白い手の正体は、勿論、男の人のもの。
辿れば、そこには金色の髪があった。



「オレ、上行けるかもー」



どうやら、ではなくファイが行きたいらしい。
目を瞬かせていると、彼は小さくウインクをしてきた。



「…ファイが、戦ってくれるってこと?」


「んーそういうこと」



そういえば、この四人の中で戦っていないのはファイだけ。
のんびりとしているが、どこか蒼い瞳は光っているようにも見えた。



「階段わかりますか!?」


「ううん、でも行けると思うー」



ヘラリと笑って小狼の言葉に返事をする。
階段からは行かない。
ということは。



「どうやってだ」


「オレの巧断に手伝ってもらって、ちゃんみたいに」



そう、階段などいらないというのなら。
のように。

翼を、生やして。


ファイの背後、一瞬大きな鳥のようなものが見えた。
それが彼の巧断だろうか。
大きな翼で、彼を包み込む。

そしてそれが消えた後、ファイは空中へと浮かんだ。
のように翼を生やしたままではなく。
風を、纏って。



「飛んだ」


「しかも翼なし!風纏って!」


「つくづく何でもアリだな、巧断っていうのは」


「空中一回転とかしてるし!すっげ!身軽!」



空中へと飛んでいったファイを見て、三人それぞれ声をあげる。
本当に、彼自身が風のようだ。

それを見て、膨れたのはプリメーラだった。



「むっ!飛べるなんてずるいー!あたしだってできないのに!」



の後ろから、親衛隊の誰かが拗ねるプリメーラちゃんも可愛い〜とか聞こえる。
一つ一つの仕草が可愛いらしい。
黒鋼が顔を顰める中、プリメーラはニコリと笑った。



「マイ巧断ちゃんカモーンッ」



手を広げて、そこに神経を集中させている。
それに現れたのは、マイク。



「あたしの巧断の攻撃、受けてみなさーいっ!!」



彼女はニッコリと笑ってみせた。
よほど自信があるのだろう。
そういえば親衛隊が強くて可愛いとか言っていた。

一体どんな攻撃なのか。
三人ともども興味で見る中、彼女は口を大きく開いた。



「みんな!元気ー」



大きな声。
語尾に音符を入れながら言うその言葉は、文字になる。
そして。

その文字は物体化してファイへと飛んだ。



「ファイさん!」


「ファイ!」



ファイに向かっていったそれは爆発を起こす。
と小狼が声をあげた。

煙が上がる。
彼の姿は見えない。
二人で焦る中、黒鋼はただ黙ってその光景を見ていた。


冷静に。



「良く見ろ」


「え!?」



良く見れば分かるらしい。
小狼が促されるように、また視線を戻す。
逆に、は目を擦った。



「ちょい待ってちょい待って。俺目悪いから、目凝らすからちょい待って」



物事は待ってはくれない。
だが、はむなしくも制止を呼びかけ、また上を向いた。

爆発の煙はもくもくと上がっている。
そしてそれが消えていく中に、金色の髪が見えた。
風を纏ったまま、悠々と飛んでいる。



「びっくりしたー。あれも巧断かー。本当にすごいねぇこの国はー」



のんびりとコメントしているファイの姿。
少しでも心配した自分が馬鹿みたいだ。
小狼は素直に安堵の息を吐くが、は頬を膨らませた。



「びっくりしたのはこっちだっつぅに」



プリメーラの巧断は特級だという正義の声。
攻撃の面白さに喜んでいるモコナの声。
そして悔しがるプリメーラの声のもと、は少しばかり拗ねた。

ここから始まる怒涛の攻撃。
間髪入れない攻撃に、ファイはいつもと同じ笑顔のまま避けていく。

余裕、とばかりの笑顔だ。



「……えー。ファイ普通に余裕そうなんだけど」



本当に心配して損した。
なんで当たらないんだと悔しがるプリメーラに、簡単に「当たったら痛そうだから」と答えて。
正論ではあるが、深い余裕を見せているようにも見える。

これなら大丈夫そうだ。
ならば、がやるべきことは。



「…おい、どこに行くつもりだ」



黒鋼が低い声で制止をかけた。
縄はいつの間にか彼の手の中にある。
小狼も振り向く中、はあっけらかんと自分の巧断を出していた。



「んー。本当は正義のとことかに駆けつけた方がいいんだろうけど…今行くと危ないだろうし」



飛べるのはだけ。
今行ってもいいのだが、あの戦いにの巻き添えをくらいそうだ。
それは激しくエンリョしたい。
紫苑の瞳は逆の方向へと向いていた。

プリメーラとファイが戦う向こう。
彼女の攻撃が空中で爆発するのを見ながら、は傍にある巧断を撫でた。



「あのプリメーラの攻撃さぁ、もしかしてこの城の敷地以外に出てたら迷惑かなぁとか」



敷地内で爆発しているように見えるものの、間違った文字は全く別の方向へと飛んでいく。
それが敷地内で納まればいいのだろうが、もし全く関係ない民家に飛んでいってしまったら。

迷惑通り越して、大迷惑だ。



「だから、俺阪神城の敷地内で戦いが納まるように出来ねーかなって」



用は、見えない壁を作ればいい。
外に攻撃が出ないための。

それを出来るのは、の巧断、光竜と虎闇。
元々修理やら防護やらできる光竜。
破壊と称して、出ようとする攻撃を攻撃して、でないようにできる虎闇。

全く違うようで、同じことが出来る。
だからこそ、対。



「ちょっと行って、攻撃が敷地外に出ないようにしてこようかと思うんすけど、どーすか」



良かったらこの縄の端をくれ、とばかりに手をだす。
ただ黙って、小狼はファイを気にしながらにも目をやる。
黒鋼は紅の瞳でをしばらく見下ろした後、手に持っていた縄の端を投げつけた。



「勝手にしろ」


、気をつけて」



許可が出た。
は縄の端を結んで短くした後、ニッと笑ってみせた。
瞬間、背中には翼が生える。

片方は白い、天使のそれで、もう片方は黒い、悪魔のそれ。
ふわりと足を地面から離して、は笑った。



「じゃ、行ってきまーす」


「となりのカキはよくきゃくくうカキだっ!!」



プリメーラの間違いありの早口言葉を聞きながら、はそのまま城の敷地の端へと飛んだ。














第参拾話<<    >>第参拾弐話