|
本当ならば、羽根を取りに向かえばいい。 だが、それはの役割ではない。 「君!?」 正義の驚きの声が上がる。 しかし、はそのまま両手を広げて。 白と黒の翼を羽ばたかせて、紫苑の瞳を開いたままそこに浮いていた。 後ろには小狼とファイ、黒鋼がいる。 「小狼!!お前は巧断から羽根取り戻せ!!俺が囮になるから!!」 「!?」 「君、逃げて!!また攻撃が…!!」 出来るだけ大きな声で、話す。 その言葉に、小狼と正義が目を見開いた。 しかし、それも一瞬。 また大きくなった巧断の口にエネルギーが溜まっていく。 狙いは、だ。 しかし、狙われている当人は冷静にそれを見て。 集中力を、自分の前方へと集める。 「俺なら、絶対大丈夫」 一人ではない。 戦ってくれる、共にいてくれる。 巧断がいる。 ドン、という大きな音が光線と一緒に吐き出される。 片方の瞳を紫苑に。 もう片方の瞳は漆黒に染まる。 両手は、前へと出して。 空気のような透明な壁が、光線を吸収して。 それを内部で破壊していく。 ビリビリと振動が身体全体に伝わる。 大きな力が、心にも伝わってくる。 しかし、は顔一つ顰めずに、そのまま口を大きく開いた。 「俺は、絶対に、大丈夫うぅぅるああああっ!!」 大きな、確信にも似たその声は大空に響く。 言い切ったところで光線は出し終わり、全てを消しきった。 また時間に猶予が出来る。 それは先程から見ていて分かること。 はそのまま、勢いよく後ろを振り返った。 「あの子を助けんの、お前の役目だろ!小狼!!!」 真剣な瞳が琥珀の瞳を貫く。 彼の身体が小さく震える。 炎の巧断が、反応した小狼へと擦り寄った。 まるで、その通りだと言っているかのよう。 はその光景を見て、口の端を上げてみせた。 「だったら、俺はお前を援護する!!!」 小狼が羽根を取り戻して、姫様を助ける役だというのなら。 必要不可欠なのは、仲間の援護役。 攻撃が彼に向かわないように、囮として存在して。 尚且つ、自分や周りに危害がないように出来る。 それが、今の自分。 「君!!また…!!」 「おう!」 正義の声に、はまた前を向いた。 またエネルギーが溜まって、撃とうとする彼の巧断。 両手をまた前へ掲げて、大きく口を開いた。 「俺は、俺の好きな通りにするから!!小狼も、自分の信念貫け!!」 好きな通りに。 大きな音と共に目掛けて、大きな光線が降り注ぐ。 正義が叫ぶ中、微笑んでそれを防いだ。 友達になりたいから。 他にも理由はあるけど。 とにかく、小狼を助けたい。 そのために、巧断に協力を願ったのだから。 「どうする気だ」 「…さくらの羽根を取り戻します」 黒鋼が隣で歩き出す小狼を見下ろす。 紅の瞳には決意の琥珀の瞳。 その先には、攻撃を防ぐが羽根を広げている。 「あのでかいのと、どう戦うつもりだ。ヘタしたら死ぬぞ」 あの攻撃の破壊力は抜群。 阪神城の屋根はかすっただけで、跡形も無くなってしまった。 それほどのものを直接当たってしまえば、死ぬ。 戦いを知らない人でも分かる、その強さ。 小狼は、ゆっくりと振り返った。 「死にません」 ゆっくりと。 正確に。 しっかり紡ぐ言の葉。 「まだやらなきゃいけないことがあるのに、死んだりしません」 この旅の目的。 サクラの羽根を、取り戻すこと。 それは始まったばかり。 全てを集めずにして、死ぬことはできない。 自分のためにも。 サクラのためにも。 勿論、サクラを思う多くの人々のためにも。 「それに」 大きく響く音。 空気が振動するそれを、防ぐ人影。 それを後ろに感じながらも、琥珀の瞳は黒鋼とファイを見つめていた。 「が、一緒に戦ってくれます。……一緒に」 出逢って数日。 一緒にいてくれて。 一緒に探してくれて。 一緒に、サクラを見てくれて。 今は、自分の好きなようにやると、囮になってくれている。 サクラを助けるのは、小狼だと。 そう言い切って。 それはどんなに。 心強いことか。 きっと、君は知らない。 それでも構わない。 一緒にいてくれるからこそ、頑張れる。 一緒に戦ってくれるからこそ、共に死ぬことはない。 数日で築かれた、信頼。 それは深いものではないけれど。 「だから、死にません」 琥珀の瞳は、強く輝く。 拳はしっかりと握られて。 真剣な表情が、黒鋼の紅の瞳とファイの蒼の瞳に映る。 勿論、小狼の背後にある、翼を広げたの背中も。 小狼の決意を、見て、感じる。 黒鋼がそれをただただ見つめる中。 微笑んだのは、ファイだった。 「んん。ここは黒ぴーが何とかするから行っておいで」 「って!俺かよ!!」 黒鋼に押し付けるあたり、ファイらしい。 勿論、冗談半分本気半分。 いきなり役割をあてられた黒鋼はこめかみに青筋を作りながら声を荒げた。 これも数日で慣れつつある情景の一つ。 小狼はそれに、小さく笑った。 「……行ってきます」 変わらぬ情景に。 送り出してくれる彼らの意思を感じて。 背中を、向ける。 琥珀の瞳が巧断を見つめて、足は地面を強く蹴り上げる。 炎の巧断がそれを助けるかのように、小狼を支えて同じように跳ぶ。 ただの跳躍ではなく、遥か数メートルを跳ぶ彼の背中を、大人二人はただ見つめるしかない。 「小狼君は強いねぇ、色んな意味で」 ファイの独り言は、黒鋼にしか届かない。 蒼い瞳は悲しみを映していたが、口元は笑んだまま。 子供が一生懸命に、覚悟して行動する。 自分達よりも幼い子が。 真剣になって、諦めをも見せずに。 「彼にどうして炎の巧断が憑いたのか、分かる気がする」 信念は炎のように揺らめき。 けれどそこにしっかりと存在する。 情熱と一途さを、持ち合わせて。 「!!」 「お、来た?」 空中で話し合う子供二人。 はバリアを張ったまま、ニヤリと笑ってみせた。 逆に、小狼は真剣な顔で近くの電灯の上に、巧断と一緒に降り立つ。 大きな爆発を起こし、正義の巧断の足元をぐらつかせながら。 「小狼君!!」 正義が気付き、名前を呼ぶ。 つぶらな彼の瞳には、見たことのない強い心が映っていた。 「おれには、探してるものがあるって言いましたよね。今、君の巧断の中にそれがあるんです」 正義の巧断の中心。 力強い光が零れているのが分かる。 元の彼の巧断には、なかったもの。 それに気付いていたのか、正義はそれを指さした。 「こ…これですか!?」 「それを取り戻したいんです」 大切なサクラの羽根。 これがなければ、もしかしたら死んでしまうかもしれない。 それを求めて、ずっとずっと、この世界を歩き回った。 手にいれなければ。 その心が瞳を強くする。 はそれにまたニヤリと笑った。 「でも!今、僕の巧断は全然言うこと聞いてくれないんです!」 どん、とそれを肯定するかのように放たれる光線。 はそれを見て、またバリアに力を込めた。 何発も連続してやられていては、集中力も尽きてくる。 バリアの隙間から、の身体に赤い線が走った。 「っ!」 「君!!」 掠り傷。 頬と手足にそれぞれ軽いものを作りながらも、瞳は諦めていない。 黒と紫苑のそれは、しっかりと正義の巧断を見つめていた。 「君!大丈夫ですか!?危ないから…!!」 「ただの掠り傷だっての!小狼!!行けっ!!!」 ここは任せとけ。 はまた、笑んでみせた。 |