戦いが始まる。
はその前に、笙悟に待ったをかけて、そこらにいたメンバーに話しかけた。



「あの、悪いんだけどさ」


「ん、どした?」



話しかけやすいのは何故だろうか。
そんなことを思いながら、は口を開いた。



「これからバリアに集中するんで、俺に攻撃当たりそうになったら、俺抱えて逃げてくんない?」



バリアは敷地から出ないように張り巡らされている。
面積は広い。
これに沢山の攻撃が加わるとなると、酷い集中力が必要になる。

こちらに攻撃が飛んできたときには、対処が出来ないかもしれない。
二人の戦いにが巻き込まれて、戦いどころではなくなって結局羽根が見つからないとなると、面倒だ。
真剣な顔でそう申し出ると、彼はあっけらかんとオッケーを出した。



「分かった、任せとけ。リーダーもそう言うだろうしな」


「あ、ありがと!」



基準はリーダー。
彼の思考を読み取るように、軽く笑んでいる。
信頼できる笑みだ。

これで安心は確保。
はペコリと頭を下げてから、小狼に向き直った。



「小狼〜!!俺のことは気にしなくていいから、本気で戦えよ〜!!辺りに被害は出ないように、俺頑張るし!!」



もし、これを心配してしまえば威力は落ちる。
それが心配のモトだ。

が大声で言うと、隣にいる笙悟は耳を押さえた。
かなり五月蝿かったらしい。
その代わり、小狼にはしっかり聞こえている。
しっかりと頷く姿が見えた。



「…よしゃ。じゃ、笙悟、始めていいよ」


「…お前、思ってたけど偉そうだよな」


「これ俺のアイデンテテーだから」


「それ言うならアイデンティティーだろ」


「あーもーいいから!今ボケてる場合じゃねぇから!じゃ、俺集中始めるんで後よろしく」



一方的に待ったをかけた挙句、一方的に終了。
笙悟のことを呼び捨てにしながら、はさっさと目を閉じた。

何も見えずに、ただ感じるのみ。
耳は聞こえているようで、聞こえないように。
しっかりと拳を握り、準備は万端。


結局、何を言ってもムダだと思ったらしい。
笙悟は一つ溜め息を吐いてから、小狼に向き直った。



「READY!」



それぞれ構えを取る。
各々、力の高まりを感じる。
も、いつでもバリアで攻撃を防げるように集中力を高めた。



「GO!!」



声と共に、力が衝突する音が響く。
大きなそれに、空気も。
まるで天地さえも揺れるような気がした。

炎と水。
熱気と冷たさの相対するものの戦い。
しかし、それを感じていてはダメだ。

感じているというのなら、それは集中していないことに繋がる。


(集中集中)


集中力で、バリアを強固にする。
同時に、自分は何も感じることができないように世界を遮断する。

見るもの、聞くもの、臭い、味覚、触覚、感覚。

全てを。


断ち切る。


『気』の修行のように。











大きな音が響き、あちこちが壊れていく。
城壁や屋根や岩。
それらが飛んでくるのを避けながらの攻防戦。

それを激しい戦いと言葉で括れるものではない。
まるで命のやり取りのよう。



「ヒュー、かっこいー小狼君」


「素直が取り柄のバカじゃあねぇようだ」



それを第三者として見ているのはファイと黒鋼。
攻撃が当たらないようにと、上へと移動していた。

下では小狼が真剣に戦っている。
炎を操りながらも、足で降ってきた破片を壊す。
その戦いぶりに各々感想を零した。



「おまえがただのふざけたヤロウじゃねぇってのも見抜いてたみたいだしな」



紅の瞳が鋭さを増す。
ファイの戦いと瞳を見て、小狼が零した感想。
それは、ファイはただの人間ではないという結論へと辿り着いていた。

黒鋼は元から、そういう疑惑を持っていた。
だからこそ驚くことはない。



「うん。遺跡発掘が趣味の男の子ってだけじゃないね」



言われたファイは、話を自分から逸らした。
今は小狼の話、とばかりにいつもの笑みで、彼を見つめている。

何を言っても逸らすだろう。
黒鋼はそのまま何も言わず、そう悟って瞳を少年へと戻した。



「まだ子供だけど、色々あったのかもね。彼にも」



真剣な琥珀の瞳。
貫かんばかりの信念。
戦い方。

子供だけれど、大人顔負けの表情。



ちゃんにも」



ファイはそこから、ゆっくりと青い瞳を遠くへと向けた。
笙悟のメンバーに囲まれながら、目を瞑っているが見える。

どんなに大きな音が鳴っても。
熱気を感じても冷たさを感じても。
何も感じていないかのように、集中している。

降ってくる破片は近くにいるメンバーが防いでくれているようだ。
はただ、自分の張ったバリアだけに集中しているのがよく伺える。



「戦いは慣れてないみたいだけど、凄い集中力持ってるし」


「『気』だか何だかじゃねぇのか」


「あはは、かもねー」



そう、『気』を使うからこそすぐに集中できる。
これも一つの真実だ。



「だけど」



これだけでは終わらないと感じられるもの。
小狼の瞳と同じようで。
違うような。



「それだけじゃないでしょーきっと」



ただの異世界観光だと言っていたけれど。
戦いに戸惑いを隠せてはいないけれど。

紫苑の瞳が黒くなるとき。
深い、何かを映す。
信念よりも深い、もっと大きな。


何かを。




紅の瞳も蒼の瞳も、真剣な子供二人を映す。

一人は戦いをして。
一人は敷地外を守って。



「…お節介でガキなだけな子供じゃねぇってことか、あいつも」


「そーいうことだろーねー」



ただの子供達ではない。
そんな二人の共通点。

大人組はのんびりと、自分達に攻撃が及ばないように見やっていた。














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