「ただいま帰りました」



その後、しばらく正義と辺りを探してみたのだが、羽根は見つからず。
夕刻となってしまったため彼とは別れ、四人と一匹は空汰の下宿屋へと戻ってきた。
ただいまただいま、とそれぞれ口に出し、部屋へと入る。
眠っているサクラの傍には、嵐が座っていた。



「お帰りなさい。何か手がかりはありましたか?」


「はい」



小狼が嵐に今日起こったことを説明しようと口を開いたところ、どこからか走る足音が響いた。
皆が其方に目を向けると、階段を駆け上がってくる空汰の姿。



「おう、みんな揃ってんな!…って、何やその縄」



空汰の目に最初に映ったのはの腰に括られた縄と、その端を持つファイ。
二人は目を合わせると、アハハハと笑い始めた。



「んーどう説明したらいいのかねーちゃん」


「んー、言うなれば、ペットプレイ?


「はぁ!?」



アハハと笑うばかりでとんでもない発言をしたに、空汰が過剰に反応を示す。
意味が分からないまでも、黒鋼も嫌な予感がしたのか顔を顰めた。
ちなみに小狼はわけが分からず、オロオロしている。



「ちょっ!何やそれ!俺もやったことないプレイを堂々と!けしからんやっちゃ!!…で、どういうプレイなん?俺にもちょお教えグフゥ!


「ぎゃあああああああ!空ちゃん!!!」



空汰がノリに乗ったところで嵐の鉄拳がとんだ。
頭に拳骨一発。
沈んでいく空汰の姿を見て青ざめて叫んだのはだ。
嵐の瞳がを映したところで、雰囲気にのまれたはすぐさまそこに土下座をした。



「すすすすんませんすんません!ただ俺があちこち所構わず突っ走るから迷子防止のためにこんなことになってるだけですぅぅぅ!!!」


「イツツ…何や〜最初からそう言うてくれればよかったのに。さすがに俺も驚いたで、そんな趣味があったんかと



素早く復帰した空汰は殴られた頭を擦りながらアハハと笑った。
そこに嵐がギロリと睨む。
は土下座したまま、またもや汗をこめかみから流した。



「で、どうやった?…と、その前に」



立ち上がった後、空汰は埃を払う。
真剣な表情になり、体制を整えた。
何があるのか、と皆も緊張していると。



「ハニー!おかえりのチューを



語尾にハートマークをつけて嵐へとステップを踏んで歩き出す彼に。
もう一発頭に拳骨がとんだのは言うまでもなかった。











「そうか。気配はしたけど消えてしもたか」



静かな部屋の中で真剣な空汰の声が響く。
皆が頷く中、モコナは嬉しそうに飛び跳ねている。



「で、ピンチの時に小狼の中から炎の獣みたいなんが現れて、の中からも白いのと黒いのが現れた、と」


「はい」


「うい」



雰囲気は凄く真剣そのものなのだが、どうしても似合わない。
何せ、真剣に語る空汰の頭には大きなタンコブ。
モコナはそれに喜々としているのだ。



「やっぱりアレって小狼君達の巧断なのかなー」


「おう。それもかなりの大物やぞ。黒鋼に憑いとるんもな」


「何故分かる?」



空汰が答える中、黒鋼が聞き返す。
この世界の知識はほとんどゼロな以上、自分達が分かることができるものは尋ねるのは基本。
も首を傾げる中、空汰は嬉しそうに口を開いた。



「あのな、わいが歴史に興味を持ったんは、巧断がきっかけなんや」



歴史、という言葉に小狼が反応する。
自分の世界では発掘作業に関わっていたからか、彼は歴史が好きらしい。
目が幾分か輝いている。



「わいは、巧断はこの国の神みたいなもんやないかと思とる。この阪神共和国に昔から伝わる神話みたいなもんでな、この国には八百万<やおよろず>の神がおるっちゅうんや」


「やおよろず」


「八百万って書くんや」



漢字独特の読み方にファイが聞き返す。
モコナも嬉しそうに彼の頭に移動して、神様いっぱいと喜んでいる。



「800万も神様がいるんだー」


「いや、もっとや。色んな物の数、様々な現象の数と同じくらい神様がおる言うんやから」


「その神話の神が今、巧断と呼ばれるものだと」



小狼が彼の言いたいことを汲み取り、叫んだ。
ここでようやく、も自分の胸を見た。

彼等の戻っていった胸。
さらしで押し込めて平らにした胸。
ポンポンと叩くと、ほんのりと温かくなる。
彼等が、いる証のように。



「神様と共存してるんだーすごいなぁ」


「この国の神は、この国の人たちを一人ずつ守ってるんですね」


「小狼もそう思うか!」



空汰の声に熱が入る。
同じ意見を持つ人に会って話をすることは嬉しいことだ。
だからこそ彼の顔が生き生きしている。



「わいもずっとそう考えとった。巧断、つまり神はこの国に住んでるわいらをごっつう好きでいてくれるんやなぁってな」


「異世界から来た、俺らでも?」



温かい胸を撫でながら、は紫苑の瞳で空汰を見る。
彼はおう!と元気良く肯定の意を示した。



「一人の例外もなく巧断は憑く。この国のヤツ全員一人残らず神様が守ってくれとる。も、そうやったろ?」



な、と言われて思い出すのは、最初に彼等が出てきたときのこと。
そういえばあのときは、小狼を助けようと必死だった。
が、よくよく考えれば自分も危険だったのだ。

攻撃の下へ、走っていったのだから。



「…守って、くれた」


「な?この国の人だけじゃのうて、この国にいる人に憑いてくれとる」



大きな翼を広げて、攻撃を回避してくれた。
それだけじゃない。
自分がやりたいと思ったことを、一緒になって行ってくれたのだ。



「まあ、阪神共和国の国民は血湧き肉躍るモードになるヤツが多いけど。けどな、なかなかええ国やと思とる」



今日のようにナワバリ争いをする輩。
自警団のように守ってくれる輩。
皆が皆、良い人とはいえないのはどこの世界も同じ。

それでも、いい国だから。



「そやから、この国でサクラちゃんの羽根を探すんは、他の戦争しとる国や、悪いヤツしかおらんような国よりはちょっとなマシなんちゃうかなってな」



助けてくれる、神がいることすら救い。
安定している世界であることも。
味方でいてくれる空汰や嵐がいることも。
衣食住ができることも。



「……はい」



最初の世界が、ここでよかった。

小狼が優しく、眠っているサクラの頬を撫でる。
そんな様子を見ながら、は小さく微笑んだ。














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