ファイとの挨拶を済ませると、次に視線がくるのはのもと。
銀の髪と、紫苑の瞳、そして中性的な容姿。
少女に羽根を与え、力をも注いでくれた人。
は小狼の視線に目を瞬かせながら、ニッコリと微笑んだ。



「俺はがフルネーム。って呼んで」


「はい、さん」


「敬語はなし!俺が苦手だから。あと「さん」付けも却下な。宜しくな、小狼」



小狼と同じ年頃…もしくは少し上だろう。
笑顔と言葉からして、は少年。
人懐こいその笑みはファイとは違う心地良さがある。


(まるで前から友達だったみたいだ)


気兼ねしなくていい。
そんな感じすら受けるの印象。
小狼は戸惑ったすえ「…うん、」と言い直した。
そんな彼の言葉に満足そうな笑みを浮かべたは隣のファイへと視線を向けた。



「えーと。ファイさん、だっけ?俺敬語とか何とか苦手だから、タメ語でいい?ちなみに敬称も取らせていただくと俺、生きやすいんだけど



は敬語が大の苦手だ。
実際頑張って使うと「それは私を愚弄しているのか」とまで言われたことがある。
まぁ、一部の親戚に、だが。

ファイはの言葉に怪訝な顔一つすることなく、ほにゃらと微笑んだ。



「いいよー。宜しくねーちゃん」


「うん宜しく〜。でも俺男の子だからちゃん付けは苦手かな〜」


「うんでもこっちの方が呼びやすいから、そう呼んじゃダメかなー?」


「じゃあしょうがないな〜それでいこう〜」



のんびりとした応答のし合い。
がファイの喋り方を真似しているからだ。
そんなノリで、ファイは壁に寄りかかっているもう一人の来訪人に目を向けた。



「で、そっちの黒いのはなんて呼ぼうかー」


「黒いのじゃねぇ!黒鋼だっ!」



『黒いの』呼ばわりされた彼は青筋を立てながら自分の名を叫んだ。
でも全身真っ黒なのだからそう呼ばれてもしょうがないように思える。
むしろ、『まっくろくろすけ』と呼ばれないだけマシではないだろうか、と樹は心から思った。



「くろがねね」


「オッケー覚えた。さっきファイにも言ったけど俺敬語苦手だからタメ語でごめん〜。宜しくな黒鋼」



納得するファイと、片手をあげて挨拶する
彼はフンッと顔をそっぽ向かせる。
どうやら宜しくする気はないらしい。
なんとも自分に正直な人物だ。

ふ、と後ろに動きがあった。
小狼の方だ。
はゆっくりと後ろを向くと、青ざめた顔に遭遇した。



「どした?」



小狼の様子がおかしい。
というよりも、少女を見て青ざめているのだ。



「…サクラの身体が冷たい」


「…見して」



彼の発言に、はすぐに顔色を変えた。
先程までのほほん、としていた空気は真剣な、凛としたものに変わる。
侑子の庭で羽根と力を貰ったのもあってか、小狼は素直にに少女…サクラを見せた。

少し赤みがさしていた肌はまた真っ白に。
片手で手を取り、もう片方の手は彼女の頬へと持っていく。
まるで雪のように白い肌は、それのように冷たい。



「…やっぱり羽根一枚と俺の力じゃ…あまり効かなかったか」



の表情が歪む。
紫苑の瞳にはまるで白雪姫のように眠る少女が映る。
話が違うのは、ただ、目の前の少女は本当に死が近い状態だということ。

もう『気』は使えない。
羽根もない。
今すぐにこの分からない世界を走り回って羽根を見つけに行こうか。

そう思ったときだった。



「わ!え?」



小狼の小さな悲鳴。
彼へと視線を戻すと、何やらファイがマントの中に手を入れて動かしている。
それを見ては瞬時にモコナを取り出して。



「み、見ちゃいけませんっ!」



と目を隠した。
の頭の中には、あらぬ妄想で一杯だ。
『可愛いからって初めて会った人にこんな人前でそんな』とかこんなことだ。
黒鋼からも「なにしてんだてめぇ」とツッコミが入る。
それをなんとなく察したのか、ファイは違う違うーと暢気に手を左右に振った。



「これ、記憶のカケラだよねぇ。その子の」


「え!?」



取り出したのは一枚の羽根。
が持っていたものと同じものだ。



「君にひっかかってたんだよ。ひとつだけ」



不思議な模様の、綺麗な羽根。
ファイの手の中で少し光って見えるのは気のせいではない。
良かった、と安堵するの傍ら、彼はその羽根を少女の前へと持っていった。
まるで吸収されるように身体の中へと消えていく。
ホワッと手の中の白い肌が温かくなるのを直に感じた。



「体が…暖かくなった」



安堵の息と共に、小狼の表情が柔らかくなる。
まだ目を覚まさないまでも、少しは寿命が伸びただろう。
も顔にあてていた手をどかせて、自然と微笑んだ。







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