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弱点を克服しつつ 長所を生かせ 「…よし、ははぐれてないようだな」 「はいっ!しっかりついてきました!」 「良かったな、手塚」 「ああ」 ランニング終了。 全員がコートに戻ってきたところで手塚が確認するのは、勿論方向音痴の人物。 その言葉にが大きく声をあげて手をもあげた。 小さい銀髪が見えたところで、手塚も大石も一安心。 勿論、その様子に笑う先輩方の姿はあるが、にとっては迷わなかったことの達成感の方が強い。 汗を拭いながら、ニッコニコだ。 「じゃあ、練習に入るよ!ちゃんと聞いとくように!」 「「「「「はい!」」」」」 先生が腕を組みながら口を開く。 手に持っていた書類を見ながら、それぞれ名前をあげてグループに分けていった。 不二、乾、手塚、大石のグループ。 海堂、菊丸、越前のグループ。 そして河村、桃城、のグループ。 この三つだ。 それぞれにコートが一つ与えられる。 「今日の練習はこのメンバーでやっていくよ!お互いにアドバイスし合って、それぞれ長所を伸ばし、短所を克服するように!」 「「「「「はいっ!」」」」」 「やり方はそれぞれに任せるよ。私からは以上だ」 「ではそれぞれ練習に入る!全員コートにつけ!!」 「「「「「はいっ!」」」」」 どうやら、グループに分けられて自主的に練習するというメニューらしい。 先生はそれぞれ回って見るよう。 とにかく割り当てられたコートに行く。 そこには、既に桃城と河村が待っていた。 「おし、やるかァ」 「はいっ」 やる気のあるような、ないような桃城の声に、が元気よく返事をした。 河村は微笑みながら、しおりを見やる。 そこに、二人の目標が書いてあるから、だ。 「は筋力体力の増強、桃は正確なショットかぁ…。ってことは、と桃城はプレイスタイルとしては逆ってことかい?」 「そっスね。俺はどっちかっつーとタカさんみたいなパワーテニスだし、は不二先輩と英二先輩足して割ったみたいな感じ?」 「お二人には全く届いてないですけどね」 桃城とが二人で河村の質問に答える。 テニスのスタイルで言うなら、二人は全く逆だ。 力持ちで曲者、と呼ばれる桃城。 そして正確なショットとボールに対する反応の素早さが長所のだ。 河村は納得しながら口を開いた。 「そっか。じゃあとりあえず、二人で試合してみてよ。俺まだのプレイも見てないし、桃もどれだけ成長したのか知らないしね」 「「はいっ」」 プレイを知らない河村にとっては何をすることも出来ない。 知らなければアドバイスも出来なければ練習のメニューも決まらない。 まずは知ることから始める。 だからこそ、二人も笑顔で頷いた。 二人でコートの上に立つ。 お互いテニスが出来るとなって笑顔だ。 「タカさん、全力でやった方がいいんスよね?」 「うん、出来ればその方がいいな。その方が見やすいし」 「ういっス!っつーわけで、本気でいくぞ〜!」 「はいっ!」 ボールは桃城の手の中。 音をたてて弾んでは手の平へと吸い込まれていく。 空へと放たれた黄色を見て、の目の輝きは増した。 「そらっ!!」 ラケットとボールのかち合った音。 他の人より重く聞こえるのは、彼の力が強いせい。 はボールの軌道を読みとり、すぐにその場に構えた。 タイミングを見て、ラケットを振るう。 「………っえいやっ!」 ただのサーブでこの威力。 すぐに負けそうになりながらも、そこは意地を張って、思いきり返した。 狙っていた場所へボールが降り立つ。 そこにホッとするのもつかの間。 桃城がすぐにラケットを伸ばしてきた。 「おらよっ」 「はいっ」 「そらっ」 「はいっ」 ラリーが続く。 と、言っても桃城が力強く打ってくるボールを、ひたすらがどうにか拾う形だ。 しかし、桃城も狙ったところから少しズレている様子。 時折舌打ちを零す位だ。 は逆に、力技のショットに舌打ちをつきたいぐらい。 だが、彼女の性格上、笑顔だ。 狙ったところにボールはしっかりと入っている、それが長所。 「よし、そろそろいくぜ!!」 「っ!」 ボールを返したところで桃城に気合が入る。 大きな声に、もすぐ身構えた。 あの構えからして来るのは、パワーテニスの桃城のあの技。 「ジャックナイフ!!」 全体重が乗り、相手の球を倍以上強めるショット。 はボールの軌道を読み、そこへとついてラケットを振るう。 が。 「わっ!!」 衝撃があった途端飛んでいくラケットとボール。 カラカラという音が響く。 ラケットを持っていた両手は、ピリピリと痺れている。 今までずっと力の強いショットが続いていたため、筋力が続かなかった。 いや、あったとしても飛ばされていただろう。 「どーん」 「うー、やっぱ桃城先輩のパワーには負けます…っ!今度こそぉぉ!」 「やれるもんならやってみろ〜」 「うっす!」 と、言ったはいいものの、やはりにとっては力が強いショット。 そしてダンクスマッシュも強すぎてラケットが飛んでいってしまう。 やはり力勝負では押し負けてしまうのが現実。 どんなに技術で返しても、ボールを取れなければ反撃する術はない。 河村はただひたすら、二人の仮試合を見続けた。 中学時代の桃城を知っているため、どこが伸び、どこを伸ばすべきか見るため。 そして、初めて会った新しい後輩の伸ばすべきところを見極めるため。 (…うーん、桃はやっぱり中学時代より全部伸びてるなー……あとはやっぱりコントロールだけかな) 際立つ後輩の成長ぶり。 そして。 (は初めて見たけど…良いコントロールしてるし……力さえあれば無敵な気がするなぁ) の技術力、観察力。 筋力と体力がない代わりについた、それ。 打てなくても、悔しがりながらも笑顔でテニスをする様子。 楽しそうに打ち合う二人を見て、一人河村は自嘲的な苦笑を零した。 (前まで俺は、こんな中で練習してたんだなぁ…) 第三者となってから、改めて自分がいた場所を想う。 あのときは必死になって、ひたすら練習していたからこそ、ここから見るのはどこか感慨深い。 暑くて、熱くて。 ひたすら練習ばかりして。 苦しくて、悔しくて。 試合して、勝って負けて。 それでもどこか、嬉しくて、楽しかったこの場所。 それを遠くから見るのは、どこか切ない。 「ハァ、ハァ、か、河村先輩、こんなもんでどうですか…っ」 「おいおい〜ギブアップ早すぎるぜェ〜?」 「も、桃城先輩の場合凄い力が必要ですから、体力消費も半端ないんですよ…っ!」 「それがお前の短所だよなぁ」 しばらくしているうちに、の息切れが激しくなっていた。 汗も流れ、かなり辛そうだ。 逆に、桃城はちょっと汗をかいたぐらいで平気らしい。 河村はその会話を聞いて現実に戻り、苦笑を零した。 「うん、じゃあ一旦やめていいよ」 「はい〜…」 「うぃっす〜」 動いていたボールが桃城の手に収まる。 それを見てから、河村がコートの中へと入ってきた。 二人も彼に近寄る。 「二人とも、しおりに載ってるとおりの短所だね。桃のコントロールは俺にはアドバイス出来ないけど…は出来るかな」 「は、はいっ!お願いします!!」 パワーテニスだったからこそ、力に対してはアドバイスが出来る。 河村の言葉に、の目がキラキラと輝きだす。 それを見ながら、桃城も耳を傾けた。 「は筋力がないから、力で今すぐ打てるってワケじゃないけど…コツならあるよ」 「ど、どんなですか!?」 「手だけで打たないこと、身体全体で打つようにすると、体重もかかって打ちやすくなるよ。それだったら筋力がなくても、少しは打てると思う」 「な、なるほどっ!」 アドバイスとしては、腕のみで打たないこと。 筋力があればそれで打てるのだが、の場合は筋力も体力もない。 だからこそ、身体全体で打つことでしか、力技のショットは返せない。 ちなみにジャックナイフも身体で打っているようなものだ。 的を得ているそのアドバイスに、は頷いた。 が。 「ど、どんな風にですか?」 どういう打ち方したら良いのか分からない。 くいっと首を傾げながら河村を見上げると、彼も見本を見せようと笑顔で自分のバッグからラケットを取り出した。 「それはこう…」 ラケットを手に取って立った途端。ピタリと彼の動きが止まった。 はて、とが再び首を傾げる。 桃城は何となくわかったのか、ニヤッと笑ってみせた。 途端。 「バーニィィィィン!!」 「うひゃわあわあわあああああっ!?」 河村の雄叫びが野太く、コートに響き渡った。 いきなりのことに、勿論は驚いて心臓がバックバクだ。 目を幾度も瞬かせ、心臓と頭を落ち着かせようとする彼女の横で、桃城がケラケラと笑う。 何を言おう、この河村はラケットを持つと性格が変わる。 そう、熱血になるのだ。 「情けないぜ〜!!男たるもの、燃えれば何事も出来るぜェェェ!!」 「え、ええええ!?」 しかし、そのことをが知っているわけではない。 あまりの変わり様に、戸惑うばかり。 河村はそれに気付くことなく、ひたすらヒートアップしながらラケットを振りまわし始めた。 「オラオラオラ、根性叩き直してやるぜ!俺と一緒に素振りだ!桃もだ!!いくぜバーニィィン!!」 ブォォン、という音が鳴りそうな程の素振り。 気合の入った彼の瞳には炎が見える。 桃城も笑いながら構えているのを見て、も戸惑いながらラケットを振った。 「ば、ばーにん!」 「声が小さいぜェ!それに気合と力が足りねェェ!!」 「えええええ、は、はい!」 たった一振りで色んなところを指摘されてしまった。 身体全体で打つ方法の話だったはずなのだが、全く関係ないところを。 しかし、それに気付く程の余裕がにはない。 ただ河村と桃城の隣に立ち、気合でラケットを振るうだけだ。 「バァァァニィィィン!!!」 「「バァァァァニィィィィン!!」」 「その調子だぜバァァァニィィィン!!」 「「バァァァァニィィィン!!」」 「オラオラオラオラもっとダァァァ!!」 「「バァァァァァァァァニィィィィィィィン!!!!!」」 大きく声をあげ、ひたすら気合で素振り。 三人で今にも太陽に走っていきそうだ。 輝ける青春、光る汗。 響く発声練習。 そんな三人の練習を見ながら、他のメンバー曰く。 「クスッ楽しそうだね」 「うるさいッス」 「…気合入ってるなぁ、タカさん」 「よぅし!こっちも負けないように気合入れるぞ〜!」 「フム…河村が入ることで全体に気合が入る確立85%だ」 「そうッスね」 「よし、河村に続いて油断せずにいこう」 などなど。 三人につられて気合を入れるメンバーも見受けられていた。 先生はそれを見て、ニヤリと笑ってみせた。 |