レギュラージャージを



貰いに行こう












「それにしても、チビチビが方向音痴とはね〜」


「だから違いますって!都会がゴチャゴチャしてるだけですって!」



ニヤニヤと笑う先輩に、は唇を尖らせた。
両隣には菊丸、そして大石という黄金ペア。
三人はバッグを背負いながら、のんびりと歩いている。

向かうはスポーツ用品店だ。

はレギュラージャージを貰いに、二人はグリップテープを買いに行く。
目的は違うが、行く場所は一緒である。



「でも食堂も未だに迷うんだろ〜?」


「しょうがないじゃないですか。学校が広すぎるんです!都会の私立め!」


「怒るとこ間違えてると思うんだけど…まぁ、いっか」



本当は一年トリオと一緒に行こうと思っていたのだが、彼らは担任に呼ばれていたらしい。
時間がかかるから、一緒には行けないという話になり、は一人で行くと言ったのだが。

『いや、お前方向音痴だから絶対無理!!』

と三人全員に否定されてしまった。
じゃあどうしようという話をしていたところ、大石が聞いていたらしく。
じゃあ、一緒に行こうかと声をかけてくれたのだ。



丁度、グリップテープがないから買いに行こうと思ってたんだ、という優しい言葉に、は救われていたのだが。
菊丸も一緒になって、さっきから方向音痴がバレたところでからかわれっぱなしなのだ。



「きっとチビチビはあちこち、一人では歩けないんだろうね〜アハハハ!」


「くっ…どうせ学校中も友達と一緒に歩いてますよ!でもこの間やっと職員室に一人で辿りつけました!」


「ハハッ偉い偉い」



菊丸はからかって笑うが、大石は頭を撫でながら笑ってくれている。
さすが青学の母、と呼ばれる人物だ。
どちらかというと、菊丸や桃城はやんちゃなお兄さんタイプかもしれない。

頭を撫でられると、嬉しいのと恥ずかしいので笑みが零れる。
大石はそれを見て、「あ」と何かを思い出した。



「そういえば堀尾達に聞いたけど、は一人暮らしなんだって?」


「え、そうなの!?初耳〜」



急な話題転換に、菊丸も身を乗り出してくる。
彼らからしたら確かに初耳なのだろうが、にとっては、もう二週間以上前から始まっている生活だ。
一瞬キョトンとしてから、コクコクと頷いた。



「あ、はい。両親は北海道で仕事があるので…俺だけこっちに来させてもらったんです」


「そっか…大変じゃないか?」


「大丈夫ですよ。家事は慣れてるし…近くのスーパーは特売を結構やってくれるので、大助かりです!」




最初は大変だった。
家事に慣れてるとはいえ、地域には慣れていない。
ゴミの分別、アパートの賃金制度、隣人への挨拶、その他諸々を一人でやってきたのだ。
方向音痴だからこそ、地図を片手にスーパーを彷徨ったり、実家からモノが送られてきたり。


しかし、近頃は落ち着いてきたところ。
部屋も片付いてきたし、アパートでのルールも、生活に必要な場所の把握も出来ている。
回り道を出来るぐらいの余裕が出来ているのだ。


娯楽施設は友達についていけば着ける。
何回か行って覚えればいい。
また、休みの日には足りない小物を買ったりしている。



「近頃は生活に余裕が出来てる位です」


「そっか、それならよかった。何かあったら相談してくれよ?」


「はい、ありがとうございます、大石先輩」



やはり優しい青学の母。
が笑顔で頷く中、もう一人は唸り声をあげながら、頭の中で何かを組み立てているらしい。
唸り声をあげてる割には、笑顔だ。



「一人暮らしか〜…イイな〜!ねね、今度遊びに行ってもいい?」



どうやら一人暮らしの響きに、『楽しそう』という印象を持ったらしい。
キラキラと顔を輝かせる先輩に、は同じく頷いた。



「勿論ですよ。お泊りでも大丈夫ですから!是非是非遊びに来てくださいね!」


「うぉっしゃ!じゃ今度皆で遊びに行こっ!ね、大石!!」


「ああ、そうだな。一人暮らしっていうのもあるし…一度生活を確認しないと」


「アハハ、楽しみにしてますよ〜」



二人共笑顔で行く、と言ってくれたが、目的は全く違うよう。
一人は遊び目的で、一人は生活の確認。
あまりの違いに、は苦笑にも似た笑いを零した。



「…っとココだ」



そんなくだらない会話をしているうちに、スポーツ用品店へと辿り着いた。
商店街にある、少し小さな店だ。
大石を先頭に中へと入っていく。



「こんにちは〜」


「お、いらっしゃ〜い!おや?後ろの子は初めてだね」


「あ、初めまして!青学高等学園一年のと申します!」



優しそうな店長が声をかけてきた。
青春学園高等部のテニス部メンバーは御用達らしい。
だからこそ、が初めての客だと気付いたのだろう。
はすぐに背筋を伸ばして頭を下げた。

店長はそれを聞いて目を瞬かせた。
高校生だとは思っていなかったのだろう。
しかし、どこか納得したように笑いかけた。



「おや、じゃあアンタがこのジャージの持ち主だね?出来てるよ」



彼が取り出したのは、紙袋に入ったジャージ。
色鮮やかな青と白のコントラストが此方からも良く見える。
は目を輝かせて、パタパタと走り寄った。



「あ、ありがとうございます!」


「Sサイズのレギュラージャージなんて、越前君以来だからね。驚いてたところだよ。仮のレギュラーとはいえ、青学の未来は安泰だねぇ」


「あははは…」



ジャージのサイズで納得したらしい。
確かにレギュラーのほとんどはLサイズが多い。
また、それぞれのサイズに合わせて作られるジャージ。
今まで越前が一番小さかったのだが、それよりも小さい身長にも納得だ。

一年だということで、未来を担っているのは当たっている。
が、の性別を知らないからこそ言えること。
は苦笑を零しながら、紙袋を受け取った。



「チビチビ、ちょっと着てみなよ!」


「え、今ですか!?」


「上着だけでもさ〜、サイズ確認の意味も兼ねて!」


「は、はい」



本当は帰ってから着ようと思っていたのだが。
先輩に唆されてはしょうがない。

新しい匂いが気持ちいい。
黒い学ランを脱ぎ捨て、ワイシャツの上に着てみる。
サイズはやはりピッタリだ。



「…うわぁ…」



自分のジャージ。
無理やりに入らせてもらった部活で、仮とはいえレギュラーになった証。
感慨深いものが、ある。



「うお〜ピッタリじゃん!やったね〜チビチビ!!」


「良かったな、


「はいっ!」



自分の性別を誤魔化したことには、罪悪感がある。
だが、それでも嬉しい。
店主も微笑んでくれたところで、はそれを丁寧に折りたたんで紙袋へと仕舞った。

大切なものを持つように、抱きしめる。
二人は笑顔で店先に並んでいたグリップテープを手に取った。



「じゃあ、店長。俺達はコレね」


「あいよ」



しっかりとテープを買ったところで、三人は店を出た。
無事レギュラージャージを貰えたことには軽くステップ状態だ。
そこに、菊丸も一緒にスキップしてくれる。



「やった〜グリップテープ〜」


「良かったですね、菊丸先輩!」


「チビチビもね〜」


「はいっ」


「やれやれ…」



後ろから見れば、ウキウキしている子供二人だ。
大石はそれを見て苦笑を零す。

そしてはた、と気付く。



「…ところで、ここから帰れるか?」


「う」



帰れない。
その言葉に、はピタリと止まってしまった。
顔も反射的に固まっている。

菊丸と大石はそれを見て。



「「………ぶっ」」


「わ、笑うことないじゃないですかーっ!!」


「「アハハハハハ!!」」



結局、は二人に自分の住所を言い、そこまで案内して貰ったのだった。












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