ざわざわと人が行き交う橋の上。
眺めがまぁまぁいいところで、皆でリンゴをシャクシャク齧っていた。



「おいしいねーリンゴ」


「はい」


「お〜いし〜」



は幸せ〜という表情でリンゴを頬張る。
味は自分の知っているものと同じもの。
懐かしい味だが、周りの風景は全く違うもの。
味も別格だ。



「けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇオレたち」



リンゴを齧りながらファイがしみじみと言葉を発した。
やはり先ほどの野菜議論が離れないらしい。
シャクシャクと齧りながら、は顔をあげた。



「そいえばまだ聞いてなかったね。小狼君はどうやってあの次元の魔女のところへ来たのかなー。魔力とかないって言ってたよねー」


「おれがいた国の神官様に送って頂いたんです」


「すごいねーその神官さん。一人でも大変なのに二人も異世界へ同時に送るなんて。黒りんはー?」


だからそれヤメロ!



小狼の侑子さんのところへ来た方法がわかったところで、今度は黒鋼へと方向転換。
未だに変な呼び名に黒鋼は反応している。
可愛いのに、とか思いながらは黒鋼に目を向けた。



「うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理」


「悪いことして怒られたんだー?しかられんぼだー。あはははは」


「うるせーっての!!指さすな!」


ちゃんはー?」


「うぐ?」



今度はこちらに話が飛んできた。
は口の中のリンゴの密を堪能しながら、ファイを見上げた。


(ん〜と…何の話だっけ)


ニコニコとした微笑みを見ながら、一体何の話だったっけかとゆっくりと考えた。
というのも全く興味がなかったからだ。



「…えーと……俺の国には姫はいないなぁ


「うーん、ちょっと答えがズレてるかなー


「聞いてなかっただろお前」


「うぐっ!?…っゴホゴホッ!ウェッホゴッホ!」


「だ、大丈夫??」



黒鋼に核心をつかれる。
同時に飲み込んでいたリンゴの反抗…もとい喉に詰まった。
咳込めば小狼が背中を優しく叩いてくれた。



「図星か」


「図星みたいだねー」


「ごっほげっほ!…はぁ…はぁ…ごめん、聞いてなかった。小狼も背中ありがと…もう大丈夫だから」



ニヤリと笑う黒鋼とは対照的に、ファイはふわりと笑ってみせた。
ようやく咳込みが終わる。
息を整えつつ、ファイに謝罪と小狼にお礼をした。



ちゃんはどうやってあの次元の魔女のところに来たの?って話ー」


「あーなるほど。そういう話か!俺は兄ぃに送ってもらったんだよ」


「お兄さんに?」


「おう!俺の兄ぃも侑子さんみたいな店営んでてさ。そいでもってその力貸してもらって」



話し終えればすぐにリンゴに齧りつく。
シャクシャクシャクシャクとリンゴを食べ進んでいると、もはや芯と種しかなくなってしまった。
はそこらの袋にそれを入れると、あちこちをキョロキョロしだした。
そう、は全くこの話題に興味がないのだ。


(またなんかないかなぁ〜)


隣の小狼の頭の上ではモコナがリンゴを丸のみした。
それに目を瞬かせつつ、そこらを見回す。
が興味ないことを何となく察したのか、黒鋼がファイに話しかけた。



「てめえこそどうなんだよ!」


「オレ?オレは自分であそこに行ったんだよー」


「ああ?!だったらあの魔女頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとか出来るだろ」


「えへへー無理だよー。オレの、魔力総動員しても一回、他の世界に渡るだけで精一杯だもん」



ファイの言葉に、小狼と黒鋼が目を見開く。
はキョロキョロとした目を戻し、ファイをちらりと見上げた。



「小狼君を送ったひともちゃんを送ったひとも黒ちんを送ったひとも、物凄い魔力の持ち主だよ」


「だからその呼び方やめろ!」



黒鋼がまたそこにツッコむ。
しかし、ファイは表情を真剣なものに変えて、口を開いた。



「でも、持てるすべての力を使っても、おそらく異世界へ誰かを渡せるのは一度きり」




その言葉に小狼は目を見開き、黒鋼は口を閉じる。




「だから神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ」



はピタリと動きを止め、瞳を静かに閉じた。
侑子の屋敷に行く前の出来事を、瞳の中に宿らせながら。



「サクラちゃんの記憶の羽根<カケラ>を取り戻すには色んな世界を渡り歩くしかない。それが今出来るのはあの次元の魔女だけだから」



兄ぃの長い銀の髪と、黄金の瞳を思い出す。
優しい表情で送ってくれた姿。

彼は力の持ち主。
異世界に人を送ったのは初めてではない。
しかし、きっとあれが最後だ。

兄ぃにも限界があるのだから。


(きっと…俺が後悔しないようにって送ってくれたんだ)


本当の目的を言わないまでも。
彼はわかっていた。
後悔しないようにと、送ってくれた。


(…なら、後悔しないように行くだけだよな)


瞳を開く。
この世界の青空は少し角ばっているけれども、色は同じ。



「……さくら」



隣では俺と同じように物思いに耽り、サクラの名をぽろりと零す小狼。
リンゴを見つめた彼の優しい瞳をちらりと見やった後、はまた青空を見つめた。


遠い遠い空を。









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