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瞳孔が開き、色は漆黒へと変わる瞳。 それに共鳴するかのようにピアスはチリチリチリと忙しく鳴り響く。 の口の端は、攣り上がっていた。 「兄ぃ、俺ちょーっとキれてるぜオイ」 口とは違い、瞳は鋭く目の前の兄を睨む。 怒りの衝動が、身体を震わせてピアスを鳴らす。 兄はを無言のまま見つめて、己の瞳孔も開いた。 二人の足元から風が起こる。 それはふわりと優しい風、しかしそれは刺々しい気を纏って二人を包んだ。 「。俺だってキレてるんだ。大人しく諦めろ」 「イヤだっつってんだろ。何度言ったら分かるんだよおじーちゃん」 妹のおじーちゃん宣言に兄は本格的に黄金の瞳を鋭くした。 同時に、も強く一睨みする。 「勝手にじーちゃんにすんじゃねぇよ。お前は治癒の『気』しか使えない。そんなんで何が出来る?」 兄の言葉に、は顔をすぐに歪ませた。 『気』。 オーラとも呼ぶそれを使うことで癒すことも攻撃することもできる、いわゆる魔法のようなもの。 家に伝わるそれは、この世界で異質な存在だ。 故に家は常にこの世の嫌悪の対象でもあり、また崇拝の対象でもある。 また、家はこの『気』を使って生計をたてていた。 の兄は家の当主。 『気』をほぼ全て扱えると言っていい。 これを使い、『店』を経営している。 しかし、妹のには『気』を上手く扱うことが未だに出来ていなかった。 攻撃の『気』も防御の『気』も使えず、唯一使えるのは治癒の『気』のみ。 ただでさえ家としての恥とも呼ばれる人間。 それなのに、の行こうとする場所、そして用件を考えれば、それは無謀とも呼べるものであった。 「…ハッ、治癒の『気』しか扱えないくせに何が出来るだって?」 銀の髪が風で揺れる中、は鼻で笑ってみせた。 目の前の兄の顔が嫌そうに歪むのが見える。 はグッと拳を握って振り上げた。 「これはいわゆるアイデンテテーだ!!」 「…それを言うならアイデンティティーだ」 「そう、それ!俺という個人という存在があるという証明だ!!」 「…ただの落ちこぼれだろうがお前の場合」 「キキだって空を飛ぶことしか出来なかったんだ!!」 「アニメの話と摺り返るなっ!!」 しかし、ポジティブシンキングなにはどうでもいい話。 それどころかそれを魅力だと言い張る強者だ。 あのアニメは名作だ!!と叫ぶ。 兄はやかましい!!関係ないだろ!!と突っ込んだ。 言い合いは喧嘩だというのにバカくさい。 しかしピアスの音は警鐘のように鳴り響き、風は一向に止む気配はない。 それはまだ喧嘩は止まないことを暗示していた。 「…自分を守る『気』があるならまだしも…今のお前が行ったところで…何もできずに犬死だ」 「この風も『気』じゃねぇか」 「確かに『気』だが、ただの風起こしじゃ話にならん」 「鳥ポケモンだって風起こしで攻撃が…」 「生憎ポケモンは関係ない」 「……俺は喧嘩も強いぞ!!」 「ただの喧嘩でも話にならん」 これでどうだっ!!と多くのことをあげても、淡々と兄に却下されてしまう。 はうぐぅ…と悔しそうに呻き声を出す。 しかし、瞳は未だ諦めないと言わんばかりに光っていた。 真剣な眼差しで、口をしっかりと開く。 「……俺ね、助けたいんだ」 今までのお茶らけた声とは違う、凛とした声。 しっかりとした言の葉。 兄は妹の豹変振りに少し戸惑うも、静かに次の言葉を待つことにしたらしい。 黙って、に次の言葉を促した。 もそれに気付いて、またしっかりと口を開いた。 「俺のせいで、あの二人が巻き込まれた」 漆黒となった瞳が、黄金の瞳をしっかりと捉える。 そこにはもう怒りはなく、翳りだけがあった。 「その責任もあるし…それだけじゃねぇ。俺……あいつらに救われたから……今度は俺が助けたいんだ」 二人。 責任。 理由。 覚悟。 意思の強さ。 (……本気、か) しっかりとした眼差しと口調。 風も止まることはない。 兄は、自分と同じ色の髪を靡かせる妹を、しっかりと見やっていた。 「…行く、とうことは対価がいるんだぞ」 「何事にも対価は必要だぜ兄ぃ」 フ、とが笑う。 そしてすぐに次の言葉を開いた。 「バナナはおやつかどうか迷っている間にも時間という対価は過ぎ去っていくんだ。だからそういうときはさっさとバナナをおやつとして認めずにおやつ代を稼ぐという方法が…」 「真剣にバナナを語られてもあまり説得力はないぞ。……それにだな、お前がやろうとしていることは危険極まりない。命を落としかねん」 「それもガッテンガッテンガッテンだ」 「…真剣に満ガッテンか」 「おう。それも承知のすけだ」 「…あそこにいる彼らは、お前の知ってる彼らじゃないこともか?」 「勿論だ。でも『魂』は同じ。だったら同じことだ。あいつらはあいつらだ。俺は俺。アイマイミー、ユーユアユー、ヒーヒズヒム、シーハーハー」 「英語関係ないだろ」 「異文化コミュニケーションは大事にしないとな」 「この間の英語のテスト悪かったよな」 「そうそう。もう少しで二桁になれたんだけどな……ってそれ関係ないぞ兄ぃ!すっごいシリアスモードだったのに!人の心の傷を蒸し返すな!!」 先ほどまでのシリアスな風景はどうした。 そう思わせるような空気がまた漂い始めた。 しばらくは英語のテストがどうのと討論が行われていたが、それが途切れると、兄は息を整えた。 「………もう…ココには帰って来れないかもしれないんだぞ……それでもいいのか」 低い言葉が、黒いこの部屋に、静かに響き渡った。 |