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「羽根の波動を感知してたのにわからなくなったと言っていましたね」 嵐が畳の上にいるモコナに優しく問いかける。 まだ悔しいらしく、問いかけられたモコナは小さく「うん」と頷いた。 表情に翳りが見える。 「その場にあったり、誰かが只持っているだけなら、一度感じたものを辿れないということはないでしょう」 冷静に状況を判断して、口にする。 巫女である勘だけではなく、しっかりと考えられる可能性を言葉にして。 皆の視線が注がれる中、嵐はゆっくりと口を開いた。 「現れたり、消えたりするものに取り込まれているのでは?」 「巧断、ですか!?」 素直に『巧断』と言わなかったのは気付かせるためか。 小狼が大きく声を出したときに、は羽根の持ち主であるサクラを見つめた。 「確かに巧断なら出たり消えたりするから」 「巧断が消えりゃ波動も消えるな」 大人組の意見は賛同。 小狼の表情に真剣さが増す。 「巧断の中に、さくらの羽根が…」 「でも誰の巧断の中にあるのか分かんないよねぇ」 モコナが感じたのはナワバリ争いの中。 沢山の巧断がそこにいた。 はのんびり聞きながら、ようやく口を開いた。 「でもナワバリ争いをしてたのって二つのチームだろ?あいつら追えば見つかるんじゃね?」 「そう簡単に見つかるのかよ」 「正義に手伝ってもらったりとかさぁ」 正義はどうやらナワバリ争いなどに詳しいようだった。 もしかしたら有力な手がかりを知っているかもしれない。 「けど、かなり強い巧断やっちゅうのは確かやな」 「へ?」 「なんで分かる」 正義がどうのこうの、と言っている横から空汰が声を出す。 新たな新情報に、と黒鋼は一緒に聞き返した。 「サクラさんの記憶の羽根は、とても強い心の結晶のようなものです」 空汰ではなく、嵐が答える。 それだけでこんなにも、説得力が増す。 元、巫女だからだろうか、とは首を傾げながら見つめた。 「巧断は心で操るもの。その心が強ければ強いほど巧断もまた強くなります」 「…えっと〜、つまり羽根が心として強いから、それを持ってるから巧断も自然と強くなっちゃう、みたいな?」 「そういうことです」 非常にややこしい。 は嵐に聞き返しながら、無い頭をフルに回転させた。 巧断は心が強ければ強くなる。 その心を強くするきっかけが羽根であるのなら、巧断が強くなる。 だからこそ、強い巧断に羽根がある。 (…あれ、また分かんなくなってきたぞ?巧断が強いと羽根が強いんだっけ?) 処理すればなんてことない、方程式。 だが、にはまだ時間を要する。 頭の上に沢山のクエスチョンマークを飛ばしながら悶々と考える。 「とりあえず、強い巧断が憑いてる相手を探すのがサクラちゃんの羽根への近道かなぁ」 ファイが軽く言ってのけると、小狼とモコナが頷く。 まとめるとそういうことだったのだが、がそこに辿りついたのはその数秒後だ。 「…ん?あれ?結局そういうこと?え?ちょ、そういうことは早く言ってよ。難しく考え込んじゃったじゃん」 なんだそっかぁ、とは何やらスッキリした表情。 考えずとも、それさえ分かってればいいだけの話だったのだ。 遠くから黒鋼が小さく「バカだな」と呟く。 が、幸いには聞こえなかった。 「よし、そうと決まったらとりあえず腹ごしらえと行こか!」 すっくと勢いよく立ち上がったのは空汰だ。 ビシビシと黒鋼とファイに指をさして「手伝い頼むで」と声をかける。 文句を言わずに歩き出すファイとは対照的に黒鋼は文句ばかりだ。 「あ、あれ、俺ハミ?」 「おれも手伝います」 呼ばれなかったのはと小狼。 モコナも呼ばれなかったのだが、ファイの頭の上に乗って手伝う気満々だ。 立ち上がろうとした二人に、空汰は待ったと手を出した。 「今日はええ。は巧断何回も出して疲れたやろし。小狼はサクラちゃんとずっと離れとって心配やったろ」 フンワリと優しく笑う空汰と嵐。 小狼の理由なら分かるが、のことも感じていたとは。 事実、は表情に出さないまでも疲れは溜まっていた。 さすが巫女、とその旦那だろうか。 は目を瞬かせながら、二人を見上げた。 「顔、見てたらええ。も休んどき。できたら呼ぶさかい」 「…有り難うございます」 「あざす」 閉ざされる扉に、小狼と同時に礼を述べる。 はそれだけに留まらず、大きく頭を下げた。 まるで土下座のようだが、関係ない。 パタン、という無機質な音が響く。 顔をあげると、小狼とバッタリと目が合った。 「…お疲れ?」 「…疲れてるのは、だと思うけど」 疑問系で挨拶すれば、返事が返ってくる。 なんだかそれが嬉しくて、はテヘと笑った。 小狼は表情を少しだけ苦笑にしてから、目の前で眠るサクラへと視線を落とした。 それだけで、彼の表情が曇る。 悲しげに揺れる琥珀の瞳。 そこに映るのは眠ったまま覚めないお姫様。 は苦笑を零しながら、白い手を取った。 「はい、持って」 「え?」 そのまま握るかと思いきや、いきなり小狼へと渡す。 差し出した白い手を、無理やりは小狼の両手で握らせた。 彼よりも小さく、か細く冷たい手。 「いいか?流れてくる何かを、その子の身体に流し込むようにイメージしろよ?」 「え?え?」 全くもって何が行われるのか。 疑問符だらけの小狼をよそに、は自分の手を彼の背中に押し付けた。 背筋をピンと伸ばしたのを見て、軽く笑いながら瞳を閉じる。 自分の中にある『気』を、この手から小狼を伝って、サクラへと届くように。 緩やかな風が、下から優しく奏で始めた。 「!、疲れてるのに…」 「いいから、ちゃんと集中して注いでやれって」 治癒の『気』だ。 小狼が驚いて振り向くも、は目を閉じたまま。 銀色の髪を優しく靡かせて、触れている背中がじんわりと熱くなる。 そこから流れてくる温かく優しい何か。 小狼はこのままでは自分に治癒が使われるかもしれない、と前を向いて両手の中の手を握った。 「…そう、ちゃんと握って。自分を巡るそれを、差し出して」 身体を巡るそれを、差し出すように。 小狼はまるで願をかけるように、しっかりと握った。 そこからゆっくりと、それが相手に伝わる感覚。 「そうそう、上手い上手い」 後ろからはの声。 優しい風。 小狼は『気』を受け、サクラへと流す中、口を開いた。 |