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優しい風が四人の髪とモコナの耳をそれぞれ揺らす。 それぞれ想いを馳せていたそのときだった。 「きゃあああ!」 その空気をぶち壊す女性の悲鳴。 勿論黄色やピンク色の悲鳴ではなく、尋常ではない、危険に対する切羽詰まった悲鳴。 (な、何っ!?) さすがにも意味なく身構えた。 小狼達も悲鳴の先を真剣な顔つきで見守っている。 その視線の先をも追った。 見えたのはビルの上にいる男の集団。 全員が特徴的なサングラスをかけている。 そしてその下にはこれまた違う男の集団。 「今度こそお前らぶっ潰してこの界隈は俺達がもらう!」 そう下が叫べば、上の集団のリーダーらしき青年が長い髪を靡かせながら親指を下に向けた。 まぁ、そのセリフに対する答えがそれなわけで。 つまり交渉は決裂だ。 「ヒューかぁっこいー」 「言葉では言葉で返せよ!老眼の人とか見えねぇぞそんなジェスチャー!!」 「…お前……ハッキリ言いすぎだろ思ったこと」 「おっと、ついうっかり?」 「またナワバリ争いだー!」 ファイが素直にコメントを零した隣でも便乗してコメントを残した。 が、それはあまりにも素直に心の声に従ったもので、失礼極まりないもの。 黒鋼にダメ出しされてから、は今更ながら本気で気づいて口を塞いだ。 そんな彼らを無視して辺りは騒ぎ出す。 言い争っている集団以外の一般人は避難をすでに開始した。 「このヤロー!特級の巧断憑けてるからっていい気になってんじゃねえぞ!」 「…くだん?」 下の集団が叫んだことにが聞き返すように小首を傾げた。 そういえば巧断というものを、昨日聞いたばかりだ。 使い方は色々あると。 それが何なのかを自分で確かめろと。 巧断、と認識した途端、不意にチリリと胸が熱くなる。 (…うん?熱い?) 胸に手を当ててみる。 いつもより心なしか心強い鼓動。 (…うん、胸が大きくなったわけでもない、と) まさか何かの変異で胸が大きくなったかと思ったが、そんなことはあるわけでもなく。 いつも以上の平らなそれを触って安心の一息をついた。 途端に動き出す集団。 上の集団のリーダーが手をあげれば数人が下へと降りた。 下の集団も上の集団もどこからか生き物のようなものを手につけている。 それを確認した次の瞬間。 ドガガガガガガガッ 「え!?」 小狼の驚きの声をかき消すかのような大きな音。 そしてそれぞれ、その生き物から出る光線が衝突した。 大勢がそれを行っているため、音が、まるで心臓にまで振動を伝わらせているみたいだ。 酷く、響く。 「あれが巧断か」 「モコナが歩いてても驚かれないわけだー」 大人組、黒鋼とファイは余裕だ。 いきなり始まる戦いに全く動じない。 辺りには先ほどの八百屋のおじさんが「この悪ガキどもー!」と怒っていたり、他の人たちも「またあいつらだ!」と指をさしている。 話から、どうやらこの騒動、争いは日常茶飯事のようだ。 「………………」 だが。 争いの知らないには、その光景は。 衝撃にしか、ならなかった。 心臓が酷く鳴り響く。 体はまるで凍ったように動かない。 呼吸ができない。 瞳は目の前の光景に大きく見開くだけで。 無意識に、凍っていた体が一瞬身震いを起こした。 (これが…戦い) ようやく、コクリと唾を飲み込めた。 それでもまだ体は言うことを聞いてくれなくて、冷や汗がツゥとコメカミを流れるだけ。 エネルギーの衝突。 ところどころ零れるそれは周囲の建物を巻き込んで、壊れた欠片が雨のごとく降り注ぐ。 (どうしよう…ノリが不良の喧嘩なのに…俺、怖いとか思ってる) たぶん、これは序の口なのだ。 本当の戦いは、もっと緊張があって、本当の生死の戦いになる。 (…だから…これぐらいは…大丈夫にならなきゃ…っ) ぐっと無理やり動かない手を動かして、拳を作る。 息を整えて、しっかりと前を見た。 下にいた一人が、指を上に指す。 すると今までにない、少し大きな、まるで猿のような生き物が上の、リーダーに襲いかかった。 彼にとってはピンチ、といえる状況。 しかし、そのリーダーは口の端を上げて。 笑ってみせた。 途端に彼を取り巻くように現れる生物。 一緒に現れた水が、太陽の光を反射する。 まるで、マンタのような綺麗な生物は。 鋭い目を光らせて大量の水を、まるで魔法のように吐き出した。 「うわあああ!」 力の差は見るまでもない。 大量の水に逆らうことなく、動物ごと下の集団は流れていく。 ザザーンという大きな音はそれだけではなく、何もかもを飲み込んでいく。 「すご…い」 が感嘆の言葉を零したときだった。 波が逃げている集団に襲いかけているのが見えた。 そのうちの、一般人であろう一人の少年が転んだところが琥珀と紫苑の瞳に映る。 「危ない!!」 反射的に飛び出したのは琥珀の瞳の持ち主、小狼だった。 脇目もふらず、そこへとただ走っていく。 大量の水が迫ってくる。 「小狼っ!!?」 彼の後ろ姿を見た途端、は動かなかった足が反射的に動いた。 遠ざかる背中を追いかけるように。 自分でも不思議なくらい、速く。 黒鋼が油断して縄を掴む手を離しているのを確認せずに。 届かない手を精一杯伸ばして。 熱くなる胸を感じながら。 |