雨に濡れて。

今は泣いているのだろうか。




サクラのことはモコナに任せるとして、は静かに窓際に立った。
雨が流れるように落ちていく。
下では、その中立ち尽くしている小狼の姿があった。


(小狼…)


サクラの羽根は取り戻した。
彼女も、起きた。

だが。


(辛い、な…)


対価とはいえ、辛い選択をしたものだ。
大切な人に、誰かと問われたとき。
その人の前で泣かないで、笑顔で頑張って。

自分にとっては大切な人だというのに。
その人にとっては、知らない人だという事実。


それは、変わらない。



雨に濡れて、立ち尽くす彼の姿は。
表情を見ないまでも、痛々しいもの。

胸を、締め付ける。


(何も、出来なくてごめん)


自分にはどうすることも出来ない。
友達になりたいと願ってばかりだというのに。
行動は伴わない。

行動したとて、変わらないけれど。
けれど。


何か、してあげたかった。






「泣くかと思った。あの時」



の隣から声が出る。
高くも優しい、男の声。
はそのまま、顔を上げずに小狼を見続けた。



「サクラちゃんは小狼君の、本当に大切なひとみたいだから」



いつの間にか、両隣にファイと黒鋼が立っている。
サクラには聞こえないように、静かに。
囁くように。
ファイは口を開いた。



「だからこそ、「だれ?」って聞かれた時、泣くかと思った」



蒼い瞳も、紅の瞳も。
雨の闇に浮かぶ、茶色の髪を映す。
と同じ風景を、見る。



「今は…泣いてるのかな」


「さぁな」



雨に濡れながら。
涙を誤魔化すように。

声をあげずに。
唇を、かみ締めて。
我慢するかのように。


泣いてるのだろうか。



「けど、泣きたくなきゃ、強くなるしかねぇ」


「うん」



泣くのは、弱さだろうか。
窓辺に額をあてると、冷たさが伝わってくる。

冷たい雨の中を。
君が泣いているのなら。


(…お願い)


言葉を出さずに。
心で伝える。
彼らはきっと、分かってくれる。



「でも」



小狼に炎の巧断が擦り寄るようにするのなら。
包み込むように。
雨を凌ぐように。

翼を、広げて。



「泣きたい時に泣ける強さも、あると思うよ」



の巧断だけではない。
ファイの巧断も、黒鋼の巧断も。
各々の翼を広げて。

泣いている彼を、優しく包み込んで。



「…うん」



サクラの前では泣けないから。
だから。



「今は、泣いて、いいと思うよ」



今は。
彼女の見えないところで。
涙を隠しているところで。

泣いてもいい。



「泣くことが、弱さじゃない。泣かないことが、強さじゃない」



逆もある。
泣けないことが、どんなに辛いか。
は知っている。

黒鋼とファイが、隣に佇むをちらりと見る。

紫苑の瞳はユラユラと揺れて。
しかし、口は優しく、笑んでいた。



「…これから、一杯頑張って。一杯笑えば、いい」



今は泣いて。
これからは、笑おう。

一緒に頑張って、一緒に笑おう。


サクラと。

モコナと。

ファイと。

黒鋼と。


、と。





小狼に握られていた、手が。
すごく、温かかったことは。

サクラしか、知らない。