「つうわけで、部屋ん中でじっとしとってもしゃあない。サクラちゃんの記憶の羽根を早よ探すためにも、この辺探索してみいや」


「はーい」


「はい」


「………」


「押〜忍っ」



阪神共和国について初めての朝。
空は快晴。
温度も湿度も丁度良い塩梅で過ごしやすい。
優しい風がそれぞれの髪を撫でる。

空汰と嵐が用意してくれた服を着た四人は外に出ていた。
服装は至ってシンプルで、模様も特にないシャツとズボンのみ。

も長けが八部ほどの黒いパンツとフードつきの白を基調とした半袖のティーシャツ。
袖口に黒いラインが入っていて、紐も黒い。
白と黒がいい感じとなっているため、服を貰ったときは素直に喜んだ。
ちなみにスニーカーは灰色である。

他の三人も三人で、丁度色のバランスがいい。
黒鋼は…上から下まで黒っぽいが。



「おっと、わいはそろそろ出かける時間や」



彼らの目の前に立っていたのはスーツ姿の空汰。
歴史の先生である彼は出勤体制だ。
隣には嵐がエプロンをつけたまま立っている。



「歩いてみたら昨日言うとった巧断が何かも分かるはずやで」


「はい」



空汰の言葉に小狼が頷く。
頷いた後、彼は今までいた下宿屋の一つの部屋を見上げた。
まだ眠りから覚めないサクラを心配してだろう。
嵐はそれに気付き、優しい微笑みを見せた。



「サクラさんには私が側にいますから」


「……はい」



遠くではモコナを持っていくのかと少々揉めている。
はそんな皆の言葉を聞きながら、あちこちに目を奪われていた。

外に出れば分かる、異世界の世界観。
下宿屋はアパート、と呼ばれるものらしく、縦に長い建物だ。
辺りは高い建物低い建物が混在していて中々面白い。

ちなみにの世界は高い建物などなく、全部二階建ての建物だ。


(…うん、平和そのものって感じ)


争いというものが本当にあるんだろうか。
そんなことすら思えてしまう。
しかし。


(………なんだろうなぁ)


時折感じる視線がある。
動物かと思ったが、どうも人間のものらしい。
とはいえ、後ろの異世界組を見ても彼らの視線はバラバラ。
また、嵐や空汰でもない。

ピアスが風に揺れて小さく鳴る。
まるで、視線を察知しているかのようだ。


(でも、何かを仕掛けてくる様子もなしと。なら放っておくか〜…どうせ俺何も出来ないわけだし)


攻撃されたら考えればいい。
とはいっても、何も力がないはどうすればいいのか分からないが。

溜息をつくと、チリッと胸の奥が熱くなる。



「おいお〜い〜?そろそろ現実に戻って来ぃや〜」


「ほわ?」



空から視線を戻してみれば皆の視線がこちらへと向いていた。
どうやらいつの間にか話が終わっていたらしい。
現実へと戻ってきて目を瞬かせているを見て、空汰はうんうんと頷いた。



「な?小狼が一番しっかりしてそうやろ?」


「…何の話?」




小狼の手には蛙を模ったがま口財布。
しかし、一体何の話だったのかの耳に入ることはなかった。







そんなこんなで異世界組は街へと繰り出した。
先程までいた場所より賑やかで華やかだ。
大きなビルや大きな看板。
何よりも沢山の人たち。



「にぎやかだねー」


「ひといっぱーい」


「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだー」



ファイとモコナが声をあげる中、小狼はポカリと口を開けてあちこちを見ている。
黒鋼は近くにある妙な看板を睨みあげ、はというと目をキラキラと輝かせて今にも駆け出しそうだ。



「小狼君はこういうの見たことあるー?」


「ないです」


「黒たんはー?」


「ねぇよ!んでもって妙な呼び方するなっ!!」



皆が皆、こういう世界は初めてらしい。
にこにこ笑いながら問いかけるファイとは逆に、妙な呼び方に黒鋼は過剰反応を示した。
そんなことはスルーし、今度はへと問いかけようとすると。



ちゃんはー「あぁぁぁっ!!!あれっ!あれは何だあぁっ?!!」


「えっ、!?」


いきなり突撃取材〜っ!!イヤホゥッ!!」


「ってオイっ!!!」



ファイの質問が終わる前にウズウズしていたは遂にダッシュ。
いきなりのダッシュと奇声に小狼は驚き、黒鋼も遠くに消えていく後姿に青筋。
急いで後を追う小狼と最早見えなくなったを見て、ファイは微笑みながら納得した。



「うん、ちゃんも初めてみたいだねー」


「納得してねぇで追うぞ!」


!待って!!」



小狼は必死に、黒鋼は怒りながら、ファイは笑いながら。
それぞれ足を速める。

雑踏の中に光る銀の髪。
どうやらは街の中にいた虎の着ぐるみが気になったらしく、少し離れた道の上にいた。



!いた!!」


〜」


「お、小狼!モコナ!!見て見て!着ぐるみ!虎の!」



走って追いついてみればご満悦の
虎の着ぐるみに抱きついているあたり、本当に子供のよう。
それを見て小狼は脱力し、モコナはに同調したように一緒に抱きついた。

少し遅れて黒鋼とファイが追い付く。
彼らの目に映ったのは勿論、着ぐるみとじゃれているともモコナ、そして脱力の小狼。

ファイはその様子に笑顔を零し、黒鋼は、というと。
ベリッと着ぐるみからを引き剥がした。



「オイ」


「うい?あ、黒鋼、ファイ!凄いでしょ〜虎の着ぐるみ!!」


「勝手に離れるな!面倒なことになったらどうすんだ!!」




背中をひっつかまれているはまるで猫。
ひっつかむ黒鋼は飼い主のようにも見えるが。

見ようによっては。



「なんかお父さんと小さい子供みたいだねぇ」



そう、親子である。
さながら、父親と子供の。



「誰が父親だ誰が!


「あはは、お父さ〜ん


お前も一々乗るんじゃねぇっ!



ビシリッと頭には衝撃。
は「あいたっ!」と大きく声をあげた。
上ではまだモコナが「おとうさ〜ん」と歌っている。
彼はそれにもチョップをかました。

ちなみにその間、小狼は着ぐるみに「どうもお世話かけました」と頭を下げて謝罪。
その様はまるで苦労しているお兄さん



「ん〜。ってことはオレはさながら、お母さんなのかなぁ」


「え、結局俺は子供決定なわけ?てか、小狼は?」


「小狼君はちゃんのお兄ちゃんって感じかなー?ねぇモコナ?」


「うん!モコナもそう思う!」


「え」


「ええ〜?!俺の方が年上だって!な、黒鋼」


「聞くな。俺を巻き込むな」



いきなりの家族設定。
そこからこの阪神共和国巡りは始まった。











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