「何やってんだ?プリメーラ」


「笙悟君!!」



プリメーラ、と呼ばれた女の子が彼の名前を呼ぶ。
がその場に崩れ落ちて息を吐く。
頭にあった手は勿論消えていたが、その名残のように温かい。
それにまた安堵の息を零す。



「おまえ仕事だろ。アイドルだろ!コンサートどうしたんだよ」


「だってー笙悟君、全然遊んでくれないんだもんー!!」


「え、何その理由。てか、何コンサートって」



顔を顰めて、偉そうに腕を組んだ笙悟。
それに反応したのは勿論、プリメーラだ。
理由は何のその、子供のようなもの。

が半目でその光景を見る中、傍にいた笙悟のメンバーが声をかけた。



「あ、プリメーラさんアイドルやってて、今日コンサートあるんすよ」


「え、マジで?なのにこんなことやったの?コイツと遊ぶために?激しいアイドルがいたもんだな


「おーい、コイツってのはやめろ。一応年上だから」



怒り通りこして呆れてしまう。
隣を指させば、嫌そうな顔と軽い打撃がとんでくる。
頭を軽く叩かれて、は小さく「うっ」と声を出した。



「それにまだ時間大丈夫だもん!会場そこの阪神ドームだし!」


「それにしたって何文化財壊してんだよ。知らないぞー怒られるぞー」


「笙悟君のほうこそ、いっつもアチコチ壊してるじゃない!何よーぅ!」


「なにぃっ!!」



何やら言い合いに発展。
まるでベタなお約束カップルのよう。

実際、プリメーラは笙悟にお熱のようだ。
遊びたいだけに、こんなことを起こすのだから。
それに親衛隊がここぞとばかりにそれを大声で叫んでいる。
本に載って公表してるだとかどうとか。

ここまで来るとシラけてくる。



「ナワバリ内で騒ぎになってるっつうから来てみれば!俺は学校と実家の手伝いで忙しいんだよ!近所に住んでるんだから知ってるだろ!」



取り出されたのは浅黄酒店という文字が書かれた腰に巻く形のエプロン。
中々渋いデザインだ。
どうやら実家の手伝いというのは、お酒屋の手伝いらしい。



「今も配達中だったんだぞ!」


「えーん!でもさびしいんだもーん!」



本当に子供っぽい。
のんびりとその光景を見ていると、辺りのメンバーは日常茶飯事と決め込んで、トランプをし始めた。

彼らの言い合いなど、どこ吹く風だ。



「だから笙悟君が気にいったって子をチームごと、うちのファンクラブに入れたら、その子に会うついでに遊んでくれるかなーって!」


「あほか。っていうか違うし」


「わーん!!」



そんなやり取りを見て、聞いて。
が思ったことは多々ある。

遊びたいのなら、もっと違うやり方があるだろうに、とか。
人を巻き込むな、とか。
子供か、とか。
自分が男なら、この女はアウトだなとか。


ほぼ呆れだ。
半目でその二人を見ていたら、小狼とファイ、黒鋼が集まって何か話している。
こっちには聞こえてこない。


(あ、ここにいたことって結構損かも)


何やらハミな気持ちになる。
あの表情からして真剣な話だろうに。

笙悟は全部の言い合いが終わったのか、小狼へと視線を落とした。



「俺が余計なこと言っちまったせいで迷惑かけて悪かったな、シャオラン」


「…あれ、俺には?」



何故か小狼限定に謝罪。
話からして、にも来てもいい謝罪だ。
だが、彼はちらりと見やって笑みを濃くした。



にはこれからも迷惑かけるの決定だから後で」


「え?あれ?おっかしいな。今これからも迷惑かけるって聞こえたんだけど。耳?頭?おかしいのはどこ?


「けど、気に入ったのは本当だぜ」


「あれ、またスルー?」



返事をしたと思ったら、また無視。
何だこの待遇の違い。
は何か悔しくて、そこらにいるメンバーに愚痴り始めた。



「ちょっと、おたくらのリーダー、放置好きじゃねぇの?女放っておいたり俺放っておいたり!


「あー、その気あるかもしんないっすね」


「やっぱり?絶対サドだよサド!」


「…聞こえてるっつの!」



ペシペシ、という乾いた音と共に、頭をまた叩かれる。
だけではなく、賛同した人までも。
同じように頭を抱えてから、笙悟は仕切りなおしとばかりに小狼に笑みを向けた。



「おまえ強いだろ。腕っぷしが強いとかじゃなく、ここが」



トン、という小さな音。
顔をあげれば笑んだままの、笙悟。
その彼の親指は、胸を指していた。

意味は『心』。
そう理解するのに時間はかからない。



「だからお前とやり合ってみたかったんだよ。巧断で」



ただただ純粋に。
戦ってみたいという気持ち。

強い、『心』の人と。


衝突で感じて、その人を理解する。
どんな『心』で、どんな『気持ち』で、どんな『瞳』で。
戦っているのかを。

それを理解したとき、自分は成長する。
自分のそれらを、再確認できる。
そして、また一歩進められる。


それが、たまらなく嬉しい。
これが巧断の戦いだ。

彼の瞳がそう、言ってる気がした。



「笙悟君の巧断バトルマニアー!ばかー!」


「ばかっていうな!せめてあほって言え!」


「…じゃあ、あほー」


「本当に言うやつがあるか!」



何気にそんな感情を感じた途端、プリメーラが空気を崩す発言をした。
何気に格好いい雰囲気だったというのに。
しかし、もこっそりと便乗した。
一応、小声で言ったのだがバッチリ聞こえたらしい。
また叩かれて、怒られてしまった。



「…分かりました」



そんなところに、冷静な声が届く。
まだ若い、その少年の声。

琥珀の瞳は真剣そのもので、傍らには炎の獣。



「その申し出、受けます」



戦いを決意した瞳は、力強く輝いている。
遠くからでも分かる小狼の強さ。

きっと羽根がそこらにあると確信したのだろう。
モコナが先程、騒いでいた気がする。



「…小狼…」



自分は手を出せないであろう戦い。
きっと、激しいものになる。
心配と同時に、反対の安堵がある。

相手が、笙悟だからかもしれない。



「お前ら手、出すなよ」


「FOWOOO!!」



メンバーも笙悟の気持ちを分かっているのか、手を出す気配すらない。
むしろ賭けまで始めている。
皆が笙悟に賭ける中、少数が小狼に賭けたりと、賭けとしては成立している。
彼らもどうやら、違う方向で楽しんでいるらしい。






「うえ?」



ゴーグルをかける笙悟に声をかけられる。
顔を即座にあげると、笑みを濃くした彼がいた。



「バリア、しっかり張っとけよ」



この言葉で、ようやくは理解出来た。
バリアを張っておけ、の台詞。
これからも迷惑かける、という言葉。
に戦いを申し込まない理由。

それは遠慮せずに、小狼と戦いをするということ。
辺りに、被害を出さないようにするのが、の仕事だということ。



「………………わかった」



返事に時間がかかったのは、戸惑ったから。
本当にこれでいいのか、とか。
小狼じゃなくて、でもいいのではないかとか。

だが、サクラの羽根を一番に探しているのは。
彼であるのなら。



「俺は、バリア頑張るわ」



巧断は強くなったり弱くなったりするらしい。
一番強くなるのは、自分が憑いている人間を守るとき。
だとしたら、小狼が望んでいるのはそういうことだ。

きっと激しい戦いになる。
だったら、が今出来ることをしっかりやらなくては。


紫苑の瞳が真剣さを増す。
笙悟はそれに、ニヤリと笑ってみせた。














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