到着したら



まず、挨拶をしよう













バスがピタリと目的地に到着する。
運転手がそのことを告げると、手塚が立ちあがった。



「よし、着いたぞ。皆、降りるから準備をしろ」


「「「「はい!」」」」



起きていた面々は着実に降りる準備をし出す。
また、海堂もその音に起きて、つられるように準備をし始めた。

が。



「…すぅー…」


「…くー…」



一年二人組は寝入ったままだ。
平和に寝息を立てている。
それを見つけた大石は、即効二人の肩を揺すり起こした。



「ほら二人とも!着いたぞ」


「……ンム……お母さん落ち着いてください…それは…ムーンサルトで…バク転じゃないです」


、何の夢見てるんだ!?」


「う〜……カルピン、レンジに入ったら…親父が…チンするから入ったら駄目だって…」


「越前も変な夢見てる!?」



若干意識が浮上したものの、未だ夢の中。
しかも変な寝言入りだ。
起こしている大石はツッコミを入れながらも、頑張って揺すり起こした。



「ほら!越前!着いたってば!!」


「うー…?」



ようやっと、二人の意識が覚醒し始める。
薄らと見えてくる現実。
目を擦って、目の前にいる人物を見上げた。



「…大石先輩?…おはようございます?」


「うん、おはよう。ほら、準備して。着いたよ」


「………ふぁっ!あっ!そっか合宿のバス……っおおおおおはようございます!!」



寝呆けていたため、自分が今、どういう状況かすっかり忘れていた。
はガバリと起き上がって、辺りをキョロキョロ見回した。
バスはピタリと止まっていて、カーテンの向こう側には自分達が泊まるだろう別荘が佇んでいる。
合宿のことを今更思い出した。

叫ぶように、大石に挨拶をする。
彼は苦笑で応えてから、越前へと視線を戻した。



「…それにしても越前は本当に目覚めが悪いな…越前!!」


「……ん……あれ、大石先輩?何でいるんスか」



越前もようやく大石がいることに気がついたようだ。
だが、先程のと同様、状況を把握出来ていない。
やや不機嫌そうな顔に、はすぐさまフォローに出た。



「え、越前!俺達合宿来てるんだよ!!」


「あー…そうだったっけ」


「反応薄っ!ホラ越前、早く仕度!!」


「分かった…ふぁ」



ここでようやく覚醒。
しかし、寝起きだからか動きが遅い。



「全く…俺も手伝うから、早く降りるぞ」


「すみません大石先輩!」



も起きてはいるが、やはり動きが遅い。
それを見兼ねて、大石も一緒に手伝ってくれる。
他の人達は降りて、バスの中から荷物を下ろすのを手伝ってるようだ。

越前は至ってマイペースだ。
と大石が一生懸命に動いているというのに。



「ふぇああああ、おはようございます!すみません荷物下ろしてもらっちゃって!!」


「起きたか…」



若干忙しなく三人がバスを降りる。
すると、荷物は全部下ろされていた。

もう全員が待っている状態。
と大石が謝りながら降りてくると、手塚が溜息混じりに出迎えた。
…勿論、その後から続く越前はまだ欠伸をしていたが。



「忘れ物とかありませんか?」


「ハイ、確認したので大丈夫です。ここまでありがとうございました」


「いえ、では三日後、時間に来ます」


「宜しくお願いします」



手塚がバスの運転手に挨拶を済ませる。
すると、運転手は軽く頭を下げた後、運転席へと戻っていく。
軽く動き出したところで、全員が整列をした。



「「「「「「あざっしたーっ!!!」」」」」」



礼も全員で。
Uターンをした運転手は元気よく挨拶をする部員に笑顔を向けて去って行った。

バスが見えなくなったところで、各々荷物を持って別荘まで移動する。
辺りは森林に囲まれ、木漏れ日が零れる。
空気が美味しい、広々とした場所。



「良い場所だな、手塚」


「ああ。三日間とはいえ、良い合宿に出来そうだ」


「気持ちいいにゃ〜!」



部長と副部長がどこか嬉しそうに先導し、後ろで菊丸が大きく伸びをする。
天気も見事に晴天。
荷物を置いた後、すぐにでもテニスの特訓が出来そうだ。

も気持ちよくて、ついつい小さく欠伸を押し殺す。
ちなみに越前は堂々とだ。



「「「「「…おおおおおお」」」」」



今回お世話になる合宿先の前に、そこにいるメンバーのほとんどが声をあげた。
別荘は結構大きめのペンション。
洋風の作りで、お洒落だ。

呆けていると、自動的にドアが開いた。
中から人影がにょっきり出てくる。



「お、来たね」


「「「「「先生!おはようございまーす!!」」」」」



ペンションから出てきたのは、先に来ていた先生。
どうやら色々と準備をしていたらしい。
そしてその後ろ。



「あ、おはようございまーす!」


「お、一年トリオと女子二人組じゃねーか」



堀尾、カチロー、カツオの一年トリオ。
そして三つ網のおさげをした可愛い女の子と、頭の上で二つに結っている可愛い女の子が顔を出した。
前者が竜崎先生の孫の桜乃、後者が彼女の親友の小坂田朋香だ。



「おはようございます、あの、今回の合宿も手伝わせていただきます」


「バッチリ皆さんをサポートしますから、安心してください!どーんと、大船に乗ったつもりで!」


「と、朋ちゃん…」



ちなみに性格は正反対。
大人しく生真面目な桜乃に対し、ミーハーで若干お調子者の朋香。
だからこそ、合うのだろう。

いつもどおりの二人組に、笑いが零れる。
手塚はただ生真面目に「宜しく頼む」と声をかけた。
その近くで、はピラピラと二人に手を振った。



「やっぱ、女の子がいると和みますね〜」


「キャーッ君が可愛いって言った〜!」


「と、朋ちゃん、言ってない、言ってないよ」



の言葉が屈折して朋香に伝わった。
恐るべしミーハー。
桜乃が焦りながら訂正しているが聞こえていないようだ。
しかし、それに悪い気も起きず、は一人和んでいる。



「手塚部長!掃除は完璧に終わったんで、タイムテーブル通りにいけるッスよ!河村先輩はもうコートで準備してるッス」


「そうか」



そんなやり取りを無視した堀尾の報告に、手塚が頷く。
タイムテーブルではこのまま荷物を置いて、身体のアップを始めると書いてあった。
そう思い返していると、案の定部長は振り返って、口を開いた。



「では、それぞれ荷物を部屋に置いてジャージに着替えるように。三十分後、ここで集合だ」


「「「「「「はいっ!!」」」」」」



指示を聞いて、それぞれが玄関を潜り抜ける。
中も綺麗に洋風で統一されている。
少し広い玄関ホールを抜け、一年トリオや女子二人組についてそれぞれ部屋に案内される。
、桃城、越前は桜乃に続いて、二階の一室へと導かれた。



「はい、ここが皆さんの部屋になります」



カチャリと開かれた部屋は、どこぞのホテルのようだった。
広く、ベッドが三つ並ぶ向こうには大きな窓に映る緑色の景色。
綺麗、としか言い様がない。



「おおお!?凄ェ!」


「へぇ…ホテル並じゃん」


「凄いよね。私も掃除しててびっくりしたんだ…と言っても、管理してる人が掃除してくれたらしくて、あまり何もしてないんだけど」


「そうなんだ…お疲れ竜崎」



苦笑を零す桜乃に、も苦笑で返す。
ちなみに興奮した桃城は荷物をそこらに放っといて、窓に走っていってしまった。
対照的に越前は静かにベッドの上に荷物を置いた。
…ちゃっかりベッドを占領してるあたり、彼らしい。



「おおっトイレもついてるぜ!」


「一室にトイレとか…もうホテルでいいじゃん。どんだけこの別荘建てた人金持ち?」



桃城と越前が部屋を探索している間、はひたすら桜乃とのんびりと話していた。
女同士、というのもある。
勿論、桜乃はそんなこと知るわけがないのだが、どこか波長が合うのだ。



「ちなみに浴場は一階にあるよ。温泉が沸いてて、凄かった」


「そうなんだ!俺温泉楽しみでさ〜…広かった?」


「うん、結構広かったよ。綺麗だったし」


「わ、すっごい楽しみになってきた!早くその時間にならないかな」



楽しみにしてた温泉が広いのなら、言うことない。
テンションもどんどん上がっていく。
桜乃も笑顔で頷いてくれている。

しかし、そんな悠長なことをしている暇もない。



「おぅい〜。お前も早くトイレで着替えて来いよ。遅れたら手塚部長に大目玉喰らうぜェ?」


「はわっ!それは嫌です!!」



桃城からの助言に、は顔を青くした。
部長の大目玉、即ちグラウンド何周やらの罰。
ここでそんなものをやらされたら、一人で迷子になってしまうだろう。
それこそ、お金が飛ぶ。



「じゃあ私はまだ準備があるから、これで…」


「あ、うん。またな竜崎〜」


「おう、ありがとよ」


「ん」



桜乃が部屋を出ていく。
三人はそれぞれ彼女を見送った。
パッタリと閉じられた扉を見てから、三人はまた動き出した。



「じゃトイレ借ります〜」


「おう」



荷物を置き、は着替えを持ってトイレへと入る。
綺麗すぎるトイレには小さく「ふぉぉ!」と歓声を上げた。
どんだけ凄いOBなのだろうか。
そんなことを考えながら、ジャージへと着替え始めた。

今回はレギュラージャージではなく、私物。
の場合は黒い短パン、上は白いシャツに黒紫のラインが入ったもの。
そして確認するのは。


(うん、サラシはしっかり巻いてあるし…黒のタンクトップ着てるから、どんなに動いても腹は見えない…と)


確実に女だとバレないようにするための準備。
特にお泊りだからこそ油断は出来ない。
いつもより、多くの時間を皆と共に過ごすのだから。
ちなみに下着も、見られても大丈夫なように男物のトランクスだ。


うし、と気合を入れる。
ついでに用を足してから外へと出た。



「お、準備出来たか〜?」


「はい、出来ました!」



桃城と越前は準備万端。
ちなみに集合時間まで少し余裕がある。
ラケットも装備済みだ。



「うし、じゃあ早いけど行くかぁ」


「はい」


「うぃッス」



早いことに越したことはない。
遅くなって怒られるよりはマシだ。

三人はのんびりと外へと出ていく。
集まる場所へと。















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