暗闇の世界には、何も届かない。
光も、音も、感覚も。
痛みすらも。


研ぎ澄まされるのは、感情だけ。



バリアはまだ壊れてはいない。
中では、激しい戦いが繰り広げられている。

それしか分からない状況。



薄くなったところを、意識して。
集中してまた、その壁を厚くする。


まだ大丈夫。



『我が主よ』



どこからか聞こえる。
誰かの声。



『我が主よ』



聞いたことのある声。
二つの声が絡まって、一つの声になる。

これが聞こえるのは、集中していないからではない。
逆に、集中しているからこそ。

巧断の声が、聞こえた。


(何?)


せめて、心の中でその言葉に応える。
彼らの姿は見えない。

今、彼等は自分と共にあるのだから。



『我が主よ、一度目を開けるがいい』


(…なんで?)


『見たほうが早い。部分的に集中せぬと、防ぎきれぬぞ』


(な……)



暗闇での話し合い。
静かなそれは、何かの衝撃に崩れ落ちた。



(なっ!!?)



バリアが崩れ去る音。
壊れるときの、衝撃が身体にも響く。
ぐらりと暗闇が歪む中、大きな声が聞こえた。



『目を開け!!』


「…っ!!」



巧断の大きな心の声が、心に響く。
反射的に、は目を見開いた。




青い空。
吸い込む空気。
誰かに抱えられている腕を感じる。

しかし、最初に瞳に映ったのは。



「何だアレ!!?」



阪神城を支える、大きな大きな人型の巧断。
見たことのあるそれ。
しかし、の知るそれは確か小さかったはず。



「お、意識がこっちに戻ったすか」


「あ!ありがと!運んでくれて!」



下ではを抱えて走ってくれたらしいチームの一人。
先程いた場所から移動しているあたり、危なかったのだろう。
その場に下ろしてもらうと、は大きくなった巧断を見上げていた。

可愛らしい顔が印象的な、その巧断。
その大きな手には正義がいる。



「正義!!どういうことコレ!!」


君!!」


「お前の巧断、めっちゃくちゃ大きくなってるんだけど!何食べたの!?


「ぼ、僕にもよく分からないんです!!何も食べてないですぅぅ!!



彼にもよく分かっていない。
彼の、巧断だというのに。

可愛らしい顔して、その巧断は口からビームを吐いている。
どうやらこれで、バリアの一部が壊れたらしい。
小狼と笙悟の特級巧断の激しい戦いを耐え抜いていたというのに。



「あー、何これ、強すぎだろ!」



これは意識して、攻撃する場所にバリアを張るしかない。
強固にするには、それしかないのだ。

真上に放つビームを見ながら、はすぐさまそこを見つめた。
睨みつけることでバリアは強固になっていく。
ようやくそれを通さないようになってから、は大きな巧断を見上げた。

見ようによっては、正義を守っているように見える。
手の平で大切に包んで。



「………ん?」



光るものを見つけて、は目を擦った。
大きくなった巧断の胸元。
強い力を感じる、それ。

見たことのある光。



「……あれ、羽根…?」



サクラの羽根。
形は見えないが、あの淡くも力強い光。
間違いようがない。



「モコナー!!あれ羽根っ!羽根羽根!!」


「うん!!小狼たちにもさっき言ったー!!」


「マジで!?俺出遅れた!?」



指さして思い切りアピールするも、もうすでに分かっていたものらしい。
遠くでは小狼達が真剣に話し合っている。

これでは置いてけぼりだ。
やはりは場所を間違えたらしい。
笙悟のメンバーに囲まれながらも、は溜め息を吐いた。


しかし、次の瞬間。
大きな正義の巧断の口に、エネルギーが溜まっていくのが見える。



「げ、ヤバ!!」



今迄とは絶対、違うビームを吐こうとしてる。
しかも、とてつもなく大きな。
巧断の視線を追って、そこへと手を動かして意識を集中させる。

キュアッという特殊な音。
それが発射の合図。


大きな音と共に、波動が空気を揺るがす。
閃光が青空を奔る。
振動する世界。

屋根が粉々になるその光線。
破壊級というものがあるのなら、それは特大。
バリアにぶち当たるそれに身体が震え、は顔を顰めた。



「…っく…っ」



自分の巧断に攻撃が当たれば、自分にも振動が来る。
ビリビリと大きな力を感じる。

城から落ちたプリメーラとモコナを笙悟が巧断に乗って助けている。
しかし、はそれどころじゃない。
既に、あの巧断は次の光線を撃とうとしている。

違う、方向へと。



「か、カメハメ波〜!!


「何すか、それ」



ボケることは忘れずに、またバリア壁を厚くする。
近くで誰かがツッコむ言葉が聞こえる。

しかし、それは、また大きな光線の音に遮られた。


このままでは、また違う方向に次々と攻撃していきそうだ。
無差別に。



「ま、正義!どうにか止めらんない!?」


「が、頑張ってるんですけど!!」



確かに先程から止まれ、と涙ながらに叫んでいる気がする。
それでも止まらない。


(…羽根か)


羽根が彼の巧断を必要以上に強くしてしまっている。
故に、心で制御出来ない状態なのだ。

何せ、あの羽根は強い心の結晶のようなもの。
正義の心より、それが強いために暴走している状態。



「ふむぅ…」



このまま次々とあちこちバリアを動かすとなると、疲れてしまう。
せめて一箇所に集中させた方が楽だ。
どうすればいいのか。

一つの攻撃が終わったとき、は口を大きく開いた。



「光竜!!虎闇!!俺を空に!!」



答えは一つ。
攻撃を一箇所に留めるには。

囮が必要だということ。


攻撃と攻撃の間の僅かな瞬間。
それがバリアを解く時間。


バリア壁として厚くなっていた透明なそれが、ぐるぐると渦を巻いて。
一つの塊となったときに、へとすぐに飛んできた。
透明なそれは、風となって身体を包む。

瞬き一つ。
その、一瞬に背中には白黒両方の翼が生える。



「連れてって!!あの巧断の前に!!速く!!」



身体など千切れてもいい。
とにかく速く、そこへ行かなくては。

大きな叫びは声よりも早く伝わった。
足は思うよりも早く宙へと浮かぶ。
風を切り、身体は千切れるような痛みを生む。

だが、そんなことは関係ない。



「止まれー!!」



正義の叫び声が痛々しく感じる。
己の巧断なのに、自分が制御出来ないことに対する悲しさ、悔しさ。
全部が混ざっているそれ。

そんな彼等の前に。
は両手を広げて立ち塞がった。














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