結局お好み焼き屋の中では、食べることに集中していた。
お腹を満たして会計を済ませて外へと出る。
温かい陽射しが、心地よい。



「いつまで阪神共和国にいるんだ?」



笙悟らも一緒に出てきて、その質問が出てくる。
そういえば、別れも兼ねているのだった、とと小狼は顔を見合わせてから、彼へと視線を向けた。

ちなみに黒鋼はまだお好み焼きの怨みを持っているらしく、モコナを潰している。
ファイがそれに笑って対応しているが、何とも子供らしい大人というか。

さすがにこれ以上、モコナを助け出せない。
はその場を見ないようにした。



「もう次の世界…いえ、国に行かなければならないんです」


「そっか」



小狼がそう言うと、笙悟やそのメンバーは眉の端を下げた。
そしてスッと手を差し出す。
握手の意図だと気付いた小狼はすぐに自分の手も差し出した。



「バトルだけじゃなく、あちこち案内してやったりしたかったんだけどな。プリメーラも残念がるな」



軽く握られる手と手。
違う世界でも、変わらない感情。
笙悟は、にも自分の手を差し出した。



とも、結局戦えなかったし」


「いや、俺は戦わなくて良かった!絶対良かった!!」



そういう意味で握手。
力を込めて言う言葉に、笙悟はケラケラと軽く笑った。



「そうか?絶対楽しいと思うぜ?」


「断じて拒否」



離れた手と違う手で大きくバツを作る。
身体を使っての拒否だが、笙悟は笑うだけだ。
勿論、周りのメンバーも一緒に。



君」



正義から声がかかる。
彼も小狼と握手を交わしたらしい。
ならば、とも手を差し出した。



「おう、正義。色々有り難うな。お好み焼きとかお好み焼きとか」


「いえ、僕も、沢山教えてもらえて、よかったです!」


「何も教えてねぇんだけど…ま、いいか」



一体何を教えたのか分からない。
けれど、それを聞く気にもならない。
はそのまま、笑顔で正義と握手を交わした。

温かい手が離れる。
は、そのまま小狼の隣に立った。



「また、この国に来たら会いに来ます。必ず」



もう、会えないかもしれないけれど。
もし、また戻ってこれたなら。

お世話になった彼らに。

必ず、会いに。



「元気でー!!」



正義が声をあげて別れを告げる。
隣では笙悟達全員が声をあげて笑って送り出してくれる。

そんな声を聞きながら、小狼達は全員背中を向けた。
黒鋼以外、全員笑顔で。



「最初の世界が、ここで良かったな」



小狼の横をつついて、は笑顔で言い切った。

平和であり、沢山の良い人たち。
衣食住が全て備わったここ。
こんな幸せなことが、最初の世界で叶うなど。



「うん」


「そうだねー」



小狼がしっかりと頷く中、ファイも同意を示す。
のんびりとした声と柔らかい笑顔に、はどこか安堵を覚えた。
そして、頭には軽い衝撃。



「モコナが頑張ったから〜!」



衝撃の正体は勿論、白いフワフワのモコナ。
小狼の頭の上から飛び移ったのだ。
大して痛くないが、は上に乗ったモコナの頭をどうにかよしよしと撫でた。

そういえばモコナのお気に入りだろう黒鋼がいない。
後ろを振り返って探してみれば、意外とすぐ近くにいた。



「……雑誌?」



近くにある本屋でじっと一つの雑誌を見つめている。
表紙ではプリメーラがどうとか書いてある。

彼女が気に入ったのか、それとも雑誌が気に入ったのか。
頑として動かないまま見つめている。
まるでオモチャ屋で欲しいものを見つけたときの子供のようだ。



「あー、アレ、プリメーラさんと一緒にいた人たちが持ってたやつだねー」


「え、アレ?プリメーラ特集好きなの?黒鋼」


「んー、違うとこ見てた気がするなー…」



ファイが思い返しているが、には全く記憶にない。
どうやら、がバリアに集中している際に見せてもらったらしいが。

とにかく動かない。
その雑誌を持って、見てそのまま。
とファイがのんびりと止まって見て話していても全く気付かない。
戸惑うのは小狼のみだ。



「……小狼、買ってあげて。あれ、絶対買うまで動かないから、きっと」



大きい子供がいる。
はまるで自分が大人になったように、フルフルと首を振った。
溜め息を吐いて、両手で「やれやれ」という意味を込めて。
勿論、顔は緩んでいるが。

モコナも同じような仕草を頭の上でやっている。
笑うファイの傍ら、小狼は苦笑を零して財布を持って黒鋼の元へと歩いていった。


遠くの歓声。
正義と笙悟らから聞こえてくる。

何が起こったのかは分からない。

けれど。


嬉しそうな声に、は微笑んだ。



「…さよなら。元気で、幸せに」



聞こえないであろう言葉。
しかし、はそれを気にせずに、彼らに向けて口を開いた。
隣にいるファイには聞こえただろうか。
だがそんなこと、関係ない。

雑誌を無事に買えたらしい二人が戻ってくる。
心なしか、黒鋼は嬉しそうだ。
勿論、無表情だが。

その姿にはまた微笑んで、歩みを進め始めた。
これからも旅を続ける、皆を感じながら。













第肆拾話<<    >>第肆拾弐話