怖い


恐い









今は、目の前の争いよりも





「小狼っ!!!!!」














この伸ばした手が、届かないことが。











心が叫ぶ。
胸が燃えるように熱くなる。

目の前が水ではなく、炎に包まれるのを見つめながらも。
足は止まることを知らずに、手を伸ばし続けたまま。
そこへ夢中で飛び込んで。


小狼の背中へと。



「小狼っ!!!」


「えっ!?うわっ!!?


ぎゃふっ!!?



どーんと体当たりをかました。


まったくもって、台無しの展開だ。


いい音と共に全身に衝撃。
転んでいた少年達を庇っていた小狼は、後ろからのの体当たりにより、痛みと共に前のめりになった。
も体の前面に痛みと小狼を感じながら、すぐに目を開いた。



「ご、ごめん!大丈夫か小狼!?怪我は!?み、水は?!炎は?!火傷は!?水ぶくれは!?


「だ、大丈夫だから!落ち着いて!!」



が心配しているというのに、逆に落ち着いてと言われてしまった。
まったくもって格好悪い。
う、うん落ち着く!とは深呼吸して、今の状態を確認した。

両腕を離せば見える、小狼と少年二人の無事な姿。
水に流されているわけでもなく、炎に焼かれたわけでもない。
まず、そこにはホッと一息ついた。


(…良かった…無事で…)


心底から安堵する。
そしてそういえば水の攻撃は、と今度はグルリと見回した。
すると。



「う、うげぇぇぇぇぇ!!!?ほ、炎に包まれてるーっ!!」



そう、炎に包まれていた。
あまりの衝撃には瞳と口を大きく開いて声を出した。
しかし、それ独特の熱と息苦しさを感じることはない。



「しかも熱くねぇーしっ!!?凄いっ!俺不思議体験しちゃってる!!



まるで自分達を守るかのように包み込んでくれている。
それがあの水を全部蒸発させたようだ。
役目を終えたのか、炎はゆるりと消えていく。

小狼のもとへ、戻るかのように。
そして彼の傍で、それは角の生えた狼か犬のような生き物となった。



「ほ、炎が犬っぽいのになったァァァァ!!!?え、なにこの不思議体験!!ちょ!ふ、不思議発見!!!



これがまた不思議な話だ。
は未だこの体験に困惑して、焦りながらも変に覚えてるフレーズを意味なく発した。
ちなみに誰もツッコミはできなかった。

炎がなくなって獣になれば見える景色。
現れるのは少しばかり破壊された街並みと青空。

そして。



「…ぎゃ、ぎゃああああああああああっ!!!?」



目に映ったそれにはまた大声をあげた。
自分達と、例のリーダーとの間。

そこには大きな透明で白い、まるで天使のような翼が自分達を覆っていた。
小狼も驚きに目を見開いている。
しかし、それ以上にが驚いていた。



「しかも俺から生えてるーっ!!?」



何故なら自分の背中から生えているのだから。
自分の意識とは違うように動くそれに、は心から悲鳴をあげた。


(何もしてないのに昇天!?昇天なのか!?え!?俺の物語ここで終了!?このファースト異世界にて!?嘘んっ!!?)


いーーーやーーーーまだ死にたくねぇえぇぇぇと頭を抱えて大声で叫ぶ
近所迷惑この上ないのだが、本人は至って真剣だ。
小狼がどうにか落ち着かせようと焦りながら宥めている。
が、大した効果はない。



「どどどど、どうしよう小狼〜っ!!俺死んじゃったよおぉぉぉっ!!!」


「大丈夫!大丈夫だから!ほら、俺に触れてるから!!」


天に召されるぅぅぅっ!!!



あわあわと言ってる間に、その翼は小さくなっていた。
ふぁさと小さな音をたてて、の意識とは関係なくたたまれていく。
次の瞬間、の背中から翼は離れた。

ゆっくり、ゆっくりと離れた翼は形を形成していく。
白い、竜の形へ。

そして同時に、の影から三メートルほどの黒い虎のようなものが現れた。
悪魔のような黒い羽を羽ばたかせ、白銀の瞳をに向けてそれは目を細めた。
そこに白い竜が巻きつく。
天使の羽をゆるりと開き、黄金の瞳を開いて口は弧を描かせた。



「う、うえ?……夢の中の……」



落ち着きを取り戻して目の前のそれらを見る。

見覚えがある。
今日の夢の中に出てきた、光と闇を司るものたち。
がぽそりと呟けば、彼らは満足そうに微笑んだ。



「お前達の巧断も特級らしいな」



上から声がかけられる。
そこに目を向けると、例のリーダーが、どこか嬉しそうに微笑んでいる姿があった。








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