|
決められたのなら とことんやろうか 「…と、いうことでして、これから宜しくお願いします」 まるで部に入ったときを思わせる緊張感。 というのも、両隣に先生と部長に挟まれて、準レギュラーの説明をされているから。 他の部員達は既に聞いているらしく、もう練習へ入っている。 となると、目の前にいるのはレギュラー七人。 自然と皆の視線の先にいることになるため、緊張感は更に倍だ。 「以上だ。ではレギュラーはランニングに入る」 「「「「はい!!」」」」 部長の声で目の前の七人が返事をし、一緒に歩いていく。 そこに自分が入ってることに気付いたもその後に続いた。 「よう!やったじゃねーか!」 「桃城先輩…とうわわわわわっ!髪!髪ぐちゃぐちゃになります!!」 何気にを待っててくれたらしい。 駆け寄ると同時に桃城が、頭をぐしゃぐしゃにするぐらい力いっぱい撫でてきた。 叫びをあげると、ようやくその手が止まる。 「ま、これから頑張ろうぜ。みーっちり鍛えてやっからよ」 「…は、はぁ…よろしくお願いします」 何かを弟か何かと同じように扱ってる気がする。 嬉しいというより、どちらかというと恥ずかしい気もする。 飛び跳ねた銀髪を整えながら一緒に歩く。 すると。 「あ、ちょっとタンマ〜」 「へ」 前の先輩からストップをかけられた。 見上げると、赤に近い茶色の髪と頬に貼られた絆創膏が印象的な人物がいる。 菊丸英二。 アクロバティックプレイを得意とする選手で、大石副部長とダブルスを組んでいる。 その二人は黄金ペアと呼ばれる実力だ。 人懐こそうな彼は、越前を無理やりの隣に並ばせる。 そしてマジマジと二人を見つめた。 「…何なんスか、菊丸先輩」 「えーっと、どうしたんですか?」 二人して首を傾げる。 すると、菊丸はやっぱり、とフンフン頷いた。 「ん〜、やっぱはおチビよりチビだにゃ」 「はうあっ!!」 改めて身長を比べられていたらしい。 キョトンとする越前の横で、は改めて大ダメージ。 気にしてることを…!と心の中で叫ぶ中、勿論隣では桃城が「ブッ」と噴き出している。 しかし、言った本人はあまり気にしていない。 フーンと見つめている。 「んー、どうしよっかなー。おチビより小さいってことはチビチビとか?」 「いやいや、でいいです。そんなあだ名とかいりません」 「ん〜よっし!じゃあ今日からチビチビで。よろしくにゃ〜チビチビ」 「聞いてない!?」 小さいという理由であだ名を考えられていたらしい。 全力で否定しても、全く聞いていないようで笑顔で「チビチビ」という名前を貰ってしまった。 どこぞの美少女戦士でそんな名前があったような気もするが、もう決定してしまった。 一人で納得して戻っていく菊丸。 ケラケラと笑いっぱなしの桃城。 取り残されたと越前は目を合わせた後、何となく歩き出した。 「…越前っておチビって呼ばれてたんだな」 「今日からアンタがチビチビだけどね」 「…チビ同士、頑張ろうな」 「アンタの方がチビだけどね」 「酷いっ!」 これ見よがしに同盟を組もうと思ったら、冷たくされてしまった。 サクサクと歩いていってしまう越前の後を追いかける。 桃城も笑いながら後ろからついてきているようだ。 さっそく九人で走るコースへと出る。 各々準備運動する中、テーブルの上に何か飲み物が置かれた。 一つは水、そしてもう一つは。 「……えーと…すっごい緑色ですね…大石先輩」 「……あ、ああ…。まさか……」 あまりの色に、はすぐ傍で顔を真っ青にしている大石に話しかけた。 どうやら彼はこの飲み物を知っているらしい。 青汁、にも見えるのだが、この青い顔はそれ以上の味を語っているように見える。 その前に、乾が眼鏡を上げながらニヤリと笑った。 「さて、ランニングで一番遅かった者は俺特製野菜汁だ」 「やっぱり!?」 「またっすか!?」 「イヤだ〜!俺絶対飲まないもんね!」 彼の言葉に、全員がブーイング。 いや、一人が微笑み、一人が無表情だ。 乾に訴えている皆から遠のき、とりあえず微笑んでいる不二に話しかけてみた。 「…不二先輩。あれは青汁じゃないんですか?」 「うん、乾が作った野菜汁だよ」 「…皆めちゃくちゃ嫌がってますけど…それだけ美味しくないってことですか?」 「ううん、美味しいよ?オススメ。ねぇ、手塚?」 「あ、ああ」 「はぁ……(でも最後の人が飲むってあたり、罰ゲームにはなってるのか…)」 どうやら不二は美味しいと思ってるらしい。 笑顔で勧められたが、飲みたいとも思わない。 何せ、あのいつも無表情の手塚の口が僅かながら歪んだからだ。 そして他の人のあの反応が凄い。 全員顔が真っ青だ。 「とにかく、絶対飲むわけにはいかねーな、いかねーよ」 「フシュー…」 そして、その次に燃える闘志。 いや、どちらかというと脅されて、こうでもしなければいけないという使命感。 後ろから見たら、クールな越前まで燃えているように見える。 (どんだけ飲みたくないんだ…皆) 青汁に似た飲み物が、あまりにも気持ち悪く見えてきた。 臨戦態勢に入る皆に見習って、も位置に着く。 「よーい……ドン!!」 合図がなって一斉に走り出す面々。 ランニングなのだから、自分の体力と持久力を考えながら速く走ることに意味がある。 のだが。 「どけどけどけどけぇぇぇ!!」 「ちょっ!英二先輩、突き飛ばすなんて卑怯っすよ!!」 「邪魔だ、どけ越前」 「海堂先輩こそ邪魔っす」 「……ええええええ」 皆最初から全力だ。 特に菊丸、桃城、越前、海堂が最初から短距離走のように飛ばしている。 ダッシュじゃなくて、ランニングの時間だというのに。 茫然としているの横では、手塚と不二が走っている。 中間には乾と大石だ。 「おいおい、いつも言ってるがこれはペース配分を考えてだな…」 「フ…特製野菜汁での効果アップの確立、98%だ」 と、忠告や確立を言ったところで前に人達に聞こえるはずがない。 全員が「あの汁は飲むまい!」と必死だからだ。 その空気はもう誰にも止められるものじゃない。 若干引きながら、は自分のペースで走ろうと決めた。 その途端、前を走る乾がくるりと振り向いた。 「そうだ、」 「は、な、何でしょう」 眼鏡がキラリと光る先は、自分。 走ってる最中にまさか前から声がかかるとは思っていなかった。 内心驚きつつ、少しだけペースを上げて乾の隣を走り出すと、彼もそれを待っていたように口を開いた。 「お前は持久力も体力も筋力も俺達と比べてかなり低い。コート上での力と言えば、ボールに対する瞬発力でテニスをしていると言って過言ではない」 「は、はぁ」 いきなりどこからか取り出したノートをパラパラと捲り始めた。 走りながらだというのに、器用だ。 どうやらのデータを読んでいるらしい。 まったくその通りのデータで、はどもりながら返事をした。 「俺達はこのランニングに慣れているが、お前は慣れていない。それも一つの要因だ。だからこそ、ハンデとしてお前に忠告しておこう」 確かにこの形式のランニングは初めてだが、一体何の要因だろうか。 何に対してのハンデなのか。 ますます何を言いたいのか分からないため、の顔がどんどん傾いていく。 乾はパッタリとノートを閉じ、眼鏡をくいっと上げた。 「つまり、だ。今のお前のペースで走り続けるとすると…ビリになる確率100%だ」 「へ」 「お前の場合は、あいつ等と一緒に全力で走った方がビリになる確率は少しは減る。それだけだ」 「え、えええええ!?」 乾の助言、忠告に、は叫びにも似た声を上げた。 今のままでは100%、あの飲み物を飲まされるということか。 そして、あの燃えている団体の中に入らないと確立は100%のままだというのか。 あんなに皆が嫌がる飲み物を、100%飲まなきゃいけなくなる。 (い、いやだ…!どんな味か知らないけど、いやだ…!) 自然と顔を青くしながら、走り続ける。 トップ集団はもう少し前を走っているため、全力で走れば間に合う。 それを確認して、は隣を走る乾に頭を下げた。 「あ、ありがとうございます乾先輩。頑張ります!!越前〜!!待って〜!チビ同盟の名において待って〜!!」 「イヤだ!」 「やっぱりっ!?」 教えてくれた乾にお礼を述べ、ペースを速める。 駄目元で越前に待ったをかけてみたが、燃えている彼の否定はいつも以上に力強い。 とにかく、は全力ダッシュでトップ集団に追いついた。 「おっ?チビチビ、やる気だなぁ〜?別に遠慮しないでビリになったっていいんだぞ〜?」 「いえ、遠慮します!菊丸先輩こそどうぞ!」 「オイ、俺の前を走るんじゃねぇ!ペース配分考えてテメェは後ろで走ってろ!」 「無理言わないでください海堂先輩!俺今、乾先輩から全力ダッシュでいかないと100%ビリだって予言されたんです!」 「〜、そこはビリになっとけって。飲まず嫌いはよくねーな、よくねーよ」 「皆が全力で嫌がるモノは飲まず嫌いでもいいじゃないですか〜!」 「いや、アンタは飲んだ方がいいんじゃない。静かになるじゃん」 「越前酷いっ!」 全員、我武者羅に走っているせいか、絡みも多い。 皆に「飲め!ビリになれ!」という声をかけられながら、もかけ返す。 こっちだって必死だ、負けたくない。 後ろの方では。 「…フッ。が入ることでトップ集団の体力の消耗が激しくなる確率…80%だ」 「…乾…」 計算高い笑みを浮かべる乾と、それに顔を引き攣らせる大石がいた。 この会話も、揉めているせいで聞こえない。 勿論、静かに走っている後方には聞こえたため、不二が薄らと笑っていた。 ラスト一周。 そうなった途端、後方組もラストスパートに入る。 「げっ!部長達来た!」 「えええっ!?速っ!!」 結構な距離を稼いでいたつもりが、一瞬にして追い詰められる。 トップ組も後ろをみながら、今まで以上に足を速める。 勿論、もだ。 「ふ、不二先輩!美味しいと言っていたのなら、不二先輩が飲んでくれても…!」 頼みに近い言葉を、息を切らせながら吐く。 すると、彼はいつも以上に涼しい顔で微笑んだ。 「うん、でもそれより、飲んで苦しんでいる人を見る方が楽しいからね」 「ええええ!?(鬼ーっ!?)」 優しそうな笑顔の裏に見えた、サディスティックな顔。 それを見た瞬間、の周りの温度は氷点下へ。 そして、の足は更に速まった。 ゴールまで数十メートル。 全員が押しあい圧し合いで駆けていく。 ゴール地点には、竜崎先生がのんびりと笑いながら立っていた。 どうやら、彼女がビリを見極めてくれるらしい。 「「「「「うぉぉぉぉおおおぉぉぉっ!!!!」」」」」 全員が全員、雄叫びをあげながら全力疾走。 ランニングとは一体何だったのかと思わせるぐらいのダッシュ。 手塚は無言だが、迫力のあるダッシュだ。 皆に負けないように、も一生懸命走っていく。 ハッキリ言って酸欠状態であるし、汗もだらだら、手足もクタクタだ。 それでも最後まで走らなければ、意味がない。 脇目もせず、ひたすら突っ走る。 「ゴール!!」 竜崎先生の声が遠くに聞こえる。 目の端にスタート地点だった真っ白い線を見つけてから、足がゆっくりと止まっていく。 数歩、心臓を落ち着かせるために歩いてから、はその場に寝ころんだ。 「…ハァー、ゼェー…やっぱキツイにゃ〜」 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……き、キツ…ゲホッ」 「おいおい、大丈夫か?」 「お。大石先輩、だ、大丈夫で……ゴホッ」 「だからペース配分考えろって言ったのに」 近くで菊丸が横になっているのを感じながら、目の前で心配してくれている大石に返事をする。 彼も汗がダクダクで息も切れているが、倒れるほどではないらしい。 凄いなぁ、と思いながら辺りを見回すと、大石、手塚、不二以外は倒れているに近い姿だった。 しばらくは立てそうにない。 息を整えて、気持ちをここに戻すだけで精一杯。 その前に立ったのは。 「ホレ、。ビリ」 「え」 緑の液体を持って通告する先生の姿だった。 あまりの衝撃発言に、の精神も一時停止。 下から見える、ドロドロとしたそれは渦を巻いているようにも見える。 ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた先生(そう見えているだけかもしれない)を見て、はしばらくしてガバッと勢いよく身体を起こした。 「え、えええええええ!?」 一瞬眩暈を起こすが、それは両手で身体を支えて倒れるのを耐える。 その頃には皆、その場に座りこんでを見つめていた。 「え!?俺がビリ!?嘘!?」 「嘘も何も、全員との差があと数メートルだったんだからビリだろうが」 「ふえええええっ!!?」 騒ぐを他所に、竜崎は冷静にコップをつきつけてくる。 反論しようにも、よくよく考えてみれば、ゴール直前の記憶がない。 とりあえず、反論すべく、アドバイスしてくれた乾の方を向いた。 「そんなことあるはずないじゃないですか!だ、だって乾先輩が、最初の方からダッシュしとけばビリになる確率が減るって…」 そう言ったから、前半からダッシュで、後半はもっともっと全力ダッシュだったというのに。 これじゃ惨すぎる。 真っ青になるを見て、乾は何も知らなかったように眼鏡をクイッとあげてノートを広げた。 「フム、確かに俺は減る、と言った。だが、まぁビリの確立が99%に下がっただけだ」 「ふええええっ!?減らないにも程があるっ!?」 結局は、確立が減ったにせよ、ビリになる確率が高すぎただけのこと。 勝ち誇った笑みを浮かべる乾に、の姿が砂になっていく。 そこに念を押すかのように、先生はコップを無理やり持たせた。 「覚悟を決めて、一気に飲むんじゃな」 「………」 「安心しろ、。身体にいいものしか入っていない」 「……」 そうは言われても。 真緑の中にところどころ、マーブルになってる部分を見ると、鳥肌が立つ。 しかもドロドロが固まった部分が、コップの縁について変色している。 (身体にいいものって、どんな定義だっけ…) 飲む前から涙が出そうだ。 あんなに頑張ってランニングというダッシュをしたのに。 (ハッ、待てよ!?もしかしたら美味しいかもしれない!不二先輩の味覚が俺にも備わってれば美味しいかもしれない!) 絶望の中の小さな希望。 それでも抱かなければ、そのまま動けなくなりそうだ。 ニコニコと笑う不二を信じて、は覚悟を決める。 息を吸って。 吐いて。 唾をゴクリと飲んで。 ーーーーーーーーーーゴクゴクゴクゴク 「「「「「……………………」」」」」 全員が固唾を飲んで見守る中、は最後まで飲み干した。 思いきりコップを地面に置く。 息を、思いきり吐く。 そして。 「…ひぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」 これまでにない大きな悲鳴と共に、水飲み場へと消えていったのであった。 (ひにぎゃーっ!!苦い〜…苦すぎるぅぅぅ!!!!!!!) (、頑張れ…) (ここに入った以上、越えなきゃならない壁なんだよ君…) (…見てるだけでその気持ちがヒシヒシと伝わってくるよね…) ちなみに、が水飲み場で死んでいるのを見て、一年トリオは全員手を合わせた。 |