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「みんな、やっぱり巧断出して歩いてないみたいだねぇ」 そうなると誰の巧断が強いのかわからないね、と付け足すファイに、はコックリと頷いた。 辺りは人で溢れる都会。 変わらない、あちこちの建物。 異世界組はまたここに出て、巧断探索を行っていた。 モコナと嵐の話を合わせて、羽根は誰かの巧断にあることは真実に近い。 だからこそ、こうやって沢山の人がいるだろうところに来ているわけなのだが。 予想に反して、巧断を出して歩く人たちがほとんどいない。 故に、羽根を感知出来ないでいる。 「それにもし、どの巧断が羽根を取り込んでるのか分かっても、そう簡単に渡してくれんのか」 それも問題だ。 黒鋼の言葉を聞きつつ、はうんうん唸り始めた。 隣では耳をその話に傾けながらも、必死に探す小狼の姿もある。 「簡単に渡してくれなかったら、アレだ。脅すとか」 「キャー野蛮〜」 「せめて戦うとか言え、戦うとか」 これでも真剣に言ったのだが、モコナには野蛮扱いされてしまった。 黒鋼も後ろで呆れている。 真面目に言ったことにチャカされるという反応ほど、悲しいものはない。 はメソメソと泣き真似をし始めた。 「酷い!俺のマジメな話を足蹴にするなんて!メソメソメソ…」 「あー黒ぴろりんが泣かしたー」 「あーい〜けないんだいけないんだ〜」 「俺のせいかよ!」 メソメソと思い切り言ってるあたり、モロ嘘泣き。 しかし、そこでノるのはファイとモコナ。 黒鋼の方が被害者のようだ。 小狼と彼を除く彼らがケラケラと笑う。 ちなみにはまた紐でお腹を括られている。 あちこち走らないのは、一度ここに来ているからだ。 これでまた珍しいモノを見つけたら走っていくのだろう。 縄の端を持つ黒鋼は、未だコメカミに青筋をたてている。 これから黒鋼の怒りが発散されるかもしれない。 そう思ったときだった。 「わっ!」 「ぎゃっ!?」 小狼のいきなりの驚き声に、も反射的に声を出す。 そろりと後ろを振り返れば壁から上半身を出している少年。 丁寧に礼をする可愛らしいものだが、さすがに恐怖だ。 しかもこの少年はどこかで見たことがある。 訝しげに見ていると、遠くからこちらへと足音が近づいてきた。 「小狼くーん!くーん!」 「正義君」 「あ、正義」 正義だ。 大声で小狼との名前を呼ぶ。 壁から上半身を出すのは、そういえば彼の巧断。 正義が来たことを確認すると、巧断は綺麗に消えた。 「探しもの、あの後見つかりましたか?」 走ってきたために、息切れ。 が近寄り、背中を擦る。 水があればいいのだが、さすがに持っていない。 正義は小さく「ありがとうございます」と言って上半身をあげた。 「まだです」 少し表情に翳りを見せる小狼をは見ていた。 正義と初めて会ったときから数日は経っている。 幾度となく街へ出て、頑張って探している。 だが、巧断は皆中々出さないし、モコナも反応出来ずにいた。 そろそろ見つけないと、サクラの容態が悪化するかもしれない。 不安と焦燥、それが小狼を駆り立てていた。 「だったら今日も案内させて下さい!」 正義はそんなことは知らない。 が、彼は笑顔でここらの案内を申し出た。 「いいんですか?」 「はい!今日日曜日ですし!一日大丈夫です」 有り難いことだ。 人手が増えると同時に、この地域に詳しい人がいるということは。 「有り難う、正義」 「いいえ!」 が笑顔で礼を述べる。 すると、フルフルと顔を横に振る正義の姿。 なんとも謙虚というか何とうか。 ファイもいつもと変わらぬ笑顔で、口を開いた。 「でも良くオレ達がいるとこ分かったねー」 「僕の巧断は一度会ったひとがどこにいるのか分かるんですよ」 「え、凄いじゃん!迷子にならないじゃんソレ!」 「お前に一番必要な巧断じゃねぇか」 「ですよね〜。ってしょうがねぇじゃん!あちこち面白いのがいっぱいなのがいけない!俺の興味を誘うのがいけない!」 「あー、モノのせいにしたー」 正義の巧断の話から、の迷子話に突入。 何せこの数日、本当に縄で括っていないとどこへ行くか分からないという事実が発覚したのだ。 何度か交番にお世話になったことを思い浮かべながら、達はそれで言い合いをしている。 小狼は出来るだけ彼らから目と耳を逸らしながら正義の方へと向いた。 「すごいですね」 「でも…それくらいしかできないし、弱いし…」 「何言ってんの!凄いだろそれ!それさえあれば、俺は縄なしでどこにだって行ける!フリーダムだ、フリーダム!!ええい、憎らしいこの縄め!」 「ふりいだむ?」 が自分のお腹に括られている縄を持ちながら熱弁している。 ちなみにフリーダムの意味を理解していないのは皆のようだ。 首を傾げる面々を見て、小狼は確かめるように声を出した。 「それって、『自由』って意味の?」 「そうそれ!俺、その言葉は好きなんだよなぁ!」 英語てんでダメなんだけどさ〜とケラケラ笑う。 話についていけない人たちを置いておいて、小狼は目を見開いた。 黒鋼やファイ、正義が知らない単語で、話が通じた。 しかも、意味も発音も一緒。 もしかしたら、一つの言語として共通のものがあるのかもしれない。 それを確かめようと、口を開いたときだった。 耳をつんざくような音が辺り一帯に響き始める。 「!」 「!?」 音の発信源は後ろの空。 高い建物の間から何かが速いスピードで飛んでくるのが見える。 鳥のような、何かのようだ。 しかし、それも一瞬。 形を認識した途端、それは一瞬にして達の中へと入り込み風を起こす。 吹き荒れるそれの中、聞こえたのは誰かの悲鳴。 「わあっ!」 「きゃ!」 それもまた一瞬。 鳥のようなものは、すぐさま空へと飛び去っていく。 「モコナ!正義君!」 「うええええ!?何アレ何アレ!?鳥!?鳥なのアレ!?」 正義と、モコナを掻っ攫って。 追うかのように声をあげる小狼と、いきなりのことに戸惑いを隠せない。 ちなみにの場合は好奇心が勝っていて、目を輝かせている。 地面に落ちたのは、消えていくその影と、一枚の手紙。 小狼はすぐさま拾いあげた。 音楽に使われる記号が多く書かれている紙に。 独特の可愛い文字と語尾にはト音記号。 『阪神城で待つ』 それにはそう、書かれている。 後ろからは身を乗り出してそれを見て、首を傾げた。 |