何かがあれば



性格変わる人だっている













「…よし、全員集合したね」



再び玄関外。
小さな広場になってるそこに、先程バスで到着したばかりの面々と、その前に先生が立つ。
ちなみに一年トリオと女子二人組は料理の準備があるそうで、別荘の中だ。

竜崎先生はジャージに着替えた全員をそれぞれ見やりながら、腰に手をあてて口を開いた。



「さて、じゃ、テニスコートに連れていこうかね。しっかりついてきな。…特に!」


「ほほほほぁい!!」



連れてってくれると思いきや、いきなりの名指し。
呼ばれたはドモりながら、思いきり妙な返事で返した。
それを見つつ、先生は真剣な顔で。



「はぐれるんじゃないよ!」



と言い放った。



「ほほほっ、ほぁいっ!!」



も焦りながら、真剣に返事をした。
そこらから笑いが零れる。
調子に乗った人物が、に飛びついた。



「だいじょーび!チビチビがはぐれないよーに、俺がついてるから!」


「…菊丸先輩じゃ心配なんで、大石先輩お願いします…」


「コラーッ、それどういう意味!?」


「いや…菊丸先輩だと調子に乗って俺を引っ張って、二人で迷子になりそうだなと…イタタタ!」


「何ぉぉぉ!?チビチビのくせにぃぃぃ」


「こら英二!やめないか!!」


「…手塚、ワシも見るが…頼んだぞ」


「…はい」



菊丸が名乗り、がそれを否定して怒られる。
その菊丸を宥める大石。
この二人では逆に危ないかもしれない。
気がついたら三人ともはぐれていた、という可能性も否定できない。

先生はすぐに部長の手塚に、頼み込むことにした。
…と言っても彼女も目を離すつもりなどないのだが。



「クスッ…皆で監視状態で移動なんて、初めてだね」


「ああ、大体うちのメンバーで、のように酷い方向音痴はいないからな」



そんな中、不二だけが酷く楽しそうに笑っている。
今までにない経験だからだろう。
乾に至ってはデータとして換算してるらしい。
そんなメンバーを見つつ、先生はすぐに足を前へと踏み出した。



「とにかく、行くよ!ホレホレ、出発〜」


「…気合入りまくりだろ」


「ホントッスね…別荘が豪華だったから機嫌が良いのかも」


「大石先輩、英二先輩、〜。もう行くってよ〜」


「「「ああ!(ほーい)(はいっ)」」」



先生を先頭に、海堂、越前など、ぞろぞろメンバーがついていく。
じゃれついていた三人が桃城に呼ばれて気付いて、一緒に歩き出した。
ちゃんと、しっかりと前に続く。
子供二人を連れていく大石は、やはりどこかお母さんっぽい。

森林の小道を歩いていく。
木陰の涼しさを感じながら、小鳥の囀りを聞く。



「あ、一本道なら分かりやすいですね!」


「おお、良かったな。大丈夫そうか?」


「無理だよ大石〜。チビチビは一本道でも迷うよ?」


「そ、そんなことないですよ!一本道なら行けます!……多分」


(((((無理だな…)))))



そんな会話をしつつ歩いていること五分。
開けた空間が見えてくる。
緑色の金網、あの色のついたコート。



「お、見えてきたな」


「?誰か人がいますね?」



桃城の言葉に、も顔を上げてコートに目をやる。
大好きな場所には、人影が見えた。
そこを整備している、茶髪の、少しモミアゲが長い一人の男の人。
首を傾げる横で、他の全員は知っていたようで笑顔を輝かせている。
その男性は青学のメンバーを見つけると、大きく手を振った。



「おーい、みんな〜!!」


「「「「河村(先輩)(タカさん)!!」」」」



以外の全員が声を揃えた。
私服のジャージに身を包んだ彼と同様、全員が嬉しそうだ。
彼らが呼ぶ名前に、は素直に納得した。

見えた人は、ビデオで何回か見たことある。
青学の中等部でのテニスを支えた人、三年の河村隆だ。



「タカさ〜ん!なんか久しぶりッス〜!」


「ハハッ…桃も大袈裟だなぁ。学校で何度も会ってるだろ?」


「悪いな河村、遠いところを」


「何言ってるんだよ手塚。久しぶりにテニスに触れられるんだから、こっちがお礼言わないと」



全員がそれぞれ河村に話しかけていく。
彼もそれに対応し、笑顔で会話していく。
遠くから見れば、今も尚、一緒にテニスをしている仲間のよう。
先生がそれに気付き、の背中をポンと叩いて河村の前へと出させた。



「ホレ河村。この子が話してただよ」



初めて会った人であるため緊張する。
身体が強張って、とにかくピシリと固まっているに、河村が目を瞬かせて口を開いた。



「あ、君が…」


「はははははい!と申します!」


「皆から話は聞いてるよ。俺は河村隆。中学のときここのテニス部だったんだ。よろしくね」


「よよよよよろしくお願いします、河村先輩!!」



優しい笑顔で挨拶をされる。
どこか癒される感じだが、緊張しているはそれどころではない。
何せビデオで何回も見た、憧れのパワープレイヤーの一人。
緊張のあまり、技の一つのように、腰を綺麗に直角に曲げる。
それを見て河村が懸命に両手をぶんぶんと振った。



「そ、そんなに畏まらないでいいよ!俺テニス部員じゃなくなってるし、皆みたいに上手くないし!」


「いいいいえっ!ビデオで河村先輩の活躍はバッチリ見まして…その、憧れですっ!!パワーテニス、凄かったですっ!!」


「ハハッ…そんなんじゃないのに」


「いえ、あの凄さと言ったら…語れません!こう…ガツーンっバーンッどーんって感じでっ!」



憧れを語り出したらとまらない。
というのも、に足りないのはまさに、力だからこそだ。
河村を見る目がキラッキラッと輝いている。
興奮しているせいか、言葉も擬音語だらけだ。
尊敬の眼差しで見つめられた河村は照れるばかり。
ちなみに最後の台詞で桃城が「、その「どーん」は俺の決め台詞だっつの」とボソリと呟いた声は誰の耳にも届かなかった。

しかしこのまま続いてはどうしようもない。
見計らったかのように、乾が出てきてノートでの頭を叩いた。
そこでようやく、気がついての暴走がピタリと止まる。



、そろそろ止まらないとスケジュールが五分以上伸びる確率、98%だ」


「ほわっ!はっ!すすすすみませんでした長々とぉぉぉ!!」


「全くだ」


「ううっ」



乾から辛辣な言葉が降りかかる。
しっかりとピンポイントで指摘されるため、はしょんぼりと項垂れた。
その姿を笑う者あり、言いすぎじゃないかと心配する者あり、呆れる者あり。
河村は苦笑を零しながら、しょぼくれる顔をしゃがんで覗き込んだ。



「ハハッ…でも褒めてくれて嬉しかったよ。ありがとう。これからよろしくね」



ポンポン、と優しく頭を叩かれる。
というよりも、撫でられた。
顔を上げると、癒しの笑顔というべき顔がそこにある。
何だか優しいお兄さんがまた出来たみたいだ、と思いながら。



「あ……はいっ!」



は笑顔で返事をした。
ほのぼのとした空気が流れる中、後ろで全てを聞いていた先生がパンパンと手を鳴らした。



「さて、自己紹介も終わったところでさっそく始めるよ!手塚!」


「はい。全員各自身体を伸ばすこと!終わったところで全員でここの周囲十五周だ!」


「「「「「「はいっ!!!」」」」」」



河村も加わったせいか、声にいつも以上に力が入る。
手塚と先生に向かって全員が笑顔で返事をした。
が、それも一瞬。



「尚、ランニングの際はがはぐれないようにそれぞれ注意するように!」


「「「プッ」」」


「「「ああっ!」」」


「…ううっ」



余計な注意で若干笑う者数名、納得して勢いよく返事をする者数名。
そして、凹む者一名。

それを見ていた河村の一言は。



「…うん、仲良くやってるみたいでよかった」



若干ズれてる感想であった。















第5話<<   >>第7話