|
男女の差は ないようであるような 「」 「ふぇ?」 お昼時。 一年同士で楽しく食べてた時に声をかけてきたのは竜崎先生だった。 「あ、竜崎先生」 「君に何か用ですか?」 「ああ、ちょっとね…」 「んぐんぐんぐ…んぅ!」 「ああ、そんなに急いで飲み込まなくても大丈夫だからゆっくり飲み込みな、」 もごもごとおにぎりを頬張っているため、声は出せない。 どうにか飲み込もうとするも、無理。 口を一生懸命に動かして、細かくしてからゆっくりと飲み込んだ。 「ふは……先生、どうしたんですか?」 「ああ、昼御飯を食べ終わったらちょっと私の部屋に来てくれないかい?少し話がしたくてねェ」 「あ、はい!了解です」 「頼んだよ」 言いたいことを言って去っていく。 それだけを言いにここまで来たのだろう。 後ろ姿を一年全員で見送る。 「…〜、何かやったんじゃねーのか?」 「そんなはずは……ないと……」 先生からの呼び出しは一体何の意味があるのか。 どちらかというと怒られるのでは、と思うのが普通。 堀尾の言葉に、が言い淀む。 そんな事したかと言われれば、よく思い出せない。 「堀尾君じゃないんだから…」 「何をぅ!?カチロー、俺がいつ怒られたよ!!」 「中学レギュラーのとき、よく怒られてたよね 」 「ぬぁぁぁ!カツオ!余計なこと言うな!!」 「あはは、そうだったんだ堀尾」 一年トリオの会話に、心が落ち着く。 憤怒する堀尾を見ながら笑う。 苦笑する桜乃と言い合う朋香、無視して食べ続ける越前。 心地よい風が、一年生の髪を揺らす。 (でも、何の用だろ、本当に) 思い返すだけ思い返しても出てこない。 しかし、今は食事が優先事項。 もごもごと手と口を動かす。 用件は、後でわかることだ。 「それにしても美味しい〜。カツオもだけど、小坂田も料理上手いんだなー」 「エヘヘー。うち、兄弟が多くてこれ位慣れてるのよー!じゃんじゃん食べてね、君!」 「うん!」 とにかく美味しく御飯を食べる。 今回御飯を作った小坂田を褒めつつ、味を堪能した。 ということで、御飯後。 迷ったら困るので、桜乃の案内付き。 先生の泊まっている部屋まで辿り着いた。 (矢印があったが、それでも辿り着ける気がしなかった) 「ありがとう竜崎!助かった!!」 「ううん、いいの!じゃあ私食器の片付けとかあるから…」 「うん、片付け頑張ってな!」 彼女にも仕事がある。 笑顔の三つ網少女に、も笑いかけて手を振った。 足音だけが残る、静かな廊下。 先生の部屋の前というだけで、少し緊張する程だ。 コンコン、と控えめにノックする。 「先生、です」 「ウム、入っといで」 「はい」 声の調子からして、怒っているわけではなさそうだ。 ドアをゆっくりと開ける。 部屋の中にあるベッドの上。 そこに、彼女はいた。 いつもと同じ笑顔。 手にはボードだ。 「先生、俺に用って…」 「ああ。まぁ、とりあえずドア閉めとくれ。後、一応鍵もかけてな」 「ふぇ?は、はい」 何故に鍵? そんな疑問を持ちながら、とりあえず鍵をかけた。 距離が遠ければ話しにくい。 近づけば、彼女はボードをベッドの上に置いた。 どうやらメニューのことで呼んだわけではないらしい。 キョトンとするを、先生は伺うように見上げた。 「、具合はどうだい?」 「へ?何のですか?」 風邪とか引いているわけでもない。 具合が悪いわけでもない。 怪我をしているわけでもない。 何のことかさっぱり分からない。 が、先生はそのまま真剣な瞳で口を開いた。 「男子高校生、しかも青学レギュラーにとってのスペシャルメニュー…」 「?」 「奴らにとってもかなりキツイメニュー内容だ」 「…はい」 何が言いたいのか分からない。 言っていることはごもっともなんだが。 あのメニューはキツイ。 納得することは納得するが、だがに対する言葉の本心が見えない。 「…本当に鈍いねェ」 「え」 何故鈍いという話に。 いや、確かに本心が分からないから鈍いと言われるのはしょうがないかもしれないが。 しかしこんな回りくどく言われても分かるわけがない。 溜息交じりの言葉は、その後本心と共にようやく吐き出された。 「…女であるアンタの身体、壊れてないかと思ってね」 「!!」 『女』と『男』 身体の構造の違いからなる、差。 『男』にあって『女』にないもの、そして逆も然り。 どんなに無視しても、無視出来ないものがある。 例えどんなに『男装』していたとしても。 「どうやら、合宿前に、月経は終わってみたいだが。…今までとは練習量が違いすぎる。女であるアンタには相当負担がかかっているかもしれないと思ってね」 「………」 『男子』、『高校』、『テニス』。 後者二つは例え同じでも、前者一つ違えば変わってくる。 試合も、内容も、動きも、流れも。 ないようで、あるような差。 決して同じにはなれない、大きな壁。 「…心配、してくれてたんですね。ありがとうございます」 は笑った。 嬉しそうに、そして悲しそうに。 男子テニス部に入部した。 沢山の覚悟を抱えて。 『女』を捨てて。 それでも、やはり身体は『女』で。 彼らとは違う。 「でも大丈夫ですよ!俺、氷帝でも鍛えられたし!」 だが、それに甘えたら負けだ。 氷帝の合宿の前から決めていた、覚悟。 『女』を捨てるからには、それに甘んじることなく『男』として生活を送る。 「それに、男とか女とか…そんなのに負けたくないんです、俺」 『女』だから『男』に敵わない。 そんなこと、誰が決めただろう。 テニスが男子と女子に分かれている理由に、負けたくない。 テニスは、テニスなのだから。 「言ったじゃないですか。ここに入る前。…お願いしたときに。…テニスが大好きだからこそ、妥協はしないって」 テニスが大好き。 その気持ちが全ての覚悟の元。 『女』、それがどうした。 『男』、それが何だ。 やるのは同じスポーツ。 目指すは、同じ場所。 「…俺、これでも負けず嫌いですしね」 男だからとか、負けて悔しくないわけじゃない。 レギュラー相手だからとか。 そんな理由で諦める性格ではない。 いつか超えたい。 いつか勝ちたい。 このままで、終わらせたくない。 「だから、心配しなくて大丈夫ですよ!!」 負けない。 もっと強くなりたい。 それは全員に共通する、性差を超えた『想い』 はっきりとした言葉と笑顔。 堂々とした態度。 それを見て、先生は溜息交じりに笑った。 (愚問、だったようだねェ…) 『女』 それを気にしていたら、最初からここにはいない。 そしてそれを理由にするぐらいなら、一か月もここで練習していない。 中学のときから氷帝の高等部の合宿に混ざっていない。 例え環境が環境だったとしても。 条件が、限られていたとしても。 覚悟は、生まれるものだから。 「…分かった!大丈夫なら問題なし!…ただし、何かあったら相談するんだよ。そのための顧問でもあるからねぇ」 「はい!!ありがとうございます!!」 「ウム、じゃあ戻ってよし!午後のメニューもキバってくんだよ!!」 「はい!!」 啖呵切ったからには、しっかりやっていく。 元気に返事をして、部屋を出る。 その後ろ姿を見送ってから、竜崎先生は苦笑を零しつつボードへと視線を落とした。 地区予選の対戦学校のトーナメント。 そしてそのオーダー表。 シングルス、ダブルス共に空白のまま。 その他はしっかり埋まっている。 (…ふむ) 午後もまだダブルスの試合が連続で行われる。 その出来具合がオーダーにも関わってくる。 勿論、個人それぞれの出来具合も。 そして相手の学校の特徴も。 「…これは楽しみだねぇ…」 部屋の窓から見えるのは、先程覚悟を言ってのけた。 途中で河村と会ったらしく、二人で仲良く歩いている。 憧れのパワーテニスプレイヤーの一人であるためか、あの紫苑の瞳がきらきらと輝いているのは気のせいではない。 色々助言を貰っているようにも見える。 中学時代と違うのは、河村がいないこと。 そして、がいること。 変化は訪れる。 どんな形だろうと。 |