ダブルスの試行錯誤は



続く












色々とダブルスのペアを数日、試されていた。
レギュラーとは全員組んだことになる。

部長や不二と組んだときは緊張の連続だ。
が、部長と組んだときはどちらかというと、彼オンリーのシングルスプレイになってしまったが。
(入る隙がなかった、とも言える)



「で、としてはどうだったかね?」



そして今は、コートから離れて先生に一人一人それぞれ呼び出していた。

ダブルスの具合、相手との相性がポイントとなる。
誰と組んだときに動きやすいのか。
他者から見て、どのペアが一番強かったか。
それを聞くためだ。



「どうだった、と言われても…まず何から言えばいいですかね」



そして今はの番。
なんだか個人面接のような気もするが、内容はテニスだ。

竜崎先生はノートを取り出し、ボールペンを持って構えながら苦笑を零した。



「なんでもいいんだがね…じゃあ、良いダブルスペアを上げとくれ」


「あ、はい!」



質問が明確なら答えられる。
そこでようやく、は口を開くことが出来た。



「そうですねー。黄金ペアは勿論のことですが、やっぱり桃城先輩と海堂先輩のペアは凄いと思います。ライバル同士だということもあって、お互い高めあってますね」


「ふむ」


「あと海堂先輩と乾先輩のペア、菊丸先輩と桃城先輩のペアは息が合ってると思います」




海堂と桃城のペアは迫力がある。
お互いライバル意識が高いため、それぞれ高め合っている。
それに、お互いを知るからこそ、自分がどこにいるべきか、相手がどこにいるかがわかる。

フォローも、し合っていた。
二人とも負けず嫌いということもあるので、勝利への執着心は二倍以上だ。


そして、海堂と乾のペア。
粘り強さのテニスと、データテニス。
一見、合わないように見えるが、これが結構息が合っていた。
また、粘っている間にデータを取ることも出来るため、一石二鳥だ。


また、桃城と菊丸ペア。
それぞれ自己中心のプレイをするかと思いきや、お互い気遣うものだった。
桃城が以外と曲者で、二人でゲームメイクをするほどだ。




「フーム。お前さんが言ったペアは、中学時代で組んでたからねぇ…まぁ、当たり前と言っちゃ当たり前か」


「あ、そうなんですか。だからあんなに息が合ってたんですね」



と、いうことは、竜崎先生の中では組み立てられているペアだったということだ。
が言うまでもない。
他にも何か言った方が良かったかなぁ、と思いつつも自分が良いと思ったペアだったのだからしょうがない。



「じゃあ、組んでて相性のいい人物は誰だったね?」


「んー、俺の場合は…」



次の質問に、が脳内をグルグルと巡らせた。
全員とペアを組んだときの感覚を此方へと引き戻す。
そして、一番良かったと思われるものを口に出した。



「越前と海堂先輩、菊丸先輩ですかね」


「越前?海堂や菊丸はまだ分かるが…」



海堂や菊丸はダブルスをしているからこそ分かる。
だが、越前は根っからのシングルスプレイヤーだ。
手塚のように。

先生が首を傾げるが、は笑顔で頷いてみせた。



「越前は確かにシングルス向けなんですけど…合わせやすかったです。結構動き回ってくれるので…その範囲さえ分かってれば俺も全力を出しやすいんです」


「ホォ…不二や大石は?」


「んー、俺はどちらかというと組んだ相手に合わせて動く派なので…ゲームメイクをする二人とはあまり」



そう、ダブルスのときははほとんどフォローの役だ。
相方一人があちこち動いていた方がフォローしやすい。
越前はかなりあちこち動いていて我儘し放題なのだが、それはそれでいい。
としては、動きやすいのだ。
(手塚の場合は、自分がいるだけで邪魔な気がして、越前とは違って無理だった)

逆に、ゲームメイクをしてくれる人物とペアを組む場合、自分から動かなくてはいけない。
またお互いに反応を見合うため、計算がずれていると二人でボールに対応できなくなる。
まぁ、計算が合っていれば最強のペアにはなることは間違いないのだが。



「そうかい?特に不二とはいいペアに見えたんだが…」


「いえ…一番難しいな、と思ったのが不二先輩でした」



ダブルスペアを試している中で、先生の目に止まったのが、と不二のペア。
対する相手は黄金ペア。
彼らを前に、と不二は3ゲームを奪取した程の実力だった。

これは期待できるダブルスではないか、と睨んでいたのだが。
竜崎の言葉に、は首を横に振った。



「そうかい?そうは見えなかったが…」


「まぁ、黄金ペア相手に良くあそこまで行けたなぁ、っていうのが正直な感想です」



あれは奇跡に近い。
はキッパリとそう言い切った。



「えっとですね…ほとんどの人は試合になって、相手が強いと分かるとスイッチが入るんですよ。動きが本当にサックリと。…それが分かるから、俺は合わせやすいんです」



レギュラー陣の試合を、ビデオでもチェックした。
大体の部員は、スイッチが入ったかのように動きが良くなることが多い。
勿論試合の中で成長していくのだが、それは組んでる相手もそれにつられるように合わせられる。

そのオンオフがハッキリしている人達が多い。
だからこそ、もオンオフが出来、それに合わせて実力を発揮出来ていた。



「でも、不二先輩の場合は何というか…スイッチではなくて、チューナーみたいなんです。組む相手にも寄りますが、何というか…敵の強さに合わせて随時調節できるような」



一緒に組んでみて、感じた違和感。
相手が黄金ペアだというのに、オンオフの感覚がどこにも見受けられなかった。

先生は黙っての話に耳を傾ける。



「それに、ランキング戦でも不二先輩のプレイを見てましたが…。あの人はやることはやるんですが…最初から本気、というのはないように見えました」



そして、とのシングルス対決のとき。
最初の1ゲームをわざわざ落として、プレーを見極めた。
そして、次のゲームは不二との実力の差をゆっくりと測るものだった。
また、不二の得意技のカウンターを見せるためのゲームもあった。

開眼しても尚、本当のプレーを見せてはくれない。
そしてを相手にしても、わざとポイントを取らせてくれることが多々あった。



「それと皆さんのプレーをビデオで見ても…何というか…相手に合わせて強さをコントロールしていて…スリルを楽しんでるような」


「……」


「あ、勿論、本気のプレーもビデオで見たんですよ。手塚部長とのものや、四天宝寺の部長とのものとか。…だから尚更、相手に合わせた戦い方に見えて…」



本気でのプレーを見て、鳥肌が立った。
自分と戦っていたのは本当の不二ではなかった、と思い知らされた。
彼の本気は未だ未知数で、もっと奥深くに眠っていることに。

そして際立つ。
本気を出せばポイントを取らせずに勝てるほどの実力がありながら、わざとゲームを取らせていることが。


スイッチのオンオフなんて単純なものじゃない。
不二に合わせるには、敵の力量と不二のそれに対する戦い方を随時見極めなければならない。



「…俺は対戦相手には全力で、そしてペアを組む相手もそうなったときが理想だと思ってます。フォローも何も考えずに、そうなったときが」


「フム」


「…不二先輩は本気を出すことなく、チューナーのように俺に合わせてくれました。勿論、俺の実力がついてってないことが原因なんですけど…」



黄金ペアというダブルス最大の相手。
それでも不二は、本気を出すことがなかった。

に合わせた。
尚且つ、敵の力量に合わせて打っていた。
それが、3ゲームの奪取に繋がったことは、どんだけ皮肉なのだろう。



「……不二先輩は、シングルス向きだと思います。もしダブルスをするなら…本当の彼と同等以上の実力を持っていないと、あの力は際立たないでしょう。…組んだ相手に合わせてしまうから」


「………」


「もしくは、不二先輩がゲームメイクしやすい相手の方がいいです。…俺じゃ、役不足でした」



全力で、尚且つ相性が合えばダブルスは最強になる。
例え一人が全力で独走していたって、もう一人が全力でカバー出来ればいい。


(俺じゃ、駄目だった)


相手が黄金ペアだというのに。
自分に合わせてくれたからこそ、不二は力を出さなかった。



その優しさが酷く


悔しかった






「そうかい」



先生は何も言わず、そうとだけ答えてノートを取った。
それが心地よく、は小さく笑った。


あの試合があったからと、不二を嫌いになったとかそんなことはない。
悔しかったから、もっと強くなろうと思えた。
せめて、彼の本気の一片が見える位まで。

勿論、その上も目指している。
強くなることに、果てがないのだから。



「よし、もう行っていいよ。今度は越前呼んでおいで」


「はいっ!失礼します」



は頭を下げて、越前を呼びにコートへと駆けていく。
その後ろ姿を見ながら、竜崎は苦笑を再び零した。


(やれやれ…この短期間で不二の性質も見抜くとは…大した観察眼だねぇ)


ノートに書いてあるそれぞれの情報。
他者から見て良いペアだと思うもの、自分で組んでて良かったペア。
そこに、と不二の文字が何度か伺える。



は、結構鋭いですよ。…きっと、僕の性質を見抜いてると思います』


『そうかい?』


『ええ。ダブルス組み終わったとき、ちょっと悔しそうでしたからね』



頭に過ぎるのは、不二の言葉。
いつもの笑顔を浮かべて、真剣に言ったもの。

どうやらの感情に気付いていたらしい。
ダブルスの試合のときも、いつも以上にが頑張っていたことも。
負けても、いつも笑顔のそれが、若干曇っていたことも。



『でもまぁ、僕としては楽しかったですよ…一生懸命頑張ってくれてたし。そこは気付いてないと思いますけどね』



クスクスと楽しそうに笑う。
それは、どこかスリルを求めている笑顔にも似ていた。


(本当に、個性的なヤツが多いわい)


遠くから越前が歩いてくる。
それを見ながら、呆れに似た溜息が口から出るのであった。













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