「お…王様!どうしてここに!?」



小狼が驚愕に表情を染めながら声をあげる。
その向かいに座るは、口をポカンと開いたままこちらに来たその店員二人を見ていた。

その二つの顔に、は見覚えがあった。



「はぁ?誰かと間違ってませんか?俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」


「え?」



顔を顰めて『オウサマ』を否定する彼と、その後ろで微笑んでいる眼鏡の青年。
小狼はその言葉に酷く驚いている。
オウサマと呼ばれた彼は無表情に戻り、歩き出した。



「お客さん、こっちでひっくり返しますんでそのままお待ち下さい」


「お、おう!」



どうやらお好み焼きをひっくり返そうとした黒鋼を止めたかったらしい。
話しかけられた黒鋼は冷や汗をかきながら返事をした。


(…あ、そっか、ここ異世界なんだっけ)


見知った顔を見て、ようやく意識を取り戻す。
は静かに開けていた口と目を閉じた。
フゥと無意識に小さく息を吐く。


見たことのある二人。
彼等は、の世界では兄の友人だったハズだ。


黒い短い髪の彼は、『桃矢』。
ぶっきらぼうで無愛想ではあるが、妹同様に接してくれた人物。

優しい笑みの彼は、『雪兎』。
いつも優しい微笑みと言葉は、心のオアシスだった。



「王様って前いた国の?」


「はい…」


「で、隣の人が神官様かー」



小狼の世界では、彼等は王様と神官様だったらしい。
全く違う役職だ。

ここのお好み焼きは店員が返してくれるんです、と黒鋼に教えている正義を確認しながら、遠くの二人をは見つめた。



「次元の魔女が言ってたとおりだねぇ。『知っている人、前の世界で会った人が、別の世界では全く違った人生を送っている』って」



小狼の世界では王と神官。
かたやの世界では兄の友人としての一般人。
そしてこの世界では、お好み焼き屋の店員、もしくはアルバイト。

同じ、で、違う。



「なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」


「同じだけど同じじゃないかなぁ。小狼君の国にいた二人とはまったく別の人生をここで歩んでるんだから」



あちらでも、こちらでも違う人生を歩んでいる。
それはリンクすることなく、一本の道。



「でも言うなれば、『根源』は同じ、かな」


「根源?」


「命のおおもとー性質とかー心とかー」


「『魂』、ってことか」



どの世界でも、彼等はいる。
違う人生、違う歩み、違う出会い、違う別れ。
どんなに別々でも、リンクなどしなくても。

変わらないのは、心。
『魂』。




ファイと黒鋼の話を聞きながら、は目の前のお好み焼きに目をやった。
いつの間にやら店員が来てひっくり返してソースをかけていったらしい。


(…彼等がここで生きてるってことは、小狼のところでいう王と神官や、俺の世界の彼等は大丈夫だな)


時間の流れは異なる。
世界も異なる。

だが、何となく、『魂』が同じなのならば。
元気でいると、感じられる。


ふと顔をあげると、真剣に何かを考えている小狼が目に入った。
彼から聞いたのはサクラの羽根を探すことと、そのために神官が侑子のところへ彼らを送ったということだけ。
しかし、その表情からは他にも色々あったように感じられた。
焼けて食べ始めたファイや黒鋼に気付かないほど、思考に耽っているのだから。



「小狼」


「小狼くーん」



とファイが声をかける。
すると、ようやく此方の世界に戻ってきたようだ。



「なくなっちゃうよ」


「はい」



ふんわりと柔らかく微笑むファイに、小狼も微笑んで返して箸を持った。


(…何やってんだろ、俺も)


サクラの羽根以外に何があったか、なんて聞けるはずない。
つい先日会ったばかりなのに、そこまで立ち入ったことを訊くのは失礼だ。
はそんなことを今更ながら思い出し、自分も箸を持った。



「いただきまーす!」


「あっ!てめ!それ俺のだろうが



隣では黒鋼のお好み焼きを我先にと口を開いてるモコナがいる。
軽くお好み焼き争奪戦が開始されていた。
向かいの正義が「もう一枚頼みましょうか」と焦りながら声をかけている。
は目を瞬かせた後、クツクツと笑って自分のお好み焼きを皿に取った。



「モコナ、俺の分けてあげるから、黒鋼のは返してあげなよ」



きっとモコナ的には黒鋼にじゃれることが好きなのだろう。
しかしこのままではお好み焼き争奪戦が悲惨なことにお好み焼き落下事件になりかねない。
さすがにそれは避けたかった。



「本当〜?やさしい〜」


「だろ?どこかの黒い人とは違って俺男前だから


「誰が黒い人だ!」



モコナが嬉しそうにに頬ずりをする。
はニヤリと笑って言い放つとすぐに返ってくるツッコミ。
先ほどまでの、少しばかり切ない思考を吹き飛ばすかのように、達はお好み焼きを楽しんだのだった。









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