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幸せを抱いて 今を生きろ 「、パワーリストをまた1kg増やすぞ。慣れてきたみたいだからな」 「ありがとうございます!やたっ!」 試合の後、乾によって重たくなるパワーリスト。 部活にもすっかり慣れ、少しずつブランクを取り戻していることが分かる。 スマッシュなどのキレも良くなってきているのだ。 上手な人達とやれば、それだけ自分の弱点も分かる。 今はその後ろ姿を、追いかけている状態だ。 「あとは筋トレに励め。桃のダンクスマッシュの威力が強いのが分かるが、すぐにラケットを飛ばされていてはどうしようもない」 「あはは、そうですね…」 「あと越前にも言っているが、毎日牛乳二本行け」 「はい」 の弱点は力の無さ。 故に、桃城のような力で来るプレイヤーには本当に弱い。 ボールの場所が分かっていても、ラケットが飛ばされてテニスにならないのだ。 男子と女子の差、と言えば簡単だが、今のは男。 しかも、レギュラージャージを仮といえ着させてもらっている身だ。 (ちなみに短パンは越前と同じ黒、女特有の生理現象が来たときに分からないようにだ) もっと強くならなくてはいけない。 乾はパタリとノートを閉じた。 「そうだな…今日はお前の筋トレに付き合おう。フィットネスにはもう海堂も行ってるだろうしな」 「ありがとうございます!いいんですか!」 データを取ってくれる人物が近くにいれば、心強い。 が嬉しそうに尋ねれば、彼はフゥと溜息に近い息を吐いた。 「方向音痴というデータもある。俺が案内しなければ校内で迷子になる確率100%だからな。…こっちだ」 「はうあっ(それでかっ)」 理由はの管理だけではなかったらしい。 方向音痴がそこまで知れ渡っているとは、何とも恐ろしい学園だ。 少ししょぼくれながら、身長の高い乾の後を歩く。 遠くから見れば、まるでカルガモの親子にも見える。 「ここだ」 「はわわ…」 案内されたのは、フィットネスセンター。 そう書いてあるドアを、二人は潜り抜けた。 ここに筋肉トレーニングにかかせない器具が揃っている。 本来なら汗臭いだろう部屋だが、換気もしっかり出来ているらしく、そんなに臭くない。 誰もいないかと思いきや、見知ったバンダナが見えた。 レギュラージャージを脱いで、黒のタンクトップ姿の、彼が。 「海堂、さすがだな。もうその重さを持てるようになったのか」 「はわわわ…」 言わずもがな、海堂だ。 筋肉を動かす度に「フシュゥゥゥ」といつもの口癖が零れている。 乾が彼に話しかけているが、には全く聞こえていない。 何故なら。 「筋肉すっごい…!」 タンクトップなだけに、腕の筋肉が丸見えだからである。 テニスをするために努力を惜しまない人だ、と誰かから聞いていたが、こんなにとは。 どうしてもそちらに目がいってしまう。 どちらかというと、感動だ。 「」 「はぁぁ、やっぱ凄い筋肉…俺なんてブヨブヨだもんな…どうしようこれ」 「…また聞いてねェな」 「それだけ海堂の筋肉に集中してるんだろう…まぁ計算通りだが」 勿論、名前を呼ばれても気付かない。 己の腕の肉をつまんでは、溜息を零して振りまわしている。 彼らもその性格は把握済み。 溜息をつく海堂の横で、乾はニヤリと笑った。 どうやらこれが狙いだったらしい。 「さて、俺もやるか…」 「!!」 そして遂に乾までも脱ぎ出した。 下には青のタンクトップ。 そして、彼もまた、筋肉がバッチリとついていた。 の視線もそちらに動いて、目を見開かせる。 そして、輝かせた。 「…乾先輩、アンタ何考えてるんスか」 「いやなに。の場合、目が輝けば輝くほどやる気が出て、結果に繋がるからね。筋力のないアイツには、俺達の筋肉を見せて憧れを抱かせることが有効策だと考えたまでさ」 「はぁ…」 乾の場合、あまりタンクトップを着ない傾向があるため、海堂が訝しがる。 尋ねれば、やはり色々と計算していたらしい。 それだけ、仮レギュラーの位置は期待されていることが伺える。 (というのも、やはり遅刻癖がある人物が青学に多いと言える) 乾の策に、海堂の顔が若干歪む。 しかし、彼は全く気にせずに腕をくるくると動かしてみせた。 がしっかりとその筋肉の動きを追っていることを確認しながら。 「それに、は技術的にかなり安定しているし、ダブルスでは個性の強い越前と組んでもフォロー出来る柔軟さがある。アイツは青学にとってかなり重要な立場だ」 この間のダブルスの試合。 シングルスプレイ向きの越前に合わせるのは至難の業だ。 しかし、はしっかりと彼のプレイを見極めて動いていた。 我儘し放題の越前を、そのままにして自分が取るべきボールを押さえていた。 それが、海堂と菊丸のペアを破ったのだ。 青学のレギュラーメンバーはほとんどシングルス向きのプレイヤーが多い。 それだけ個性が強く、協調性があまりない。 大会でも、ダブルス2はほとんど落としているのが現状だ。 そこに、個性の強い人物にも合わせられるが入ってきた。 だからこそ、期待される。 「それこそ、良いプレイヤーになってもらわないとね。青学を任せられる位」 「………」 新しいダブルスペアが組めるかもしれない。 これは、青学にとって良いこと。 だったら、もっと強くなってもらわないといけない。 海堂が黙る中、は全く話を聞いてない。 未だに筋肉に目を奪われている。 それも計算の内。 乾はニヤリと笑った。 「というわけで、筋トレをするにあたって、闘志を燃やしてもらわないとね」 「…勝手にやればいんじゃないスか」 「ああ、そうするさ。ただし、海堂はまだそこで筋トレを続けててくれ。お前の筋肉を見せてるだけで、アイツはやる気出すからな」 「…ウッス」 筋肉を見せるだけ、というのも何だか微妙だ。 海堂はまた顔を若干引き攣らせて、とりあえず無視して筋トレする方向でいくことにした。 「さて、と。。もういい加減戻ってこれたかな?」 「……」 「…戻ってないな。!」 「っ!ふあっ!ははははいっ!!」 ようやくが此方へと戻ってきた。 筋肉から目が離れて、しっかりと乾を見上げる。 「筋トレを始めるぞ」 「あ、はい!お二人目指して頑張ります!!」 「……」 効果抜群。 目をキラキラと輝かせて器具へと向かう。 乾が背中でピースする姿に、海堂は溜息を吐いて器具を動かした。 今日一日はずっと筋トレ。 はとにかく、ムキムキの筋肉を夢見て必死に取り組んだ。 「…お前、力無さ過ぎだろ」 「握力25か…女子小学生のレベルだな」 「はうあっ」 「俺達みたいになるには…ほど遠いな」 「あうっ…頑張ります!!」 「………(扱いやすすぎだろ)」 「………(フッ本当に計算を裏切らないな)」 |