例のあの笙悟とかのグループが去ってから警察が駆け込んでくる。
そして明らかになったのは、そこらの崩壊具合だった。

あちこちから煙があがっている。
建物は少しだけですんでいるが、道は歩きづらいぐらいに壊れていた。

ただの喧嘩として認識した後だったからか、にとってそれは衝撃そのものだった。



「…えぇぇぇ…結構壊れちゃってるよ、あちこち」



コンクリートだけではなく、レンガまで。
はその場の道を触って、感触を確かめた。
ザラザラ、ゴツゴツとしたそれを撫でては、叩く。
炎の巧断の熱で割れたもの、あの水の巧断の水圧で壊れたものだらけだ。
他にも、他の巧断で壊したものも多々あるのだが。


(全く、喧嘩はしょうがないとしても…モノは大切にしようぜ)


の口からふぅと溜息が出てしまう。
また欠片をざらりと撫でる。
するとの前に大きな影ができた。



「…お前」



見上げれば目の前に白い竜と黒い虎。
大きな翼をゆるりと羽ばたかせてを見下げていた。

何か言いたいことでもあるかのよう。
はジィっと見た目二体のそれと睨めっこを開始した。
主に、白い竜が羽を羽ばたかせてアピールしてるあたり、自分の力を使えと言っているようだ。



「………まさか?」


?」



が一人で疑問の声をあげると、小狼が首を傾げた。
手を伸ばせば従うかのように、白い竜と黒い虎は顔を差し出す。
柔らかい毛並みと、すべすべとした鱗の感触。


(もしかしてだけど…光と闇…いうなれば…再生と破壊)


夢の中でも言っていた気がする。
『守る』光と『戦う』闇のことを。

それを導きだせば、彼らが言わんとしてることは一つ。



「…これさ、元に戻せるか?」



静かに。
静かに問えば、頷きが返ってきた。

答えはイエス。
光を司るであろう白い竜が翼をはためかせた。
闇を司るであろう黒い虎がに優しくすり寄る。

途端に虎が消え、代わりにの背中に黒い蝙蝠のような翼が生えた。
そこに白い竜が優しく巻きつく。



「あ、凄い!俺空飛べるっぽい!!」


「え、ええ?!?」


「あ、小狼!何か俺の巧断な、壊れたもの直せるらしいからちょっとやってみる!」


「ええっ!?ちょ、ちょっと!?」



焦る小狼をよそ目に、は軽く足を地面から離した。
黒い翼がはばたき、地面に足をつかせない。
次の瞬間、白い竜を纏いながら、青い空へと飛び立った。



「ウォォォォオオオ!!!すげぇ!!!」



グルグルと回転しながら、翼が電信柱に突っかからないように飛ぶ。
あまりのスピードと驚きという感情に気を取られ、気がつけば地面は遥か遠くだ。


(おおっ?!調子に乗りすぎた!酸素がなくなる!


止まれ、と念じればピタリと止まる。
翼はその場に止まるようにゆっくりとはばたき、白い竜も緩やかにを包み込む。
とりあえず呼吸はできるので、人知れず小さく安堵する。
下を見れば、小狼たちが小さく見えた。

心の中に過ぎった台詞は。



「ふはははっ!見ろ!人がゴミのようだ!!



元にいた世界の某アニメ悪役キャラのものだった。
ネタが分からなければこの面白味は分かるまい。
侑子やモコナあたりは知っているであろうが。
とはいえ空には誰もいないのだからツッコミはゼロだ。
そこに小さな悲しみを覚えながら小狼たちへと視線を向けた。

下では出番が終わったからとばかりに小狼の中へと消えていく炎の巧断が見えた。
そこにファイと黒鋼が近づいていく。
助けた少年のうち、異国のような服を着ていた子はどうやら学生服の子の巧断だったようだ。
しっかりと消えていく。



「ふぅん。巧断って何でもありなんだな」



な、と顔をあげれば白い竜と目が合う。
それは優しく瞳を細めた。

動物のようで、精霊のようで。
様々な形を持つ巧断。

は白い竜…確か夢の中では光竜と名乗ったそれと微笑みあった。



「…じゃあ、やろうか。俺の『気』使ってもいいから…頼んだよ、光竜」



近くにあった竜の背を撫でる。
すると、白い翼が大きく開かれた。

ゆっくりと、温かい光に包まれていく。
は自分の力が少しずつ吸い取られていくのを感じながら、微笑んで瞳を閉じた。


静かに降り出すのは沢山の白い、ふわふわの羽根。
天使のもののようなそれは、ゆっくりと地上へと降り立つ。
地面に触れると、淡く優しい光を放つ。

そして



「…壊れてたところが…直っていく」



小狼が呟くとおり、羽根が消える変わりに、壊れていたところが跡形もなく消えていく。
ひび割れた道路が元通りに。
散らかっていた欠片がなくなっていく。

小狼は白い羽根の降ってくる空へと琥珀の瞳を向けた。


雪のように降る羽根。
その中心にいるのは淡い白い光に包まれた
黒い翼を生やしているはずのにはもう、それは見えない。
むしろ白い竜の翼が光り輝いて。



「…綺麗だねー」



口を開いたのは、近くにいたファイだった。
黒鋼は黙って上を見上げている。
皆の視線は、同じ方向。

の元。



「凄いです…壊れたものを直すなんて…。しかも見た目二体の巧断なんて…見たことも聞いたこともないです」


「へー、そうなの?」


すごーいっ!!」



助け出した少年が驚愕とばかりに目を思い切り目を見開きながら呆然と言う。
ファイが話を聞いている傍ら、モコナが感動の声をあげた。
そんな周りの状況を見回してから、小狼はまた頭上を見上げた。


(本当に…不思議な人だ)


初めて会った自分たちにいきなり謝ったり。
サクラを目覚めさせようと自分の力を使ったり。
今だって、初めての世界で壊れたものを直そうと試みている。
巧断の力も分からなかったはずなのに、すぐに理解して。
真面目かと思えば奇怪な行動をとったり。

実際、一緒に旅することになった人たちの中で一番分からない存在だ。


(でも)


一緒にいて心地よい。
全くのことを分からないまでも、それだけはしっかり感じられていた。








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