思う存分



テニスを楽しもう












「…そんで数日経ったわけですが…これはまた、どういうこってすか?」




あっさりとトーナメント戦が終わって数日。
の最初の一言がそれだった。




トーナメント戦の結果。


海堂とは6−2で敗れた。
スネイクショット、と呼ばれるバギー&ホイップショット。
素晴らしいポール回しのブーメランスネイク。
それに加え、粘り強いプレイ。

はそれに感動して、笑顔で戦っていた。
ひたすらアウトコースへとボールを運んで、あの「膝カックンショット」を打ったり、「低いバウンドショット」を打って対抗した。
また、ずっと取れなかったそのショットを見抜きつつ返していった。
ハッキリ言って、2ゲーム取れたことは奇跡に近い。


そして、天才と呼ばれる不二周介には6−1と完敗。
しかも下手なに付き合って、1ゲームをくれたぐらいだ。
いや、どちらかというと、様子見、だろうが。

彼の場合は天才的にカウンターテニスだ。
のショットを見せてくれたお礼に、と三つあるうちの二つを見せてくれた。
バウンドしないツバメ返しとスマッシュを無効化してコートの奥に確実に入れるヒグマ落とし。
これもどうやら手加減してくれていたらしい。
(堀尾曰く、その二つの進化バージョンがあるらしい)
あとはもう、一方的な試合だった。
最後のゲームでどうにか打ち返せる一歩手前まで行ったぐらい。


二人にはアドバイスも頂いた。
「弱ェ」やら「持久力がねェ」と辛辣な言葉と「凄かったね」やら「きっとまだまだ強くなるよ」と甘い言葉。
戦った相手二人は全く正反対の言葉を吐いていったのだ。


(どっちも嬉しかったなぁ〜。アドバイスって大切だしね)


そう思っていれば、Dブロックにて三位という好成績を収め、何故かブロックごとで三位だった部員を集めて決勝戦のようなことをやって。
どうにか、がそこで優勝したわけなのだが。



「…これは一体どういうことなんでしょう、先生」



三位決勝戦にて優勝の成績を収めたに手渡された紙。
そこには身長など測定したものを書かせる欄がある。
上にはれっきとした「レギュラージャージ発注用(仮)」とプリントアウトされている文字。

おかしい。
レギュラーになれるのは各ブロックの上位二名であって、自分ではない。
それなのに、何だこの紙は。
(仮)って何だ。



「まぁ、いわゆる準レギュラーってことさね」


「準レギュラー?」



紙を渡した張本人の声に、は顔を上げた。
目の前にいるのは勿論、竜崎先生。
そして彼女の割り当てられた部屋だ。
彼女は満足そうに腕を組んで、サクサクと説明をし始めた。



「ホレ。丁度三年前の試合では急に来れなくなったレギュラーがいるわ、遅刻するヤツラはいるわで大変だったんじゃよ」


「そうなんですか」



そんな、知ってるじゃろ?とばかり言われてもは首を傾げるしかない。

先生の話によると三年前のレギュラーは今のレギュラーとそんなに変わらないらしい。
そして、大切な試合の前に遅刻する人はいるわ、親切で人を助けて自分が怪我する人はいるわ大変だったそう。
勿論、諸々の都合があったらしい(寝坊もあったらしいが)。



「レギュラーは全員で八人。補欠が一人いるとはいえ、ダブルス二人が遅刻しそうになったときもあった。またそんなことがあったら、こっちも心臓に悪いからねぇ。補欠枠を一人ほど増やして、レギュラーと一緒に練習させようと思ってたってわけさ」


「はぁ」


「それで、だ。またそんなことがあったら、レギュラー陣と一緒に練習してたその補欠を採用するってことで、ワシも少しは安心出来るってことだよ」



なるほど、筋は通っている。
練習試合ならまだしも、公式の大会では時間までに書類を提出しなければならない。
そのときに全員が揃っていないと、チーム全体で棄権負けが決まってしまう。
だからこそ、そんなことがあってもレギュラーと対等に戦えるぐらいの補欠を一人二人はいてほしいのだろう。

それを決めるための三位決定戦だったのか。
ぼんやりと頭の中で整理しているうちに、肩をポンと叩かれる。



「と、いうことで、それがアンタになったというわけさ、


「ふえ?」



頑張れ。
といい笑顔で言われてしまった。

の頭の思考回路はストップ。
ぐるぐると今までの情報を巡らせ。
そして



「………………ええええええええ!?」



と、思いきり叫んだ。



「ちょちょちょ、先生!聞いてませんよ!しかもなんで俺なんですか!?」


「しょうがないだろ?今年から採用予定の計画だったし、お前が三位決定戦で勝ったからね」


「俺のせいっ!?」



焦るに対し、竜崎はさも当たり前とばかりに腕を組む。
しかも自分は悪くないと、言わんばかりだ。
そんな先生の無責任な様子に、はさらに身を乗り出した。



「そそそそんなぁぁぁ!俺が万が一大会に出ちゃったらどうするつもりですか!?それでバレたら!?」


「大丈夫。この間いい案を考えてねぇ。何かあってお前が出て、お前のソレがバレたら性同一性障害で誤魔化すっていう」


「そんな簡単にいくんですか!?」


「多分な」


「ええええええ」



考えはあるらしい。
が、それが上手くいくかはわからない。
確実ではないその意見に、の顔は自然と歪む。

だが、竜崎はどこか自信を持っているようだ。



「それに、お前さんの実力は見させてもらった。あのまま一年生と一緒に球拾いをさせてるには勿体ないよ」


「そんな凄いモンじゃないですよ…」


「いや、女子では確実にトップクラスだ。その才能を伸ばすのも部の仕事。ももっと強くなりたいんだろ?」


「そりゃ…俺はまだまだですから」


「だったら、この話飲んだ方がいいと思うけどねぇ…」



本心から言うと、確かにこの話は魅力的だ。
一年として球拾いや基礎をやっていくのも大事だが、何よりもレベルの高い人達と練習をすれば色々と参考になる。
これは氷帝と一緒に練習をさせてもらったときに保証済み。
彼らのお陰で、テニスが少しは上手くなった。

しかし、リスクは高い。
万が一のことを考えると胃が痛くなるほどだ。


成長、信頼、性別、リスク、テニス。
数々のワードが頭の中を潜ってはまた戻ってくる。



「それに、断って荒井に流れたら、これまた不審がられるからね」


「…うぅっ」


「手塚も納得しとるし」


「うぅっ!」



先生の言葉が次々と頭に刺さってく。


(手塚部長!よりによってこんな大切なことを納得しないでください!)


心の中で叫んだところで、彼が応えてくれるわけもない。
手塚を真面目だと思っていたが、この判断は果たしてどうなのか。
少し天然なのかもしれない。

先生の視線もビシビシと刺さる中、時計の針だけがカチコチと鳴っていく。
しばらく沈黙が続いた後。



「…はい。分かりました」



は素直に頷いたのだった。
やはり誘惑には勝てない。

先生の笑みを後ろに、は溜息交じりに部屋をでた。














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