二日目の夜は



静かに過ごそう












と、いうわけで二日目夜。
晩御飯も無事食べ終わったところで、皆部屋で寛ぐ時間。
女子とレギュラーが入り終わり、お風呂は手伝っている男子が入っている。



「…はう…」



心地よい疲労感。
ベッドに倒れ込んで一息。
というのも、また晩御飯後に一年トリオと軽くプレイしたからだ。
勿論午前と午後の練習にも理由はある。

気持ち良さそうにベッドの上にいるの傍のベッドでは海堂と乾がいる。
それぞれノートを読んだり、筋トレをしたり。


(…んー、それにしても)


は枕に顔をうずめながら、そこらを見る。
もくもくとダンベルを上げる海堂。
ガリガリとノートに色々付け足していく乾。


(…静かだなー)


昨日とは大違いだ。
桃城が騒がしく、それに遊ばれると越前。
それに菊丸と大石、一年トリオが加わってジェンガや枕投げまでしたのだ。
あんなに騒がしい夜はもう来ないだろう。
このメンバーなのだから。


(多分、今日は菊丸先輩も桃城先輩も手塚部長と大石副部長がついてるから、遊ぼうとしないだろうしなー)


静か過ぎる部屋だが、居心地が悪いわけではない。
むしろ、心地よいように感じる。

ほげー、と寛いでいると、ゴツンと何かに軽く叩かれた。



「あいた!?」


「寝るんじゃねーぞ」



海堂のゲンコツだった。
どうやら眠たそうにしていたらしい。



「このまま寝てしまう確率、85%だったな」


「え、そんなに眠たそうでしたか?」


「ああ、かなりな」



乾もどうやら自分を監察してたらしい。
気付かずにのんびりとベッドの上で二人を監察していたつもりになっていた。
少し面目ない。
はふぅ、と一息を吐くと、その上から一枚のメモが降りてきた。



「…?」



丁度良いサイズの、メモ帳一枚。
書かれているのは文字の羅列。
メモが落ちてきた場所は、乾の手の平からだった。
そして落ちた場所はの手の平。

乾の顔を見れば、わざと落としたのは明らか。
手の中のメモと、彼の顔を見比べて、どうしたらいいものかと口を開いた。



「…これは何ですか?」


「さっき話しただろう。用のメニューだ」


「へっ!?」



言われた途端。
ガバッという音をたてて起き上がり、はメモを凝視した。

練習の片付けのときに話した専用のメニュー。
海堂とは違う内容。
軽めのように見えて、色々複雑なものにも見える。
ほえー、とするそれを、海堂も興味津々で覗きこんだ。



「…成程、さすがに俺のとは違うっスね」


「海堂のは長所の体力と筋力を伸ばすためだけのものだからな。…のは短所であるそれらを少しずつ補う、そして長所の技術と素早さをもあげるものにしてあるからな」



確かに、海堂に見せてもらったメニューと違う。
ついでに。



「…しかもなんか料理メニューも書かれてるのは…」


「ああ。食事も大切だからな。牛乳二本はいつも言っている通りだが、その他にもカルシウム、タンパク質、糖分脂質ミネラル…必要な栄養素が取れるメニューだ」



テニスだけではない。
料理のメニューまで書かれている。
メモの裏側にびっしりと。
作り方も事細かに。



「っこ、ここまで…っ」


は一人暮らしだろう。ならば自分でメニューを決められるだろうからな」


「す、すげぇ…」



ここまで書かれるとは思っていなかった。
目を見開いて驚くと、同様に驚く海堂。
いや、驚くというよりにとっては感動の方が大きい。



「い、乾先輩…っ!ありがとうございます…ここまでしていただいて…っ!!」


「俺は提案するだけだ。…実行するのは自身にかかっている」


「勿論、頑張ります!!」



ここまでしてくれたのだ。
やらない訳にはいかない。
望んだのは何より、自分なのだから。

乾の考えてくれたメニュー。
ランニング、筋肉トレーニング、やるべき技術トレーニング。
そして料理まで。
データを利用して作られたそれ。



「…えへへ」



嬉しいに決まっている。
笑顔でメモ用紙を抱きしめる。


(これで、もっともっと)


仲間がいる。
テニスがある。
練習メニューがある。


(もっと、もっと、もっと、もっと!)


昨日の自分より


今日の自分より





(強くなる!!)





遅くても、少しでも

強くなるために


楽しいテニスを

するために






「失礼しまーす!ー、お風呂お前の番だぜー!!」


「あ、うん!!」



ノックと同時に、扉は開かれた。
呼びに来たのは堀尾一人。
は笑顔で返事をして、メモを大事に鞄の中に仕舞う。
ついでに着替えも持ち出した。

最後の風呂の時間とはいえ、待たせてはいけない人物がいる。
が笑顔のまま、二人にぺこりと頭を下げた。



「じゃあ、俺お風呂に行ってきます!失礼します!!」



そして颯爽と去る。
はすぐにドアを閉めて走っていく。
ちなみに呼びにきた堀尾も一緒のようだ。
二人の話し声がこの部屋まで聞こえる。

しんと静まりかえる部屋。
それがなくなったのは、誰かの小さな笑い声だった。



「…全く、敵わないな。あそこまで正直に喜ばれるとは」


「はぁ」



笑ったのは乾。
溜息を吐いたのは海堂。

今まで青学のメンバーにいなかった性格。
あそこまで素直で無邪気な人物は、いただろうか。
このような反応は、彼らにとって新鮮だ。



「…これからが楽しみだな、海堂」


「…そっすか」



どう成長するのか。
どういう立場になっていくのか。

未だ見えることのない未来に、思いを馳せる先輩達であった。