楽しみな日は


すぐ来るというもの















合宿のしおりが配られて数日後。
あっという間にその日が来ていた。



「おおおおお…」



大きな荷物を持って学校に行けば、その前には貸し切りであろうバスが止まっている。
修学旅行のようで、はおもわず口を開いて声をあげた。

集合時間までまだ時間がある。
だが、バスの前には数人、準備をしているようだった。
見知った顔に、はスタスタと笑顔で走って近寄った。



「おはようございまーす」


「お、おはよう


「おはよう」



バスの前にいたのは、部長と副部長。
優しい笑顔と、いつもと変わらない顔に迎えられて、も笑顔を増した。

手塚は薄紫のワイシャツに黒のパンツ。
首元にはゴールドのリングのネックレスが光っている。
大石は緑と黄色のバランスの良いポロシャツと黄土色のパンツだ。
初めて見る二人の私服を見ながら、黒のスポーツバッグとテニスバッグを地面に置いた。



「早いなァ。ちなみに、が三番乗りだ」


「うわ、本当ですか?やったっ!」



特に理由はないが、早めに来てしまった。
どうやら部長と副部長の次にやってきてしまったらしい。
どこかそれが嬉しくて、素直に喜ぶ。

ピョンと跳ねると、シルバーの格好良いクロスがチャランと揺れる。
ちなみにの服は黒のTシャツ、その上にネックレスが通った白のカットソー。
紺色のジーンズにスニーカー、とどこから見ても男の子の格好だ。
…といっても、昔からこういう格好だったのだが。



「さ、大きな荷物はこっちに入れるから、貴重品と分けてくれるか?」


「あ、はい!」



大石の指示に、はすぐに動き出す。
スポーツバッグの中から、軽いワンショルダーバッグを取り出した。
中には財布やしおり、携帯やら大切な地図やらが入っている。



「…おし、忘れ物ない。大石先輩、分けました!」


「うん、じゃあバスの中に入れてくれ」


「はーい」



ワンショルダー肩に背負って、大きな荷物をバスの側面に入れていく。
既に手塚や大石の荷物は詰め込まれている。
また、合宿に使われるためのテニスボールが入っている段ボールも見受けられた。



「おはようございます」


「おはよ、海堂」


「おはよう」


「乾も早いなぁ、おはよう」


「おはよう、皆早いね」


「不二もいつものことながら早いな」



その間に続々とレギュラー陣が到着してるらしい。
此方まで声が聞こえてくる。
しっかりと荷物を置いたところで、はバスの側面から顔をひょっこりと出した。



「海堂先輩、乾先輩、不二先輩、おはようございまーす!荷物預かりますよ〜」


「おう」


「ああ、の方が早かったのか…予想通りだな」


「おはよう、これ宜しくね」



それぞれの荷物を預かって中へと入れていく。
それにしても乾の予想はどうやって組み立てられていたのだろうか。
訊いたら訊いたで何か言われそうだったので、黙って荷物だけ受け取る。
割れモノが入っていた場合のことを考えて、そおっと置いた。

ちなみに海堂はバンダナと黒のポロシャツに七分丈のパンツ。
乾は薄緑のワイシャツに、白いTシャツが覗いていて、黒のジーンズ。
そして不二は、紺色のキーネックカットソーに白のパンツ。
皆が皆、お洒落だ。



は結構シンプルな服が好きなの?」



ひょい、とバスの側面の荷物入れる場所から抜け出すと、目の前にいた不二がニコリと笑う。
今のの格好を見ての感想だろう。
キョトンとした後に、は苦笑を零した。



「あー…俺の場合は安くて俺に合えば何でも着るってだけです」


「クスッ、そうなの?」



の言葉に、彼はクスクスと笑う。
どこが可笑しいのかは分からないが、悪い気もしない。
また、これが真実なのだからしょうがない。
コクコクと頷いて、カットソーを見せるように広げた。



「はい。ちなみにこのカットソーとTシャツのセットは1000円だし、ジーンズも2000円です!靴も安いので…」


「フム…全部で4500円というところか」


「乾先輩、ビンゴです!」



上から下まで全部揃えて4500円。
素晴らしきかな、安い服。
他の服も大体こんな感じの安さで、何年か持つだろうもの。
ただ、この服は春と秋ぐらいにしか使えないが。

乾の言葉に力強く頷く。
しかし、彼は納得してメモを取っていた。
…何に使うのか、まったく分からない。

そんなことは全くの無視、とばかりに不二は人の良さそうな微笑みを見せた。



「そうなんだ。そんなに安い店があるなら、今度教えてくれる?」


「あ、はい!勿論です!安くて、品質をそんなに考えなくて良いとこなら沢山知ってます!!そんなんで良ければ!」



不二の言葉に、は満面の笑顔で答えた。
そのお勧めの仕方はどうだろう。
聞いていた手塚は顔を顰めた。



「…その答え方はどうかと思うがな…」


「フフッ、本当に面白いよねは」



だが、不二のツボには入ったらしい。
クスクスとひたすら笑っている。

しかし、当の本人には分かっていない。
笑顔のまま首を傾げている。
すると、遠くから元気な声が聞こえてきた。



「おっはよ〜ん」


「おざーッス!」


「…ちっす」



菊丸、桃城、越前の三人組だ。
途中で出会って、ここまで一緒に来たのだろう。

菊丸は大き目のプリント入りTシャツとカーゴパンツを、桃城はロゴ入りのTシャツとジーンズ。
越前はボーダーの入ったポロシャツにハーフパンツ、と少年らしい格好だ。

いつもどおり、元気に跳ねている菊丸とのんびり歩いてくる桃城。
それとは対照的な…。



「おはようございます!……ところで越前が、めちゃくちゃ眠そうですけど…?」



あちこちから挨拶の声が上がる。
そんな中、の目はハッキリと、同学年の越前に向けられていた。

目を擦りながら、若干半眼。
歩きすらフラフラに近い。
声もどこか虚ろだ。
興味深く覗き込むに、桃城がケラケラと笑った。



「あー、コイツ朝弱ェんだよ。今回は遅刻しねェように俺が迎えに行ったんだけどよ」


「あー…朝練よりも早いですもんね、集合時間」



ちなみに集合時間は朝六時。
家を出るのは遠い人ならば四時起きになるだろう。
越前からしてみれば、朝五時起きが響いているらしい。
爽やかで少し五月蠅い二人に揉まれたのか、不機嫌そうだ。



「これから楽しい合宿だっていうのに、おチビはまだまだ!だね〜」


「そういう菊丸先輩はテンション高すぎっス…」



欠伸交じりで返す様は、本当に眠いのだろう。
どこか可笑しくて、クツクツとは小さく笑う。
そこに、菊丸が肩を組んできた。



「チビチビはそんなんでもないの〜?」


「俺も朝苦手ですよ。ただ今日はウキウキして早めに目が覚めただけです」


「マジで?!実は俺もなんだ〜、お揃いだにゃ〜」


「アハハッ、ですね」


「…子供<ガキ>じゃん」


「「何を越前(おチビ)!!」」



同属として仲良く笑っていたら、痛烈なツッコミが入ってくる。
テンションが低いとて、言いすぎだ。
欠伸している越前に、菊丸とが食ってかかった。

勿論その隣では桃城が大爆笑。
大石は「コラコラ」と食ってかかる二人を越前から力づくで離した。



「ホラ、英二も越前も!桃も荷物をバスの中に入れて!準備出来次第、出発するぞ!」


「「「はーい」」」



しっかりと促せばさすが副部長の言うことだけある。
渋々と荷物を運んでいく三人組。
どちらかというと、お母さんにそう促されているようにも見える。

その後ろ姿を見ながら、はアレ?と首を傾げて大石を見上げた。



「…あれ?先生や他の人達を待たなくていいんですか?」


「しおりに書いてあっただろ、先生達には先に行ってもらってるんだ」


「…そうでしたっけ?」



そんな情報は初耳だ。
キョトンとしている横で、乾がボソリと口を開いた。



「…がしおりをしっかりと読んでいない率、99%だ」


「……」



しおりを作成した手塚が見下ろしてくる。
どこか威厳のような、哀愁のような…いや、むしろ呆れだろうか。
あれほど読んでおけと言ったのに、と無表情ながら顔に書いてある。
その表情に、は顔を青くしながら首を横に思いきり振った。



「は、はわわ、いや、読みましたよ!しっかり読みました!!…後ろの持ち物チェックシートは完璧に」


「…そこはタイムテーブルや注意事項を読んでおけ」


「……ごもっともです…海堂先輩…」


「ププッ」



もっともな指摘を受けて、は素直に項垂れた。
遠くから不二の笑っている声が聞こえる。
一番重要なところが、持ち物チェックシートだと思っていたのだからしょうがない。
手塚は大きな溜息を吐いた。



「…バスの中で読んでおくように」


「はーい…」



車に酔わない程度に、軽く目を通しておこう。
そう思った途端、乾の口の端が上へと向けられた。



。あっちに着いて軽いテストをして、60点以下なら俺特製の改良型野菜汁を飲ませてやろう…」



その言葉に、は一時停止。
そして数秒後、悲鳴と共に口を開いた。



「はぇぇぇっ!?読みます!!バッチリ完璧に読みます!!…っていうかそこまでしなくても!?」


「その方がやる気出るだろう?」


「やる気じゃなくて、それ脅しですよぅぅ!」



もはやこのやりとりも日課になりつつある。
が、にとっては死活問題。
涙目になりながら、すぐさましおりを読み始めた。
それを見て、笑う策士。



「…フッやはりこの方が効果的か」


「乾…いや、もう何も言うまい…」


「…からかわれすぎだろ…」



大石がに同情し、海堂が呆れる。
勿論その間は不二が笑いっぱなしだ。
薄らと涙すら見える。

バスの中に荷物を入れた三人を確認してから、手塚は集合をかけた。



「これからバスで合宿する場所へと向かう。皆、油断せずに行こう!」


「「「「「「おーっ!!」」」」」


「…部長、コイツ聞いてなさそうだけど」


「…つーか、何で必死にしおり読んでるんだコイツ」


「めっちゃ目が血走ってるよ〜?どったの?」


「フッ……」



こんなやりとりがあった後、は手塚に叱られ。
全員でバスに乗り込んだのであった。















第2話<<   >>第4話