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サクラの目覚めから一夜。 お昼となってもまだ眠っている彼女を寝かせたまま、四人は街へと繰り出していた。 お世話になった正義にお別れと礼を言うためだ。 独特なソースの焦げた匂い。 今日も桃矢や雪兎に似た彼らが働いている。 良い音が響く中、五人はお好み焼きを食べていた。 「正義君、ほんとうに有り難うございました」」 昨日よりは小狼は精神的に落ち着いたらしい。 まだ、表情に翳りは見えるが、それも普通の人なら分からない程度のもの。 黒鋼とファイの間で、はお好み焼きを頬張りながら二人の姿をじっと見つめている。 正義は俯きながら、ゆっくりと口を開いた。 「僕も…巧断もずっと弱いままだったから。だから…」 零れる涙を拭いながら、彼はしっかりと顔をあげた。 満面の、笑みで。 「だから…!ちゃんと渡せてほんとうに良かったです!!」 そう言い切った。 色々吹っ切れたようだ。 自分の弱さと、巧断の弱さを超えて。 は黒鋼とお好み焼きと取り合うモコナに、一口分あげながら口を開いた。 「正義は強いじゃん」 「え?」 「俺よりも、絶対強いよ」 驚く正義に、は笑顔で言い切った。 があげたお好み焼きは、綺麗にモコナの口に消えていく。 それを確認してから、また自分の口へと食べ物を運んだ。 「だって俺、お前みたいに、誰かのために頑張って何かするなんて出来ねぇもん」 肩を竦めて、軽く言う。 食べながらのために、少し汚い気がするがそれはご愛嬌。 の言葉に、小狼もしっかりと頷いた。 「弱くなんかないです。戦うことだけが強さじゃない。誰かのために一生懸命になれることも、立派な強さです」 正義は、小狼のために頑張った。 会ってまもなく、見ず知らずの彼のために。 一生懸命に、痛みや熱さを我慢したりして。 普通の人には出来ないことだ。 正義は目を見開かせた後、また溢れる涙をぐっと拭った。 「有り難う、ございます!」 大きく、その言葉を出して。 食事に集中している黒鋼とモコナ以外、全員が微笑む。 ほんわかした空気が流れ、皆がお好み焼きに箸を伸ばした。 近づく靴音など、気にもせずに。 「よう」 正義の隣でぴたりと止まる人影。 聞いたことのある低い声。 促されるように皆が顔をあげて、最初に声をあげたのは正義だった。 「笙悟さん!」 「…と、そのチームの人たち」 突然の笙悟登場に驚く面々。 しかしはその後ろのチームのメンバーに驚いていた。 何せ彼のメンバーは何十人。 店内がごった返しになってるのを見て、を顔を引き攣らせた。 「うちのチームの情報網も捨てたもんじゃねぇな。お!コゲるぞ、喰わないと。あ、俺も豚モダン、んで虎コーラ」 「はーい」 勝手にやってきて、勝手に正義の隣に座っている。 注文するあたり、食べる気満々だ。 辺りで他のメンバーも思い思いに頼んでいる。 雪兎に似た人物は笑顔で承った。 これで店の繁盛と忙しさは間違いなし。 彼が桃矢に似た人物に王様と叫んで注目されると、小狼は申し訳なささに縮こまった。 しかし、それよりも。 「…………」 「……………」 は見てしまった。 笙悟が来たとき、黒鋼の気持ちが食べ物から離れてしまったとき。 彼の持っていたお好み焼きを、モコナが食べてしまった瞬間を。 モコナは我関せず、と黒鋼に背中を向けている。 口をもくもく動かして。 素敵な笑顔を零しながら。 紅の瞳が、モコナを射抜くかのように見つめている。 もついつい、目の前のそれに目を奪われてしまっている。 口も止まってしまうほどだ。 次の瞬間。 「きゃー」 「ぎゃーっモコナー!!」 モコナの耳ががっしりと大きな手で掴まれ、その目が大きく見開かれる。 めきょっという変な音と共に。 そのギャップと、尻尾が鉄板に近づくそれに、は悲鳴をあげてしまった。 反射的にモコナのお尻を支える。 「尻尾!尻尾危ない!!ちょ、黒鋼!許してあげて!!」 「許さねぇ!」 「お好み焼きまだあるから!!モコナはちゃんと俺が面倒みるからー!!」 「〜!」 まるでペット飼って〜ダメだ、の家族みたいな状態。 鉄板の上で焼かれそうなモコナは涙目だ。 ファイはの隣でのんびりと笑顔で鑑賞中。 正義や小狼、笙悟は歓談中。 全員あてにはならない。 必死に考えて、懸命にモコナを助けようとするしかない。 「ほら黒鋼!お好み焼き焦げるよ明日も焦げちゃうよ!!」 「明日が焦げるか!」 「いいから!食べないとほら!」 黒鋼を黙らせるために、は箸で持って彼の口に思いっきり突っ込んだ。 火傷して怒られると困るので、ちゃんと自分の皿に取っておいたものだ。 食べ物によってふさがれた口。 勿論言葉はない。 その間緩まった手からモコナを受け取った。 「〜!!恐かった〜!!」 「お〜おかえり〜!!」 抱きついてくるほわほわとした柔らかいもの。 は片手で抱き返し、もう片手で焦げてきたお好み焼きを拾い上げる。 皿が空いているファイと黒鋼、のそれに乗っけて終了。 ようやく息がつける。 「モコナ、お好み焼きは俺ので我慢してくれな?」 本当は黒鋼のだからこそ、からかいがいがあるのだろうがこっちとしてはハラハラものだ。 何せ振り回されるだろう腕で被害にあたるのは自分なのだから。 モコナをファイ側へと座らせて、お好み焼きを口の中に放り入れる。 とりあえず、尻尾が焼かれそうだった恐怖を反省し、食べられば良いという思考に変わったようだ。 また美味しそうに食べ始めるモコナを見て安堵の息。 黒鋼も未だ睨みつけながらも、とりあえず今は目の前のお好み焼きを食べたいらしい。 また無言で食べ始めた。 「お疲れー、ちゃん」 「何、お前ら家族?」 ファイと笙悟の言葉に、もう疲れ気味の苦笑を零すしかない。 小狼が焦って否定してくれたのを少し幸せに思いながら、も自分のためにお好み焼きをつついた。 |