貸し切りのバスだから



ハメを外しても大丈夫な気もする













「全員乗ったな」


「「「「はーい」」」」


「じゃあ運転手さん、お願いします」


「はい」



部長の声に、返事をする部員達。
今はバスの中だ。

そして、彼の言葉でバスはゆっくりと動き出す。
手塚はすぐに己の席に座った。
席は決まっていないため、各々好きな場所に座っている。
また、広々しているため二人の席を一人で占領することが出来る。


後ろは騒ぎたい組。
つまり菊丸、桃城、それに付き合わされる形の越前だ。
中間は彼らを抑える組。
大石や不二、乾だ。

そして前は。
静かになりたい組、手塚、海堂と
と、いうよりも。



〜、後ろでトランプしようぜ」


「俺、乗り物酔いするんで、前で寝てます〜」



そう、の場合乗り物酔い。
そのため、乗り物に乗れば寝ることが当たり前。
また、場所としては前の方、窓際が酔いにくい。
(後ろだと遠心力か何かで凄く酔う)



「ああ、だから乗る前にしおりを読んでたのか」


「ピンポンです、大石先輩!」



そして、そんな中で活字を読んだらアウト。
気持ち悪さが頂点に達してしまうだろう。
だからこそ、バスに乗る前に真剣に読んでいたのだ。
(話を聞いてなくて、怒られたが)



「と、いうわけで寝ます!」



ここは素直に自己主張。
全員に宣言して、窓に身体を預ける体制に入る。
備え付けの毛布も装備済みだ。



「ええー。チビチビと一緒に遊ぼうと思ってたのにぃ〜」


「チェ〜、つまらねぇ〜なつまらね〜よ」


「…俺も前で寝て来てイイっスか。眠いんで」


「「越前(おチビ)は逃がさねぇぇぇ」」


「何で…」



後ろから不満の声があがっているが無視。
というよりも、苦笑が零れる。
五月蠅くなってきているが、大石がどうにか押さえてくれるだろう。



「酔うと辛いからな、しっかり休んでおけ。しおりは後でいい」


「はい部長!有難うございます!」



部長から許可が下りた。
しおりの話は後で良さそうだ。
は素直に喜んで、軽く手を上げた。



「じゃ皆さん、おやすみなさいっ!」



早起きしてしまった分も、寝て元を取る。
はそのまま、もそもそ、と毛布の中に身体を入れた。

適度な振動。
温かい毛布とカーテン越しの暖かい日差し。
落ち着く、適度な騒音。

目を閉じた数秒後。



「…スゥー…」



はあっさりと眠りに落ちた。



「…早いッスね」


「…ああ、早起きしたと言っていたから、そのせいだろうがな」



前にいた海堂と手塚があっさりと寝るを見て少々呆れる。
後ろからは騒音にも取れる声が沢山響いているというのに、だ。

それを確認すると、二人もそれぞれ自分達のしたいことへと走る。
手塚はスケジュールを再び把握、その後読書。
海堂も自分の席で眠りに入った。

前が静かになる。
そこで騒がしくなるのは、勿論後ろだ。



「きた〜!!アーガリっ!」


「うぉぉ!?菊丸先輩また大富豪っすかァ!?ありえねーな、ありえねーよ」


「桃先輩がそんな小さい数のカード出すからッス」


「何を、越前!これでどうだ!!」


「はい、俺もアガリ」


「うそぉぉ」



後ろの三人組は大富豪で盛り上がっていた。
ちなみに菊丸連勝、桃城連敗。
越前はずっと平民だ。

中間では不二がその様子を穏やかに見守っていたり。
乾がその勝敗をデータとして取っていたり、大石がその大声を窘めたり、だ。



「…ふあぁ」


「なんだよ越前。欠伸の数が多くなってるぞ」


「だから言ったじゃないッスか、早起きして眠いって…」



そんなゲームの最中でも大きな欠伸が出る。
しかもかなりの頻度で。
桃城が注意したところで、越前の欠伸が止まるわけではない。



「越前、やっぱり前で寝てきたらどうだ?あっちに着いたらすぐに練習が始まるし…」


「そうしたいッスけど…」



大石が助け舟を出す。
そこに越前が乗ろうとするが。



「ええ〜おチビがいなくなったら大富豪の相手が減る〜!」



勿論、それに反論する人間が少なからず二人はいる。
ゲームの人数が少なくなるのは避けたいらしい。
ブーイングする子供に、大石は溜息をつきながら口を開いた。



「じゃあ俺が変わるから。寝てきなよ。それでいいだろ、英二、桃」


「しょうがないにゃ〜、それならいいよ」


「っし!大石先輩になら勝てる気がするッス!」


「コラ桃!俺だって手加減しないぞ!」



しょうがない、とばかりに大石が参戦。
越前の代わりなのだが、桃城の言葉に少し火が着いたらしい。
やる気満々だ。

越前の席に大石が座る。
カードが切られていく中、越前は眠い目を擦りながらその場をどいた。



「サンキュ、大石先輩。じゃ、お言葉に甘えて寝てくるッス」


「ん、おやすみ」


「ッス」



フラフラと越前が前へと移動していく。
不二や乾の横を通り過ぎ、ただひたすら前へ。

そこらに置いてある毛布を取って、静かな場所を見つける。



「スゥー…」



眠ってる人の隣が一番寝やすい。
誰よりも一番先に呑気に寝ている人物の隣にストンと吸い込まれるように座った。
(海堂も寝ていたが、さすがに寝起きに彼の恐い顔を見るのは嫌だった)



「…人が絡まれている間に、気持ち良さそうに……」


「…スゥー…」



隣で寝ている人物は随分と気持ち良さそうだ。
カーテンが引かれ、銀色の髪は影になって輝きはしない。
毛布にくるまって小さくなっている。



「…ふぁ」



寝ている人物の隣にいると眠気が増す。
越前は大きな欠伸を一つして、と同じように毛布へと潜り込んだ。

しばらくすれば寝息が二つ重なる。
後ろの騒ぎとは別の空間。
静かすぎるそこに、不二はそっと様子を見に来た。
カメラを持って。



「…クスッ、一年二人組は仲良しだね」


「…不二、何だそのカメラ」



不二のコメントに、静かに本を読んでいた手塚が顔を上げた。
若干顔が歪んでいる辺り、呆れている。
不二は、というと良い笑顔で二人が寝ている前の席へと回り、カメラを構えていた。



「いや?新しい仲間も増えたことだし、また写真撮っていこうかと」


「…寝顔を撮るのはどうかと思うがな」


「フム、これまた良いデータが取れそうだ」


「…何のだ、乾…」



同じように、暇だったらしく乾まで出てきた。
二人の寝る姿を見て、何かメモしている。
確実に手塚の口から溜息が零れる。
寝顔を覗きこんでいる二人の顔は、同じように何かを企んでいるもの。



「フム…越前は自分から喧嘩、というか試合を申し込むことはあっても、慣れ合おうとはしなかったからな。同じ一年というのもあるだろうが、には幾分か心許しているようだ」


「そうだね。良い傾向だよ。…ただ、眠気に負けただけかもしれないけど」



三人の目には、仲良く寝ている一年二人組の姿が映っている。
どこか穏やかだ。
まぁ、ただグースカ寝てるのだが。



も人懐こいところがあるしね」


「ああ、それに絆された、というデータも取れている」


「…」



乾のデータ発言に、手塚はツッこむための口を噤んだ。
どこで取ったんだ、そのデータはと言いたかったが、それを言ったら負けだ。
ここは無視して手塚は読書へと行くことにした。



「でも、これは珍しいショットになるね……クスッ」



パシャリ、とカメラ特有の音が響く。
しかし、その音で二人が起きるわけがない。
ぐっすりと寝たままだ。

その後、不二はバスの車内で、他のメンバーをも撮り始めた。
読書する手塚やデータを取る乾。
大富豪で盛り上がっている菊丸や桃城、大石。
そして、不二自身も撮ってもらったり。



「…遠足か?」



手塚の言葉は、誰にも届くはずもなかった。














第3話<<   >>第5話