望んでいた世界。 そこに、自分が立っている。 二年かけて、ようやく堂々と。 ここに立てる。 (お父さん、お母さん、ここまで来れました…!) 心の中で自分の両親に報告する。 懐かしさに、感動すら覚える。 しばらくそれに浸った後、は思いきり深呼吸してから、喜びを爆発させた。 「やっぱり中に入ると違いますね!凄く広い!しかも整備も整ってるし、掃除も丁寧にしてあって綺麗です!!」 「フフッ気に入ってくれたようで何よりだよ。じゃ、次に行こうか」 「ハイ!お願いします!」 テニスコートが何面あるのかだけではなく、ロッカーやランニングコースなど、丁寧に案内してくれる。 部活が始まるまでの時間、優しい先輩は終始笑顔。 そんな彼に促されているのか、はたまたテニスに関してのことだからなのか。 も心からの笑顔でずっとついていっていたのであった。 |