巧断の『等級』。
それは階級制度のようなものだ。

四級が一番したで、三級、二級、一級と上がっていって一番上が特級。
巧断の等級付け制度はずっと昔に国によって廃止されているらしい。
だが、現在も一般の人達は使っているという。



「じゃああのリーダーの巧断ってすごい強いんだー」


「はい」



ファイと正義が話している中、は先程の戦いを脳裏で振り返っていた。

浅野笙悟と名乗る彼のゴーグルごしの真っ直ぐな瞳と、その巧断。
巧断は特に、その場にいるだけでも存在感に気圧されるほどだ。
小狼の巧断も、ひしひしと肌で強さを感じた。
それが特級、というものなのかもしれない。

自分の巧断は果たして特級だろうか。
夢の中では確かに強さを感じていたのだが、確実に特級だとは言い切れない気がする。
何故なら、先程一緒にいたときには、まるで一体という感覚に陥っていたからだ。



「小狼君も、君もそうです。強い巧断、特に特級の巧断は本当に心が強いひとにしか憑かないんです」



強い巧断が憑くことは心が強いということ。
これがイコールで括られる。



「巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を自由自在に操れるのは強い証拠だから…憧れます」



ゆっくりと、確実につむがれるその言葉。
正義が本当に憧れていることが手に取るように分かる。



「僕のは…一番下の四級だから」


「正義君…」



悔しそうに、そして悲しそうに瞳を伏せる。
小狼は心配そうに声をかけた。

そんな正義の話に、は一人顔を顰めた。


(…強い心に強い巧断が憑く…ねぇ)


些か信じられない話だ。
というよりも、信じたくない話だ。

心が強いだとか弱いだとか、誰が決めるのだろうか。

どこの世界、どこの状況、どこの状態でも人は生きている。
一生懸命ではなくても、一生懸命であっても。
逃げようとも、逃げなかろうとも。
何があっても、なくても。


(生きてるってこと自体が、強いことだと思うんだけどなぁ…強い想いがあろうとなかろうと)


小狼はきっと、強い信念があるから心が強いとか、そういう意味となるのだろう。
それに強い、あの炎の巧断が惹かれたのかもしれない。

でも自分の巧断が低い級だからと自分の心を否定するのは些か場違いな気がする。


(等級や心なんて関係なく、とにかく自分に憑いてくれること自体に感謝するべきなんじゃねぇのかなぁ)


ポンポンと平らな胸を叩く。
先程力を貸してくれた彼等を思い返しながら。


すると視界の端に、うずうずし始めた黒鋼が目に入った。



「……黒鋼、ウズウズしすぎだし」



はやくお好み焼きを食べたいのか。
それともひっくり返したいのか。
鋭いはずの紅の瞳はそういえば先程からお好み焼きから離れていない。
ついでにの声も聞こえてないらしい。

変なギャップに、はクスリと小さく笑った。



「でも一体いつ小狼君達に巧断が憑いたんだろうねぇ」


「そういえば昨日の夜、夢を見たんです」


「あ、小狼も?俺ももしかしたらそれかも」


「んん?夢?」



ファイの疑問に小狼と一緒に便乗する。
黒鋼から目を逸らして蒼い瞳の方へと移す。
これから説明しようと、二人が口を開いたときだった。



「待ったー!!!」


「きゃーっ」


「ぎゃーっ!?」




低い男の人の大きな声が店内に響く。
同時に黒鋼の、どうやらお好み焼きをひっくり返そうとしていた右手がスカーと空振り。
その衝撃で黒鋼の頭の上に乗っていたモコナが悲鳴と共にの頭上に落下。
思ってもいなかった大声と頭への衝撃で、の心臓は飛び跳ねファイの腕に反射的に飛びついた。



「ななな、何!?おおお俺の頭になな何かの衝撃が大声がごごごごめんなさい俺何かしたぁぁ!」



頭は酷く混乱中だ。
自分に何が起こったのが全くわかっていない。
視界の端では小狼も少なからず動揺している様子が見えた。
とりあえずファイにそれを訴えるが、彼は目を瞬かせた後、全く動じないでアハハハと笑った。



「あははちゃん落ち着いてー。頭に当たったのは黒ぴょんから落ちたモコナだよー」


〜ごめんね〜。黒鋼から落とされたの」


「くくく、黒ぴょんから落ちたモコナ!?」



ファイが空いている方の手で、の頭の上のモコナを持ち上げて見せる。
謝ってはいながら全く反省の色を見せずにホエホエと笑っているモコナが目の前に差し出される。
はまだ動揺しながらも、差し出されたモコナを手に取った。



「も、モコナだ!どう考えてもモコナだ!



触ってみればモコナ独特の気持ちいい感触。
緊張感のないその笑みに、ようやくの心臓に落ち着きが戻ってくる。



「びっくりしたー?」


「あ、び、びっくりした…。…あ、ファイごめんな飛びついて」



息を整えながら、しがみついてしまったファイに謝罪した。
彼は全く気にしていないとヒラヒラと手を振る。
ホウッと息を吐いてから、は辺りを見回した。

ちなみに黒ぴょんと呼ばれても反応していない黒鋼は右手を空中で止めたまま動いていない。
そんな変な格好を見ながら、は声の主を探した。


やってきたのは、黒い短い髪と黒い瞳の店員。
そしてその後ろの、眼鏡をかけた優しそうな笑みが印象的な店員。



「王様!?と神官様?!」



目を瞬かせたのは
そして、彼等を見て声をあげたのは小狼だった。









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