時間があるのなら


有効に使おう












「フハー!!気持ち良かったねー桜乃!」


「うん!」



女子二人がキャッキャと声を上げる。
彼女達はお風呂を上がったところだ。
ちなみに竜崎先生はとっくのとうに上がっており、今頃ビールでも飲んでいるだろうか。
ゆっくりしていた二人にとってこの温泉は何とも、気持ち良いものだった。



「あーあ、私もこんな別荘あったらなー!」


「もう、朋ちゃんってば」



持ってきていた着替えを着て、浴場を出る。
彼女達が向かうは部長の元。
タイムスケジュールの関係もあり、「女子が上がったのでレギュラー陣どうぞ」と言う係だ。
少し緊張する役目であるが、彼ら男子テニス部との関係は長い。
そのため、そういう気持ちは少ししかない。

女の子二人は仲良く階段を上がる。
その間も話は尽きない。
他愛もない話が、いつもより盛り上がるのは合宿のせいだろうか。
普段大人しい桜乃も、嬉しそうに口を開く回数が多い。


そして辿り着く一つの部屋。
二人は仲良くノックした。



「手塚部長ー、小坂田でーす」


「竜崎です、入ってもいいですか?」



勿論、部長のいる部屋。
入っていいか確認した後、低い「ああ」という声で、二人はドアを開いた。



「失礼しま……何やってるんですか?皆さんで」



尋ねたのは積極的な小坂田朋香。
というのも彼女の瞳には、窓にこの部屋にいるメンバー全員が集合していたからである。
言わずもがな部長の手塚、そして同じ部屋にあたった乾と菊丸。
全員が窓の外を見つめていた。
そんな中、手塚が言葉を発する前に菊丸が勢いよく振り向いて、笑顔で口を開いた。



「こっちこっち!!」



手招く先は勿論窓。
頭の上に?マークを掲げながら、桜乃と朋香は素直にそちらに出向いた。
彼の向ける指の向こう。
真っ暗な星空の下、明るく見える場所と影。



「……え?テニス?」



見えるのは照明に照らされたテニスコート。
練習のときの場所とは違う、この合宿場所の隣にあるもの。
一つしかないそのコートではいくつかの影が動いているのが見えた。
見える顔は。



「…堀尾君達に、君?」



越前を抜かした一年メンバー。
照明によって照らされた場で、ラケットを持ち、ボールを追いかけている。
楽しそうに。



「さっきからああやって四人でテニスしてるんだよ〜俺達抜きで!」


「ええ!?堀尾達なら勝手にやればって思うけど…君さっきまでフラフラだったのに!」



菊丸の言葉に、朋香が驚くと同時に大声をあげた。
何せあの走り回っている中の一人は先程不二におんぶされて戻ってきた一人。
しかし今はそのような気配もなく、笑顔でラケットを振っている。



「練習終わってからフラフラしてたくせに、チビチビは現金だにゃ〜」


「フム…御飯を食べ、少し休んだこともあるんだろうが…まだ動きが鈍いな。まぁ、堀尾達も軽く練習している位だから軽い運動みたいだが」


「どっちかっていうと、練習後のアップしてるって感じだねー手塚!」


「ああ、そうだな」



そう、彼らは下で仲良くテニスをする一年トリオとを見ていた。
先程までヘバっていたの様子見、というのもある。
勿論、乾の場合はデータを取っているのだが。

そして、ようやく手塚が入ってきた少女へと目をやった。
彼女達もまた、そこで自分達がここに来た意味を理解して口を開いた。



「あ、あの、手塚部長。女子全員上がりました」


「そうか、分かった」



目的は女子が湯からあがったこと。
次に入るレギュラー陣を部長が全員集合をかけるため。
手塚は素直に頷いて、窓から離れた。
同時に彼女達も、そして今まで外を見ていた二人も動きだす。



「乾、菊丸。行こう」


「ああ」


「おっふろ〜!」



このまま三人で出て、それぞれの部屋を回って徴収をかけるのだろう。
それならば報告をしに来た女子がそのままいても失礼にあたる。
(というか着替えを用意し始めた菊丸を見て、いけない、と思った)
二人は挨拶をしてから、部屋を出た。

先程まで歩いていた廊下。
しかし、それが先程と同じようには見えない。



「…君、本当にテニスが好きなんだね」



桜乃の頭の中には、未だに達のテニスする姿がある。
先程までヘバっていたのに、すぐに復活してコートの上を走っていた。
いつもの、笑顔で。

朋香はほんとにねー、と感心したように頷いた。


テニス部の人達は勿論、テニスが好きでやっている。
怪我をしたとて、無理にでも試合をするほどだ。
もその中の一人なんだと思い知らされる。
疲れていても、誰よりも楽しそうに笑顔でプレイしているのだから。



「なんていうかさー、羨ましいよね、そーゆーの」


「うん」



一つのことに、情熱を持つ。
怪我など些細なことで、重要なのはテニスをすること。
その考え方は危ぶまれるものだが、それでも輝いて見える。
特に、そんな情熱を持てない人物にとっては。

あの笑顔が、眩しく映る。
一緒の場に立てない人にとって。



「…ね、桜乃!」


「ん?」



それでも、良い。
彼らのようにテニスに、何かに情熱を捧げられるような人物でなくても。
彼女達には彼女達の想いがある。



「私達も行って、応援してこよ!!」



その場に立てなくても。
同じ情熱を持てなくても。
外から応援することは、出来る。

それが彼女達にとっての、一つの情熱みたいなものだ。



「…うん、そうだね!」


「しっかりと君をバックアップしちゃうんだからー!」


「そうだ、君や堀尾君達にドリンクとタオル持ってってあげようよ」


「さんせーい!!君だけのでいい気もするけどぉ」


「もう…朋ちゃんてば」



二人はキャッキャと笑う。
誰かの役に立てる。
それはまた、一つの幸せの形。
仲間の、形。


レギュラー陣がお風呂を堪能している時間。
一年カルテットはテニスで汗を流す。
女の子達は差し入れを入れる。

青学テニス部の仲間達はこの合宿で、また絆を少しずつ深めていくのである。



くぅぅん!お疲れ〜!!ドリンク作ったから飲んで〜ぇ!」


「あ、小坂田、竜崎!ありがとー!!」


「あ、あの、堀尾君、カチロー君、カツオ君の分も持ってきたよ!」


「ありがとう竜崎さん!」


「うわぁ、嬉しいなぁ」


「小坂田!お前もちょっとは竜崎を見習えよな!とか越前だけじゃなくてこっちも相手しろってんだ!」


「何で堀尾なんか相手にしなくちゃいけないのよ!君の方が格好良いからこっちの方が良いに決まってんでしょ!ハイ君、ドリンクとタオル〜」


「ごらあああぁぁぁー!」


「何よ〜!やるっての!?」


「あはは二人とも仲良いな〜」


「「どこが!?」」