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ファイの口は語らない。 開きもしない。 笑いもしない。 しかし、蒼い瞳は深いところで輝く。 はその瞳を見つめてから、深く、深く微笑んだ。 「じゃあ、虎闇。行こうか」 黒い瞳のまま、が隣にいる巧断を撫でる。 虎独特の、固いような、柔らかでしなやかな毛。 それはグルルと小さく喉を鳴らしてから、白銀の瞳をギラリと輝かせた。 黒い翼を羽ばたかせると、黒い羽根が幾つかそこから離れて、辺りに浮く。 の漆黒の瞳と、虎闇の白銀の瞳はある一箇所を見つめた。 「アイツと、アイツ。そして…あっちの奴等三人だ」 一つの指で指すのは失礼なこと。 だからこそ、二つの指でしっかりと攻撃する方向を指した。 黒鋼に攻撃しているあのリーダーの傍にいるメンバーの数人。 彼等が見えないところで巧断を出してそこらの建物を破壊しているのは見えずとも感じること。 それは『気』を扱う家の人物だから。 「、でも手出しは…」 「大丈夫。あいつらみたいに見えないようにやるからさ。これでアイコだろ」 小狼の心配に、はニヤリと笑った。 巧断も瞳を細めて口の端を上げる。 黒い羽根は静かに浮いたまま、一定の方向へと向いた。 「さぁ、やろうか」 一層強く、ギラリと光る黒い瞳。 瞬間、黒い羽根が蛇の如く並んで、素早く地を這った。 二つの指をしっかりと、最初の目標へと指したまま。 そして、黒い瞳は細くなった。 「一人目」 そうの声が唱えた瞬間。 黒い羽根が一人を飲み込んだ。 叫び声すら、なく。 飲み込まれた彼から羽根が離れたときには、その人物は地面へと倒れていた。 意識はない。 そう、それだけの攻撃。 誰もそれには気付かない。 はそのまま、二人目を指差して口を開いた。 「二人目ドキュン」 瞬間、二人目が消える。 人の意識が飛べば、巧断も消える。 実際、建物を少しずつ破壊していた巧断が二体、誰にも見つかることなく消えた。 「巧断はどうした!見せられないような弱いヤツなのか!?」 「うるせぇ」 リーダーが大きく高笑う。 大きな瓦礫の下になった黒鋼が、傷だらけになりながら起き上がった。 はその姿を見ながら、安堵の笑みを零した。 「ぎゃあぎゃあ、うるせぇんだよ」 「…そこらのハエもな」 黒鋼にはの声は届かない。 だからこそ、小さく零した。 小さく三人目、と唱えるとまた一人消える。 倒れていく彼等を見るたびに、笑みが深まっていく。 「おれの巧断は一級の中でも特別カタイんだぁ!」 「けど弱点はある」 暢気な話が聞こえる。 はそれに耳を済ませながらも、クイクイと指を動かした。 四人目、五人目。 「これでフィニッシュ」 小さく唱えてから、は大きく右手を掲げて拳を握る。 最後の人物が地面へと倒れると、黒い羽根は跡形もなく消え去った。 ここでようやく、彼等の数人は自分達の味方が倒れていることに気付いた。 そこで深く、深く。 と巧断は ニヤリと笑った。 「あー刀がありゃてっとり早く…」 黒鋼の近くにある、大きな『気』を感じて。 濃い笑みのまま。 瞳を、閉じて。 「!!」 黒鋼が息を呑む。 それに促されるかのように、の瞳は開かれる。 漆黒ではない、元通りの紫苑の瞳。 それには黒鋼の後ろにいる大きく、水を纏った蒼い竜の姿が映っていた。 「なに!?おまえ、夢の中に出て来た……」 あのリーダーの巧断よりも。 小狼のものよりものものよりも、遥かに大きなその巧断。 驚く黒鋼を他所に、それは目を細めると姿を変えた。 黒鋼の前に、剣として。 「使えってか?」 先程までの戸惑いは一体どこへ行ったのか。 剣を見て、落ち着いたのだろうか。 蒼い剣に黒鋼は、笑みを濃くする。 剣の感触を確かめて、重みを感じて。 そしてしっかりとその柄を握り、構える。 「なんだ。おまえも暴れてぇのかよ」 まさに一心同体。 己の、そして巧断の疼く心を感じる。 「そ…それがおまえの巧断か!どうせ見かけ倒しだろ!こっちは次は必殺技だぞ!蟹喰砲台<カニクイホウダイ>!!」 大きな巧断に驚いたのか、怖気づいたのか。 おそらく、その両方を持ったあのリーダーがすぐさま巧断を動かす。 必殺技と言うだけあり、その巧断は身体中を刃にして襲い掛かってくる。 「どんだけ体が硬かろうが刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」 そんな攻撃を目の前に、黒鋼は冷静に紅の瞳にそれを映していた。 剣の構えが変わり、笑みが深くなる。 そして次の瞬間、彼の身体はそこから消えた。 「破魔・竜王刃<はま・りゅうおうじん>」 黒鋼の、独特な低い声が小さく紡いだ言の葉。 それは耳に心地よく響く。 鮮やかに踊る剣。 描かれる剣の残像。 花火のようにバラバラに散らばる蟹のような巧断。 ほんの少し遅れて、大きな音が雷鳴のように響く。 あのリーダーの悲鳴が轟く。 彼はまるで身体をバラバラに切断されたかのような痛みに、自分を抱きしめて倒れた。 小狼は目を見開いて純粋に驚き、ファイとモコナは笑みを崩さずにそこを見る。 瓦礫の山に降り立った黒鋼は、剣を背負うように立ち上がった。 「も…もうチーム作ってんじゃねぇか。おまえ『シャオラン』のチームなんだろ!」 ビシリと人差し指を黒鋼に指した。 その周りでは、部下や仲間が彼を支えたり、辺りでいつの間にか倒れていた仲間を助けている。 「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ生涯ただ一人にしか仕えねぇ」 紅の瞳は彼等を見下ろした。 強い、意志を持つ瞳で。 ゆっくりと口を開いた。 「知世姫<トモヨヒメ>にしかな」 誰も彼が仕えているその人物を知らない。 けれども、彼の声が、言葉が、瞳が語る。 彼が仕えるだけの、者であると語る。 はその姿に。 巧断と共に笑みを浮かべて見つめていた。 |