「炎を操る巧断か」



水の巧断を出して先程まで違うグループと戦っていた浅野笙悟は目の前の光景を見つめて一言呟いた。

琥珀の瞳と自分の瞳がかちあう。
真っ直ぐなその眼差しは好感の持てるもの。

そしてその隣の紫苑の瞳。



「…それと、お前のは…」



銀の髪が印象的な見た目少年の傍に在るそれを見て言葉が詰まった。
見た目は白い竜と黒い虎の二体の巧断だ。
しかし、一人に二体と、そんなことはありえない。
ということは、あれは一体、ということ。


(分かったのは光輝くような翼が俺の巧断の攻撃を防いだこと)


しばらくじーっと観察して考えていた笙悟だったが。
考えても答えが出てくる気配もなかったので。



「…ま、いいか何でも



早々と諦めた。
今度は自分の番だと思っていたはあまりの諦めの早さにええ!?と大きな声をあげた。



「え、俺は無視?!


「しょうがねぇだろー分かんねぇんだから」



フンと息を吐いてからさて、話を進めようと笙悟が口を開く。
しかしはあまりの衝撃にその場に崩れ去った。



「ちょ!やっとこれ巧断だって分かったのに……!!酷い…っ!俺のことは遊びだったのねっ!?


「何の話だよ。話に何の脈略もねぇよ



ボケた。
ついでに迫真の演技だ。
笙悟は無意識にツッコミを返してしまった。
しかも、冷ややかな目で。

が、は負けない。



「せめて尋ねるとか何かしろよ!無視は心が痛むんだぞ!!


「あー分かった分かった。じゃあお前の巧断は何だよ」


「うっわ面倒くさそうに言われた!けど無視よか全然いい!光と闇!夢のとおりならたぶん!」



やはり無視が一番響いていたらしい。
笙悟が面倒臭そうではあるが尋ねると嬉しそうに答えた。
自分の巧断がどんなものだったのか確認がてら言ってみたかっただけなのだが。

しかし、笙悟は再び紫苑の瞳を見つめた。

隣と同じように、前を見つめる瞳。
そして、この巧断の強さをひしひしと感じる。


それに触発されたように、笙悟はニヤリと笑った。



「お前は俺は水でそっちは炎。おもしれぇ」


「え、また無視!?俺スルーキャラ決定!?



ひどいよぉぉと叫ぶから目を逸らし、彼は無視を決めこんだ。
笙悟がニヤリとまた笑うと隣の水の巧断の口元に力が集中した。
そこに、水が集まる。

示すのは、こちらへの攻撃。


水鉄砲のごとく、大量の水が向かってくる。
は驚きながらも、心なしか冷静に隣に声をかけた。



「小狼!!」


、この人たちを!」



叫べば、小狼は立ち上がり、達の前に両手を広げて立ちはだかった。
は反射的に頷いて、少年達を庇うようにしゃがむ。
するとの巧断も白と黒の翼を広げてサイドを固めた。


大きな音と共に、衝突する炎と水。
攻撃はここまで届かないものの、その衝撃が風となっての髪を思い切り靡かせた。
炎の壁は厚く、水は一滴たりとも入ってこない。


(…凄ぇ)


小狼とあのリーダーの強さの衝突。
ビリビリと肌で、心で感じる。
それはの身体を奮い立たせる。

戦いでの臨場感。
それは喧嘩と似ているものがある。

怖い、などの恐怖感はもうない。
これは生死に関する戦いだと分かったから。
小狼が強いとわかっているから。


もういなくならないと、感じているから。



炎と水は相殺される。
リーダーの笑みは、深まった。



「俺は浅野笙悟だ。おまえは?」


「…小狼」



リーダーが名乗る。
小狼が名乗ったところで、はふらりとその場に立った。

小狼に危害を加えるなら、自分も容赦はしない、と。

見上げる先は、笙悟と名乗る人物。
同時に巧断もそれぞれ彼を見上げた。



「おまえ気に入った」



優しい風が一陣、吹き抜けていく。
それぞれの髪が靡く。
笙悟の視線が、小狼から隣へとズレた。

と、目が合う。



「…おまえも気に入った」


「…わざわざ付け足さなくていいよ。どうせ俺無視キャラなんだろ!


「本当だぜ?」



拗ね気味に言うと、笙悟は笑みを深くした。
どうやら、本当に気に入ったようだ。


(俺何もしてねぇんだけどな)


戦いには参加していない。
強さも何もないはずだが。



「おまえの名前は?」


。ついでに言っとくけど、小狼に危害を加えるようなら、容赦なく俺も参戦するからな!スルーキャラになんてなってやらねぇんだからな!



ギラリと光る紫苑の瞳。
先ほどまでのボケのときとは違う表情。
それに伴い、巧断がの傍により牙を向けて威嚇する。



「…そう、そこが気に入った理由だ」



小狼とは違う、その闘志。
強い意志を持つ瞳。
巧断が示す、その心の強さ。

心を躍らす。
笑みが濃くなる。


強いヤツと対峙したときの、緊張感と躍動感。
それが心を支配する。
笙悟が攻撃を開始しようとしたときだった。



「笙悟!警察だ!!」



思わぬ横やり。
同じようなゴーグルをかけた仲間たちが警察の到着を告げた。
やる気が一気に削がれることを感じながら、溜息が一つ零れた。



「今からいいトコだったのによ」


「いや、ぜひとも帰ってください」



残念とばかりの声を出すと、はお断りと手を横に振った。
戦いを避けれるなら避けた方がいい。

笙悟はその言葉に密に顔を顰めながら、仲間たちに向きなおった。



「ヤローども!散れ!!」


「FOWOO!!」



声をあげれば大きく返事をする仲間たち。
遠くから駆けつける警察の姿、そして彼らを見ながら笙悟は満足げに笑って、走り出す。
そして、彼は振り返ってたちに笑みを向けた。



「次会った時が楽しみだぜ!」



次会ったときこそ戦おう。

そういう意味を深くこめて。


警察の制止の命令を振り切りながら、彼らはその場から逃げ去っていくのを。
はじっと見つめていた。









第壱拾肆話<<    >>第壱拾陸話