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戦いが終わり、喧嘩を売ってきたチームは逃げるように退散していった。 いや、確実に逃げた。 しかも負け犬の定番の台詞「今度会ったときは覚えてろ〜」等を残して。 そのときはケラケラ笑って「一昨日きやがれ〜」とこれまた定番の台詞を返した。 自分達の巧断も戦いを終えたことを確認してから、さっさと各々胸の中へと戻っていった。 負け犬チームを見送った後、騒ぎを聞きつけた警察が遅い出動。 破壊されたそこらの柱や建物をさっさと直す傍ら、達に事情聴取を行っていた。 「ということでね、あの人たちから喧嘩売ってきたんですよ」 「そうそう、この人顔は恐いけど一応いい人なんすよ〜」 「うるせェ」 「いたっ!」 ゴッといういい音が頭から聞こえた。 勿論、黒鋼がの頭をドツいたのが原因だ。 痛む頭を抑えながら、はぷぅと頬を膨らませた。 とりあえず今回の騒ぎは正義がしっかりフォローしてくれている。 途中で小狼が付けたし、良くまとまっている形に終わりそうだ。 「ってか黒鋼さ、怪我見して」 「あぁ?」 返事を聞かずには近くにあった黒鋼の手を取った。 男の人、そしていつも鍛えているだけあって、硬くて太い腕だ。 浅いとはいえ、かすり傷が多数。 「黒鋼、たくさん怪我してる〜」 「こんなん怪我にも入んねぇだろうが」 モコナが彼の腕にのって優しく腕を擦る。 それでも痛みを感じていないかのように全く顔色を変えずにいる。 実際は軽くも、痛みを感じているはずなのにだ。 「黒ムリンは強情だねぇー」 「だからその呼び方ヤメロ!」 「アハハ!」 ファイも会話に参加したところで、は声をあげて笑った。 逞しい手首をしっかりと握ったまま、もう片手をそこへと翳す。 紫苑の瞳を柔らかく細めて、力を集中させた。 の下から柔らかい風が奏で始めた。 銀の髪が小さく揺れ、触れ合っている場所に心地よい熱が集まる。 「…オイ、治すまでもねぇだろうが」 治癒の『気』を使うことに気付いたのか、黒鋼が顔を顰めて腕を引こうと動かす。 が、は笑んだまま、その腕を離そうとはしない。 逃がさない、とばかりにしっかりと掴んでいるためだ。 「…浅い傷もね、そこまででなくても、放っておくとやっぱり痛いもんだよ。下手したら、傷口にバイ菌入って大変になったりさ〜」 風に銀の髪を揺らしながら、は笑む。 触れたそこから、傷がゆっくりと確実に癒えていく。 全くもって不思議な力だ。 黒鋼とファイがそこを凝視している。 「は凄いね〜」 「んなことねぇよ。これぐらいしか出来ねぇんだから」 『気』が黒鋼の身体を駆け巡る。 そうすることで傷全てが消えていく。 しっかりと全てが消えたことを確認してから、はすぐに『気』を止めた。 そしてバシンと軽く叩いてから手を離した。 「ヘイ終了!おまちどぉ!どうよ、痛みとかない?」 「元からねェよ」 治療されるのは不本意だったのか、未だに顔を顰めたままの黒鋼。 はそんな表情を見やってからクツクツと笑った。 「そりゃあいらぬお節介失礼しました〜」 「全くだ。さっきの戦いのときもな」 「はい?」 紅の瞳が鋭く見下ろす。 怒っているわけではなく、探るような目。 キョトンとしているを見て、ファイはふんわりと笑った。 「黒モン、気付いてたんだねぇ」 「不自然に破片が落ちてきてたんだ。干渉してるヤツらがいるってのはすぐ分かる。破片がなくなりゃあそいつらが消えたってことだろうが」 それにその呼び方いい加減ヤメロ、とファイを睨む黒鋼に、はようやく合点がいった。 彼は気付いていたのだ。 破片を無理に落として退路をなくしていた輩に。 そして。 「で、なんでちゃんだと分かったのー?」 「分かるだろ。コイツの隣にあの黒いのがいりゃあ」 その輩を知らぬうちに倒していたのがだということを。 黒鋼にとって、それが気に喰わなかったらしい。 腕を組んで見下ろすその姿は威厳がある。 「……テヘ」 「てへじゃねぇ。誤魔化すな」 誤魔化そうにも紅の瞳がそうさせてくれそうにもない。 はしどろもどろになりながらも、口を小さく尖らせた。 「…だって…あいつら気に喰わなかったし、堂々と攻撃すりゃいいのに陰でコソコソやってるからこっちもそうしてやろうと思って」 一人対一人の正々堂々とした戦いならいい。 また、堂々と仲間と一緒にやってるのならこっちも堂々と加勢できる。 だが、彼等は陰で攻撃していたのだ。 陰湿としか言い様のない戦い方は、にとっては卑怯という言葉でしか括れない。 思い返すだけで腹が立ってくるのを感じながら、頬を膨らませた。 「黒鋼が怒るかもって分かってたけど、許せなかったんだい。…ああ、思い出しただけでもムカつく。世界の中心で正々堂々と戦えと叫べる!」 「叫ぶな」 「あぁもう!謝ればいいんだろ謝れば!!邪魔してごーめーんーなーさーいー!!!」 「逆ギレ〜」 彼等に対する怒りが、睨みつけてくる黒鋼に方向転換。 いわゆるヤツアタリだ。 まったく謝罪の心が感じられない謝罪。 そしてはそう言い放った後、スタカタ逃げるように小狼の方へと走っていった。 「行っちゃった」 「居心地悪くなっちゃったんじゃないかなー黒っぴーが睨むからー」 小狼の背中に思い切り抱きつくの後姿を見ながらモコナとファイがちろりと横に立つ黒鋼を見る。 彼も悪いとは思っていないようで、フンと息を吐いた。 「ガキだなアイツは」 精神が。 とは言わなかったが、皆には伝わること。 ファイは小さく笑って口を開いた。 「子供だけど、ちゃんとしっかり考えてるよーちゃんは。さっきの戦いだって、躊躇ってたからオレに訊いてきたんだし」 考えてたから、躊躇っていたからこそファイに訊いた。 ファイは返事を口に出して返さずとも、瞳で返事していたようなものだった。 それで安堵して、は攻撃を繰り出したのだ。 「原因はお前かよ」 「まぁ、そういうことになるかなー」 へにゃりと笑うファイに黒鋼は溜め息を小さく吐いた。 彼もまた、子供だと。 |