モコナの提案に、正義が連れてきてくれたのは一件のお店。
ソースの匂いと鉄板の熱さが辺りを包む。

その熱い鉄板の上に焼かれている物体をじっと見つめる黒鋼とニコニコ笑って見ているファイの間に座ったは。
その二人と同じくらい、目の前の物体に穴が開くぐらい見つめていた。



「これって…」


「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから!」


「『おこのみやき』っていうんだこれー」



小狼の言葉に正義が答える。
それが皆の疑問がするりと解ける。
ファイは皆の言葉を代弁したかのように納得した。



「おいしそうだな〜お好み焼きっていうのコレ。お腹空いたね〜お父さん


「誰がお父さんだ誰が!」



鉄板の上に焼かれてジュージューと音をたてるそれに目を奪われたままは黒鋼の裾を引っ張った。
彼もお好み焼きを見つめながらバッと裾の手を振り払ってツッコミをする。
こういうところは器用なのかもしれない。
彼の頭の上ではモコナが耳を嬉しそうにパタパタさせている。



「お好み焼きは阪神共和国の主食だし知らないってことは…あ、外国から来たんですか?金髪さんと銀髪さんだし…」


「んー外といえば外かなぁ。ね、ちゃん」


「うん、そうだねお母さん!


「あ、ご家族なんですか!?」


「い、いえ、違います…」




ファイとがニコーと微笑み合う。
正義の勘違いに小狼が汗を流しながら否定した。
この世界の人間ではない、ということは特に冷や汗ものだ。

ついでにファイが男であるのにお母さんと呼ばれて家族と勘違いされては困る。
小狼は少し気苦労を感じながら、苦笑を零した。



「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのー?」



あの人達、というのは先程喧嘩していたグループだ。
浅野笙悟率いるゴーグルのメンバーと、彼等と争っていた帽子のメンバー。

鉄板にしがみつく勢いでお好み焼きに顔を近づけていたは、あの喧嘩を思い出しながらふと顔をあげた。



「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで自分達の巧断の強さを競ってるんです」


「で、強いほうが場所の権利を得る、と」


「どっかの暴力団じゃんそれ」



納得したようにファイが言葉を出すと、はすぐに顔を顰めた。
自分が強いとそれを見せびらかすように暴れる輩。
そして自分達の領域を広げ、それを権力と勘違いする。
元いたの世界にも多くいた暴力団という名前の団体。

もどれだけ彼等にお世話になったことか。
見た目が違うというだけで絡まれ、絡まれる度に喧嘩をした日々が懐かしい。



「でもあんな人が多い場所で戦ったら他の人に迷惑が…」


「そうだねぇ。現に正義君危なかったもんねぇ」


「あれは僕がどんくさいからです!」


「いやぁ正義のどんくささは関係ないだろー。あいつらあちこち壊してさぁ…」



馴れ馴れしく正義を呼び捨てにしながらは唇を尖らせた。
ただの喧嘩だけならいいものの、他に迷惑をかけるのは頂けない。
正義はおずおずと口を開いた。



「あの…悪いチームもあるんですけどいいチームもあるんです!自分のナワバリで不良とかが暴れないように見回ってくれたり、悪いことするヤツがいたらやっつけてくれたり」


「自警団みたいなものなんですね」


「あちこち壊すのは、巧断を使って戦ったりするとどうしても…」


「ふーん…」



しょうがない、とはいえやはり壊すのだ。
この国の工事とか大変だなぁとはぼんやりと思った。

いや、きっと壊したものを再生させる巧断が沢山いるのだろう。
もしかしたらの出る幕ではなかったのかもしれない。



「さっきのチームはどうなのかなぁ」


「帽子かぶってたほうは悪いヤツらなんです!でもあのゴーグルかけてたほうは違うんです!他のチームとの戦い<バトル>の時、ちょっと建物壊れたりするんで、大人のひとは怒るけど」


「あ、やっぱり怒られるんだ」



は見えないように小さく笑った。
純粋な笑みではなく、ざまぁみろ、というもの。
それが見えるのはファイぐらいだろうが、彼は全く気にしない様子で正義の方を見ている。



「それ以外の悪いことは絶対にしないし、すごくカッコいいんです!特にあのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で、強くて大きくてみんな憧れてて!」



正義の声に熱が入ると同時にガタリと立ち上がった。
先程までおどおどしていた彼とはまるで別人。
憧れを語る彼はキラキラと輝いているかのようだ。

とファイ、そして小狼がじっと見つめる。
黒鋼とモコナはお好み焼きに集中したままだ。
ハッと熱弁していた自分に気付いた正義は、顔を赤らめて座った。



「す、すみません!」


「憧れのひとなんだねぇー」



へらりとファイが笑う。
それに答えるように正義は嬉しそうに頷いた。



「は、はい!でも小狼君や、君にも憧れます」


「え?」


「は?」



まさか自分の名前が出るとは思わない。
小狼とは目を大きく見開いて正義を見つめた。



「特級の巧断が憑いてるなんて、すごいことだから」


「特級?」


「さっきのゴーグルチームのリーダーっぽいのもそんなこと言ってたなぁ」



小首を傾げるのは
そしてフムと思い出しているのはファイだ。



「それ何なんですか?」


「巧断の『等級』です」



正義は巧断の『等級』について、語り始めた。









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