「おいしかったー!」


「お腹いっぱいだ〜…ふあぁ〜う…」


「ほんとだねー」



ぷはーっと息を吐くのはモコナ。
暖簾を潜って外へ出て、は大きく伸びをしながら欠伸をする。
丁度心地よい風が肌を撫でる。
ファイが同意して、モコナの頭を優しく撫でた。



「教えてくれてありがとう。ほんとにおいしかったです」



律儀に小狼が正義にお礼を述べている。
も眠たそうな顔でペコリと頭を下げた。



「ありがと〜。美味しいものお腹いっぱい食べたお陰で眠くなったよ……黒鋼、おんぶ〜


「するか!」


「痛いっ!」




眠い〜と黒鋼におんぶを頼むが、チョップと共に断られた。
頭に衝撃が走ったが、眠気が少しなくなっただけ。
大きな眠気は未だ拭えずにいるはフラフラとしながら、皆に続いてブラブラと歩き出した。

モコナが「他にもおいしいものおしえて〜」と正義に話しかけているのがまるで遠い世界だ。
とりあえずに巻きついている縄の端を短くして黒鋼が引き摺る形。
実際、の目は半目で、機能しているのかすら分からない。
彼らはしばらく歩いて、街のある広場へと出た。



「さてと、これからどうしよっかー」


「もう少しこの辺りを探してみようと思います。…、眠いなら帰った方が…」



そこで立ち止まってこれからの作戦会議。
作戦、といっても巧断の羽根探しだ。
しかしこれは自分の目的だと考えていた小狼は、今にも眠りそうなに帰ることを促した。

例え手伝ってくれると言っても、眠気に襲われている人を手伝わせるわけにはいかない。
もしかしたらこれから大変な事件に巻き込まれるかもしれないのだから。
先程の、戦いのような。

そんな小狼の言葉に、は目を薄っすらと開きながら口を尖らせた。



「むぅ…イヤだ…一緒にいる」


「でも…」


「眠ってでも一緒にいる!」



ガシッと小狼の半袖の端をは掴んだ。
目はまだ虚ろなままだ。
だが、その手は驚くほどの強さで袖を握っている。



「俺、眠ってでも、一緒に行くから」



紫苑の瞳が琥珀の瞳と絡まる。
重い瞼の下から見える、強い視線。

小狼がそれを見て戸惑っていると、ファイが横から顔を出す。
そして微笑みながらの頭を優しく撫でた。



ちゃんもこう言ってることだから、一緒に行こうかー。本当に眠っちゃったら黒ピンがおんぶしてくれるだろうからー


「って俺かよ!んでもってその呼び名ヤメロ!」



ただでさえ縄を持ってるのに、と黒鋼からはブーイングが発せられた。
その間もはじっと琥珀の瞳を見続けている。
小狼の許可を、待っている。

強い紫苑の視線に折れたのは、苦笑と一緒だった。



「…わかった。じゃあ、一緒に行こう」


「うむ!よし野郎ども、行くぞコノヤロー


「寝惚けて調子にノってんじゃねぇよお前は!」



小狼から許可が降りた途端、は半目のまま拳を振り上げて明後日の方向へと歩みだした。
寝惚けているせいか、言動もおかしければ行動もおかしい。
…いや、元からかもしれないが。
とりあえず、黒鋼はツッコミながら縄をグンっと引き寄せての歩みを止めた。



「んーでもオレ達、この辺分かんないから遠出できないねぇ。空ちゃんとこに帰れなくなっちゃうからねー」



そう、問題はここの地理に詳しくないということ。
拠点は空汰の元であるために、そこに帰れる場所までしか自分達は行くことはできない。
ファイは本当にそれについて真剣に考えているのか分からないぐらいの、ヘラリとした笑みを浮かべている。



「…俺の眠りが告げるのは唯一つ…己のフィーリングを信じて進め。ということで…こっちだ」


そっちはさっきお好み焼き食べたとこだよ


「…お好み焼きがまた俺を呼んでるんだモコナ」


「どんだけ食べる気だよ」


「うん、これでちゃんのフィーリングは頼りにならないことが分かったねー」




の寝惚けた言葉に、多種多様なツッコミが返ってきた。
何気に酷いことを言ったのはファイだ。
意識が半分ほど此方にないためか、それらのツッコミにはダメージを受けていないだったが、小狼は小さく焦っていた。
彼はまだ、このツッコミとボケには慣れていないらしい。



「あ、あの!どこか行かれるんですか!?」



グダグダの空気を破ったのは正義だ。
どんなにそれが有り難かっただろうか。
小狼はどことなく安堵を感じながら「はい」と返事を返した。



「場所はどこですか?」


「…分からないんです。探しものがあって…」


「だったら僕も一緒に探します!案内します」



この辺の案内を力強く申し出る。
正義の笑顔がキラキラと輝いているかのようだ。
小狼が少し、申し訳なさそうに顔を顰めた。



「でも、迷惑じゃ…」


「全然!家に電話します!ちょっと待っててくださいねー」



返事も待たずに彼はさっさと走り去っていった。
あ、と小狼が手を伸ばしてももう届かない。
思い込んだら、すぐに実行させるタイプなのかもしれない、とは寝惚け眼でその後ろ姿を見ていた。



「モコナもでんわしたーい。モシモーシ、モシモーシ」


「むぅ。じゃあ今度俺とモコナでやろっか〜。モスモース、モスモース


「…おまえ、あの小僧が戻ってくるまで少しでも良いから寝てろ。こっちが疲れる



モコナが小狼の頭の上で楽しそうに歌っている。
そこにも便乗して一緒に歌いだした。
寝惚けているとはいえ、下手したら変な酔っ払いだ。
さすがにいつも以上におかしいにツッコむのが疲れたらしい黒鋼は溜め息混じりにそう零した。

はその低い声に、「了解〜」と言ってから、立ったまま意識をすんなりと飛ばした。
立ちながら眠るという芸当。
大丈夫だろうかと心配する小狼を後目に、器用に柱に背と頭を預けている。



「ほんとに憧れなんだねぇ」



ファイが小狼にふわりと微笑みながら口を出した。
その言葉は先程の正義の行動のものだ。
まさに憧れの小狼の役に立ちたいとかそういう感情で走っていっている。
役に立つだけで嬉しさが込み上げる。
小狼は照れながらも、なんだか申し訳ないような気持ちでいっぱいになっていた。


そして彼等の話は夢の話へと遡った。
あの、不可思議な夢へと。







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